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「名駅の"謎"」名古屋駅はいつから名駅?

2023年3月23日

名駅(めいえき)。

名古屋に住めばわかる名古屋駅の呼び名であり、駅周辺の地名です。

でも「いつから誰が呼び始めたのだろう」。

そんな疑問が寄せられ、とことん調べてたどりついたのは、民家の本棚に保管されていた"1枚の切符"でした。

マチコエの疑問の投稿は、記事の最後に。

(NHK名古屋 記者 吉川裕基)

いつから "めいえき"?

「名古屋駅の通称『名駅』。住所にもなっていて一体いつ誰が何で「名駅」と呼び始めたのか気になってしかたない。私は兵庫県出身で名古屋駅と呼んでいます」

(テラ・タイガさん)

NHK名古屋局のニュース番組「まるっと!」の視聴者から寄せられた疑問や不思議をもとに記者が取材する「マチコエ」の投稿欄をチェックしていた時、そんな一文に目がとまりました。

1年前に転勤で名古屋に引っ越してきた私は周囲にあわせるように「めいえき」と呼んできましたが、確かになぜ?と気になり始め、調べてみることにしました。

名古屋駅のこと、なんと呼ぶ?

「名古屋駅のことなんと呼びますか?」。

街頭での質問に最初に答えてくれたのは栃木から初めて名古屋に観光に訪れたという女性。

栃木から訪れた女性

「名古屋駅です」

「ちなみに、名古屋駅は地元でなんと呼ばれていると思います?」

「うーん、これ(名)とこれ(駅)だから・・・『なえき?』」

埼玉や奈良からの観光客に話を聞きましたが
『めいえき』と答える人はいません。

では、愛知県で名古屋市以外の方は。

一宮市在住の女性

一宮市在住

「名古屋に来るようになって周りが名駅名駅って言っているから呼ぶようになった。自分だけ名古屋駅って言うと違うところから来たんかなって思ってしまう。だから合わせて名駅って呼んでいる」

地元の人は当然、聞いた人全員が
名駅(めいえき)。
そこでいつからそう呼ばれていたのか、聞いてみました。

緑区男性
港区女性2人組

名古屋市緑区男性

「父、母が名駅と呼んでいるので自然と名駅と言い始めた。昭和の初めごろには『めいえき』と呼んでいたのでは?」

名古屋市港区の女性

「生まれたときから名駅。名古屋駅とは呼ばない。みんな名駅と呼ぶ。名古屋駅というよりもむしろ名駅という名前だと思っている」

「いつから?誰が?」となるとはっきりとした答えを知っている人はなかなか見つかりません。

地名を頼りに

そこで手がかりを求めて「地名」の由来を調べることに。
「名駅」は駅周辺の地名でもあり、1丁目から5丁目まであります。名古屋駅の住所は「愛知県名古屋市中村区名駅1丁目」。

そこで昔から「名駅」に住んでいる人を訪ねてみました。

名駅4丁目の「柳橋中央市場」。
100年以上の歴史を持つこの市場近くで生まれ育った木村守良さんが名駅という町名になった当時のことを教えてくれました。

木村守良さん

「覚えていることは地名変更のはがきを手書きでこつこつ書いて大変な仕事だった。ゴム印だとか、資材を買い替えるのに、今の金額だと数十万はかかった。名駅1丁目、2丁目と言われるよりも昔の町名で言われた方が頭に浮かぶ」

市場がある地域のもとの町名は「西柳町」。町内会の名前は今もそのままです。

次に訪ねたのは名駅3丁目。
ホテルや飲食店が立ち並ぶ地域です。

この地区の代表を務める伊藤義信さんが話を聞かせてくれました。
かつては「広井町」と呼ばれた伊藤さんの地元には当時、民宿を営んでいる人が多く、伊藤さんはいまも10階建てのビジネスホテルのオーナーを務めています。

戦中にこの土地で生まれた伊藤さんは名古屋駅の変化を見続けてきました。

幼いころを思い出すように伊藤さんが聞かせてくれた母校の小学校の校歌。

「ここ中京の玄関に かおりゆかしき学び舎は」

「汽笛のひびき はれわたり」

「このあたりでは名古屋駅は日本を代表する駅だというプライドがある。ただ名駅という地名が変わったのはずいぶんと前のことで、いつ名駅と言うようになったかはわからんねえ」

伊藤さんでさえ知らない
「名駅」という呼び名のルーツ。

テレビに出てくるような地名で・・・

ではまずなぜ地名を「名駅」に変えたのか調べようと市役所に向かいました。

そこで見せてもらった「なごやの町名」という町名の由来などが記載された本。

そこには46年前の昭和52年、
名古屋駅周辺の地名を「名駅」に変更したと記録されていました。

その理由について当時、変更を決定した住民の代表や学識経験者などの審議会の議事録には「テレビに出てくるような名前、地元の方から非常に強い要望」「名古屋駅を中心にして名称をつけたい。それが地域に密着する」と記されていました。

変更の結果、名古屋駅を名駅1丁目とし西区と中村区の27の町が1丁目から5丁目に統合、整理されました。

ではいつから呼ばれるようになったのか。それは市役所でもわかりませんでした。

一枚の切符が見つかった!

ならばと駅や街の歴史に詳しそうな人に片っ端から取材するとある団体から連絡が入りました。
訪ねたのは新幹線の高架下の建物にある一室。

そこは鉄道にまつわるあらゆる資料を収集するNPO法人の事務所でした。

明治時代の時刻表などおよそ120年の鉄道の歴史を刻む資料が所狭しと保存されています。

その理事長を務める服部重敬さんがある切符を見せてくれました。

発行日は昭和8年9月12日。
そこに「名駅」という2文字が記されていました。
切符が使われたのは当時、名古屋市内を走っていた路面電車。

その前年の昭和7年に発行された
切符には名古屋駅という表記。

それが翌年の昭和8年に
「名駅」と変わっていたのです。

今回、私たちの問い合わせをもとに資料を調べた結果、スタッフの自宅の本棚から見つかったのだそうです。

切符を見つけた内山知之さん

「ここにあった。名駅の表示があった。喜びがありましたね。『名駅』って当たり前だよね、でもいつから当たり前なんだろうと思いながら、コレクションの中から探した。むかしは百貨店に古い切符を売る店があって、そこでおそらく40年ほど前に入手したと思います」

NPO法人名古屋レールアーカイブス 服部重敬 理事長

「名駅というのは余りに一般的ですので、そこまで調べたことがなかった。昭和8年から券面表記が名駅と変わったと、それが名駅と 呼ばれるようになったきっかけの1つではないかと思います」

それでは今回の取材の結果。
「90年前には名駅という呼び名が広く通じていた!?」。

90年前の昭和8年の切符に名駅という名称が使われていたということは、その時点ですでに多くの人にとって通じる、つまりそう呼ばれていた可能性が高いのではないかということです。

ほかにも「めい○○」

マチコエにはほかにも「いつごろから名古屋城は『めいじょう』、名古屋港は『めいこう』というように名古屋を『めい』と縮めて言うのでしょうか」(鈴村 博之さん)という質問も寄せられていましたので調べてみました。

今回、調べたなかで最も古かったのは江戸時代後期に編さんされた名古屋城の百科事典と呼ばれる「金城温古録」。

このなかで名城という単語が使われていました。

名古屋城調査研究センターでは「金城温故録の「名城」は名古屋城という意味で使われていると読み取れる」としていますが、温故録は藩士に献上した資料、つまり位の上の人の文献なので、「名城」という言葉が広く一般的に使われるようになったのは、「もう少し後ではないか」と話していました。

「名」を「な」ではなく「めい」と使う理由についても、言語学の専門家に話を聞きました。

国立国語研究所 朝日 祥之准教授

「日本語は四音の言葉が多く、四音におさまる略称が座りがよく使い勝手がよく、名古屋市民の間でも「なえき」よりも「めいえき」がいい響きになって定着したのではないか」

今回も皆さまの投稿から新たな発見がありました。

引き続き「これってどうして?」
「調べてほしい!」という疑問がありましたらお寄せください。

筆者

吉川裕基 記者(NHK名古屋放送局)

盛岡局、岐阜局を経て2022年から名古屋局
ふだんは教育分野を担当

名古屋駅では道に迷うため地図がかかせません。