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進む県立高校改革 ~選ばれる通信制~

2022年12月14日

愛知県で、県立高校の改革が進められている。そのひとつが、近年、入学者数が増加している通信制高校の拡充だ。どのようなニーズがあるのか、そして、改革の課題は何か。現場の取材からひもとく。

(NHK名古屋 記者 佐々木萌)

増える生徒

11月27日、日曜日。名古屋市東区にある旭陵高校には、多くの生徒の姿があった。

旭陵高校は、県内に2校ある公立の通信制高校のうちの1校だ。

通信制高校は、仕事をしながら学びたい人など、多様な生徒が通っている。近年、増えているのは不登校を経験した生徒たちだ。

「私は、高校1年生のときに全日制の方にも通っていたことがあるんですけど、学校に行くのがしんどいなぁと思って、一時期行けなくなってしまいました。でも、その時に、いろいろな選択肢の中で通信制を選びました」

通信制高校は「単位制」。レポート課題に自分のペースで取り組みながら、週に1回登校し、選択した科目の授業を受ける。こうした柔軟な学び方が、生徒たちにとっては魅力だという。

「毎日、登校することが、私が一番悩んでいたことで、ちょっとしんどいなと思っていました。でも、通信制は、毎日登校する必要がなく、勉強のペース配分も自分で決められるので、そこが一番いいところかなと思います」

旭陵高校では、こうした不登校を経験した生徒が全体のおよそ6割に上っている。

入学者増で課題も

通信制は、最近、入学志願者が急増。旭陵高校では、令和4年度、募集定員320人に対し440人の生徒を受け入れた。学びの場を確保するため、定員を超える生徒を受け入れているからだ。

一方で、施設の不足や教員の確保が課題となっている。

教室が少ない旭陵高校は隣接する全日制高校に教室を借りて授業をしているが、生徒が多く集まると複数の教室を使うことになり、その分、教員も必要になる。

さまざまな背景を持つ生徒が通っている分、きめ細かな指導が必要とされる通信制。今は、40人もの非常勤講師の手を借りて授業を行っているという。

旭陵高校 浅井伸彦 教頭

「いろいろ課題を持った生徒さんがいますので、やはり、生徒ひとりにかける時間も、当然、余分に必要になる。非常勤講師をお願いしないと授業を回していけない」

「サテライト校」設置へ

こうした課題を踏まえ、県教育委員会がまず取り組もうとしているのが「サテライト校」の設置だ。

2025年4月から、施設に余裕のある全日制の▼佐屋高校、▼武豊高校、▼豊野高校、▼御津あおば高校の4校に「サテライト校」を開校させる方針だ。これによって、2校に集中していた生徒を分散することができる。

旭陵高校では、今年度440人受け入れた生徒数の規模を、2025年度には280人に、そして、最終的には240人にまで縮小できる見通しだ。遠方から通う生徒にとっても、通学の負担が軽減されるメリットが期待されている。

「もっと通いたい」に応える

さらに、多様で柔軟な学びを後押しするための改革も検討されている。

「サテライト校」が設置される4校では、全日制の課程を、現在の「学年制」から「単位制」に改変し、さらに、日中に4時間程度の授業を行う「単位制」の昼間定時制も設ける方針だ。
県教育委員会は、狙いについて、「もっと通いたい」という声に応えるためだとしている。

通信制高校の校内には、生徒どうしが自由に交流できるスペースも設けられ、生徒たちにとって貴重な「居場所」にもなっている。週1回通ううち「もっと通いたい」と思う生徒も増えている。ある男子生徒も交流する機会を増やしてほしいと話す。

「学校は、週1しかないんですけど、平日ももっと先生方や生徒たちと触れ合える場ができればいいなと思います。さみしい面もあるので、もっといろんな人と触れ合う場をつくって頂いたらいいかな」

単位制への改変によって、留年を心配せず、自分に合った選択肢が広がることが期待されている。

課題は人材確保

通信制は、不登校を経験した生徒の学びの場として、その重要性を増している。生徒の集中を解消することで、1校で必要となる教員の数も適正化されることが見込まれる。

しかし、課題は人材確保だ。不登校を経験した生徒は、精神的に不安定だったり、継続して勉強をするのが難しかったりといったさまざまな事情を抱えた人も少なくないため、専門的な知識や経験を持った教員が必要となる。

県は、今後、ワーキンググループを設け、教員の確保策について検討を進める方針だ。生徒の学びたいという気持ちに応える改革になるのか。今後の議論に注目していきたい。

筆者

佐々木 萌 記者(NHK名古屋放送局)

2019年入局。初任地が名古屋局。警察担当を経て、2022年から愛知県政担当。