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特殊詐欺被害過去最悪 “だますふり作戦”で被害防止へ

  • 2023年12月21日

 

愛知県ではことし特殊詐欺の被害件数が過去最悪となり危機的な状況だ。
「私はだまされない」ではなく「誰もがだまされる」時代。警察は新たな作戦に乗り出した。
NHK名古屋放送局 記者 豊嶋真太郎(2023年12月7日「まるっと!」で放送)

突然の電話「まさか詐欺とは…」

10月6日金曜日午前11時前。
名古屋市に住む89歳の女性の自宅の電話が鳴った。

「いったい誰だろう。妹かな」。
そう思って受話器を取った女性。電話口で相手が名乗ったのは、まるで心当たりのない人物だった。

「恐れ入ります。私、熱田警察署のハシモトと申しますけれども」

何か警察のお世話になるようなことをしただろうか?
戸惑いながら話を聞く女性に、電話口の男はこう切り出した。

女性の自宅の固定電話には詐欺の音声が記録されていた

「実は先週の金曜日に、うちの警察署で詐欺と空き巣に関与していた銀行職員を2人逮捕したんですけど。犯人があなたの自宅を狙っていたというふうに言っているんです」

突然告げられた、まったく身に覚えのない話。
当時、女性は家事に追われていて、特に話に気を留めなかったという。

「まさかそれが詐欺だとは思っていなかったので、ふつうに話を聞いていました。洗濯したり、家の中をあっちこっち動きながら電話していたので、何も感じなかったというのが正直なところです」

男はさらにたたみかける。

「犯人に職務質問したら、あなたの名前、住所が載った名簿が出てきたんです。あなた名義のキャッシュカードも出てきたんですが、手元にあるカードがなくなっていないか、確認してもらえますか?

ひょっとしてどこかでカードを落としてしまったのか?
慌てて家の中を探してみたが、カードはすぐに見つかった。
女性が手元に2枚のカードがあることを伝えると、男はこう念押しした。

今手元に2枚のカードがあるということですね

男はこのやりとりで、女性が持っているカードの枚数を確認。
その上で、犯人が持っているカードは偽造されたもので、それを使って口座から20万円が引き出されていることを告げた。

「どうすればいいのだろう」。
戸惑う女性に、男は“助け船”を差し出してきたという。

「特殊詐欺の被害金を補填する制度ができたっていうんです。でも銀行に行って警察に行って、裁判所にも行かないといけない。その手続きが面倒で。そしたら、警察が『代わりにやりますよ』って言ってくれたんです。ああ、やってくれるならいいかと思ったんです

男は手続きのために自宅に同僚を向かわせると説明。
電話を始めてから、およそ2時間後、自宅に警察官を装った特殊詐欺の“受け子”が現れた。

実際の映像

“受け子”は、偽の警察手帳を見せて玄関でカードを受け取ると、無言のまま立ち去ったという。
女性はその日のうちに、友人の指摘で詐欺に気づいたが、そのときには現金100万円が引き出されていた。

「あまり人の話を信用しないほうがいいのかな。でもやっぱり警察っていわれると信用しますよね。世の中に私みたいな人、結構いるんじゃないかな」

その後“受け子”は詐欺と窃盗の罪で逮捕・起訴された。

被害者の8割超 被害に遭うとは考えず 対策は…?

「私はだまされない」。
そう思って、うその電話を信じてしまう人は少なくない。
愛知県警察本部が、詐欺の被害に遭った約600人を対象に行ったアンケート調査では、84%の人が
「自分は被害に遭わない」とか「考えたこともない」と回答した

誰もが詐欺の被害者になるかもしれないという意識を持ってもらうためにはどうしたらいいのか。
名古屋市にある熱田警察署では新たな取り組みを始めた。
その名も“だますふり”作戦だ。

電話をかけるのは特殊詐欺の捜査や被害防止を担当する4人の警察官。
4人が口にしたのは…。

娘のふりをした警察官が電話をかける

「お母さんわかる?私だけど、もしもし。私だけどわかる?」

この警察官は偽の区役所職員役

「早急に手続きをしないと、お金が戻ってきませんので」

聞こえてきたのは典型的な特殊詐欺の手口。
犯罪を取り締まる側の警察官が、あえて詐欺グループになりきって高齢者に電話をかけ、うその電話を見抜く力を身につけてもらうのが狙いだ。
電話をかける高齢者にはあらかじめ、一定の期間中に訓練の電話があると伝えていたが…。

「大丈夫です。こちら振り込むだけですので」

「私はお金出さんでもいいのね?」

「そうそう」

この女性は、郵便局職員を装った警察官に銀行の情報を教えてしまった。
電話を終えたら、すぐに訓練だったことを伝え、注意を呼びかける。

「訓練やるって言っていたじゃないですか。今の電話、訓練だったので大丈夫ですよ」

82歳の女性 途中で詐欺だと気づいた

「ちょっと慌てるね。きょうでもちょっとドキドキしたからね。本物なのかな、本当に詐欺の人なのかなと思った。こういうことあったから用心するからね」

熱田警察署 石川長典 生活安全課長

「実際に高齢者の方に体験していただくことで、被害防止のきっかけになればと思って企画しました。どうしても自分だけは大丈夫、だまされないと思っている方が多いので、常に危機感を持っていただければ」

追いつかない摘発 大切な財産を守るために対策を

愛知県で11月末までに発生した特殊詐欺の件数は1246件で、過去最悪を更新している。
警察も詐欺グループの検挙に力を入れているが、海外を拠点とするグループが増えていることや、末端の“受け子”や“出し子”を検挙しても、グループの全体像を解明するのが困難なこともあり、急増する被害に追いつけていないのが現状だ。

詐欺グループは「私はだまされない」と思っている人を狙い、巧妙な手口で金をだまし取っていく。
だまされないためのポイントは、▼電話でお金やキャッシュカードの話をされたら、すぐに家族や警察に相談すること、▼そもそも知らない番号からの電話には出ないようにすることだ。
警察は、大切な財産を守るために注意して欲しいと訴えている。

  • 豊嶋真太郎

    名古屋放送局 記者

    豊嶋真太郎

    2019年入局。横浜局、小田原支局を経て、2022年8月から名古屋局。名古屋市政担当を経て、現在は事件・事故の取材を担当している。

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