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進む県立高校改革 ~役割を変える夜間定時制~

2022年12月16日

愛知県で進められている県立高校改革。中高一貫校の設立や通信制の拡充とともに、夜間の定時制高校のあり方も見直されている。全国的には、志願者が減少している夜間の定時制だが、愛知県では外国にルーツのある生徒たちを中心にニーズが高まっている。役割を変えつつある夜間定時制の現場を取材した。

(NHK名古屋 記者 佐々木萌)

変わる夜間定時制の役割

午後5時ごろ。愛知県豊田市にある豊田西高校に、続々と生徒が集まってきた。

夜間の定時制は、まず給食から。お腹を満たしたあと、午後9時まで4コマの授業を受ける。

豊田西高校の場合、定時制に通う87人の生徒のうち、半数近くが外国にルーツのある生徒だ。

生徒のひとり、赤嶺エリアスさん(17)は、4年前に来日した。父親がボリビア人、母親はブラジル人で、家庭での会話は、スペイン語やポルトガル語、英語。日中は、自宅で日本語を勉強し、夜この学校で学んでいる。

中学校では、日本語が十分に理解できず、さみしい思いもしたという赤嶺さん。この学校に通いながら、目標もできたとうれしそうに話してくれた。

赤嶺エリアスさん

「いちばん好きなのはバドミントンの部活です。部活はすごく楽しいなと思います。日本語だけの勉強ではなくて、数学とか5教科の勉強も大好きなので、大学に進学して天文学の勉強をしたいと思っています」

働きながら、学び直しに取り組む人もいる。

安里ブルーナさん(34)は、日系ブラジル人の両親とともに3歳のころに来日し、日本とブラジルを行き来してきた。16歳で働き始めたため、高校は卒業していない。

職場から大学進学を勧められたが、まずは高校卒業の資格を得る必要があるため、子育てをしながら日中は仕事に行き、夜は定時制で勉強している。

安里ブルーナさん

「年齢も年齢だし、もう一生勉強できないなというのが自分の中でもあったので、仕事と両立できるのもあって、すごい助かっています」

高まるニーズ

戦後、仕事をしながら高校教育を受けられる機会を確保するために制度化された定時制。全国では、昭和30年頃をピークに生徒数は減少し続け、現在は、定員割れし、廃校になる学校も増えている。

一方、外国人の数が全国で2番目に多い愛知県。生徒数は減少する傾向にあるものの、日本語を学びながら高校の学習内容を身につけたいというニーズは高い。

日本語の習熟度はまちまち

一方で、多様な人が学んでいるからこその課題もある。

豊田西高校に通う生徒たちがルーツを持つのは、ブラジル、フィリピン、ネパール、ボリビア、ペルー、中国など、多数の国に及ぶ。日本語の習熟度もまちまちで、高校以前の学習内容の理解度も一定ではないという。

豊田西高校 国語の教諭 鈴木洋平さん

「コミュニケーションで苦労はしないですが、学習になると、やはり日本の文化とか日本で生きていく中でのボキャブラリーが必要になってくる。例えば『石』という漢字はしっかり学んできているが、それが『磁石』とか『宝石』っていうふうに使われたら、一切読めない、宝石も何かわからない」

「学びたい」を後押し

そこで、県教育委員会は、高校に入学する前に日本語の基礎を身につけてもらおうと、高校に「夜間中学」を設けることにした。

2025年4月、豊橋工科高校に1学年10人程度の小規模な学校を設ける。さらに、外国人が多い名古屋市や尾張地区、西三河地区への設置も検討する方針だ。

さらに、学校以外で日本語の指導を強化することも検討されている。それが「若者・外国人未来塾」だ。現在、県内に9か所あり、そのうち4か所では、無料で、週に1、2回、日本語の指導が受けられる。

今後、「若者・外国人未来塾」と各地の定時制高校や夜間中学とで連携を強化し、授業の前に日本語の指導を行うことなどが検討されている。

改革には、教育現場からも期待する声が上がっている。

豊田西高校 定時制課程 伊與田 賢 教頭

「外国人生徒や保護者の方も含めて、この日本で生活を続けていく上で将来に希望を持てるような過ごし方をぜひしてもらえたらと思うので、生徒たちの夢につながっていくような改革や支援がしていけたらと思います」

人材の確保が課題

夜間定時制や通信制の改革を通じて、それぞれの生徒に合わせた、きめ細かな支援を目指す県教育委員会。理由について「学校に行きづらさを感じる生徒も、外国にルーツを持つ生徒も、すべての子どもたちが個性や能力を伸ばし、この社会で自分らしさを生かして生きていくためのベースとなる『学び』を実現したい」と説明する。

しかし、夜間の定時制高校の改革でも、課題となるのが人材の確保だ。例えば、日本語の指導。外国人など、日本語に習熟していない人たちに日本語を指導する教師には、国語の授業をするのとは別の能力や経験が求められるとされていて、国語の教諭だけには頼れないのが実態だ。

専門的な資格やスキルを持つ人材を、民間も含めてどのように集めるのか、今後の議論が急がれる。

筆者

佐々木 萌 記者(NHK名古屋放送局)

2019年入局。初任地が名古屋局。警察担当を経て、2022年から愛知県政担当。