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「旧統一教会」解散命令請求 信者・元信者はどうみたか?

  • 2023年12月21日

高額な献金や、いわゆる「霊感商法」などが問題になっていた「旧統一教会」について、国は裁判所に解散命令を請求したうえで、被害者救済に向けた法案も成立させました。長野県内では、現役の信者たちが集会で国の対応を批判する一方、活動の苦しさに耐えきれず30年以上前に脱会したという元信者の女性は教団の解散を訴えています。(長野放送局 橋本慎也)

旧統一教会 解散命令請求とは

盛山正仁 文部科学相

文部科学省としては解散命令が相当と認めて請求を行った。

 

国は旧統一教会「世界平和統一家庭連合」が高額献金や、いわゆる「霊感商法」などを通じて、多くの人に多額の財産的損害や精神的な犠牲を余儀なくさせたと認定し、2023年10月、教団の解散命令を裁判所に請求しました。今後は裁判所が双方から意見を聴いた上で命令を出すか判断することになります。
解散命令が確定しても、信者たちが信仰を続け、任意の宗教団体として活動することはできますが、教団は宗教法人格を失い、固定資産税など税制上の優遇措置を受けられなくなります。さらに2023年12月、教団の資産状況を適時把握できるようにする被害者救済のための法律が成立しました。

解散命令請求 長野の信者たちは

2023年12月10日(長野市)

救済法が成立する3日前、長野県内の信者たちが、解散命令に反対する集会を長野市で開きました。教団によると、長野県内の信者は約3000人。教団の韓鶴子総裁は故郷と似ていて、2度訪れた長野市の教会を「聖地中の聖地」と表現したといいます。
約130人が集まった集会では、現役の信者たちが「元信者や家族がメディアで旧統一教会に否定的な嘘の証言をしている」とか、「結婚相手を見つけてもらい、合同結婚式に参加できて幸せです」などとスピーチ。信仰で救われた人もいるとして国の対応を批判しました。
 

信者

世界平和統一家庭連合の信仰を持って私のように幸せを享受し、感謝している者もいると伝えたいと思いました。どうぞ、私たちの人権と信教の自由を守ってください。

元信者の旧統一教会への思いは

「集会を開くのは強気だなと思います。洗脳されていると思うので、信者も被害者だと思います」
私の取材にこう語ったのは長野市に住む元信者の50代の女性です。女性は「経験をした人でないと、なぜ信者になるのか分からないので、少しでも学生や教団に関わっている人、勧誘されている人に声を届けたい」と、みずからの体験を打ち明けてくれました。
女性は30年余り前、大学進学を機に上京。ひとり暮らしを始めましたが、人間関係に悩んでいました。教団が接触してきたのはその頃。サークルのアンケートを行っているという女性に駅で声をかけられたといいます。

みんな、すごいなって思うぐらい真面目で優しくて、本当によい人たちばかりだったんです。大学に入ってからつらいこともあったので、心の隙間に入ってきたというのもあったと思うんですよね。彼女たちは宗教とは明かさず仲良くなってから、宗教について説明してきました。その後、宗教の講義でシャワーのように何か月もかけて覚え込まされたので、ひと言で言えば洗脳だったと思います。

大学生当時の女性

教団に入信した女性は、韓国や地方で行われた合宿にも参加しました。さらに教義への理解が早くなるとして、学生信者の寮に住むことになりました。先輩の学生信者と2人部屋で過ごし、食事はご飯とわずかな副菜のみ。入浴も週に2回程度に制限され、お祈りを繰り返す日々でした。実家からの毎月10万円ほどの仕送りも寮に回収され、現金は一切持てませんでした。平日は学校の帰りに教団の勧誘活動のため駅でアンケートを実施。休日も仲間の学生信者たちと地方に車で出向き、タオルや箸などの訪問販売を行ったといいます。

訪問先からは断られたり罵声をあびせられたりして、今でも思い出すと本当に苦しい活動でした。でも、物を買ってくれた人は罪が晴れる、救われると洗脳されているので、頑張らなければいけないんだと思っていました。

ある男子学生が、活動への違和感を訴えたところ、教団は「サタンが入った」と非難したといいます。女性は「おかしいと言えない雰囲気だった」と振り返りました。1年ほど教団で活動しましたが、要求の過酷さや苦しい生活に耐えられなくなり、寮から逃げだしました。

逃げた時は今思い出しても、心臓がバクバクするぐらい不安でした。とても怖かったですし、絶対に捕まらないように逃げようと思っていました。ただ、教団からは離れたものの、頭の中はまだ洗脳されている状態でした。「苦しさのため神様の教えに反してしまった」という罪悪感がありました。せっかく入った大学でしたが信者に見つかったら、教団に連れ戻されるのではないかという不安が大きくて、大学はやめざるを得ませんでした。

事件で当時の記憶がよみがえる

女性が山上被告に書いた手紙

実家に戻ってからも、何か月もの間、罪悪感にさいなまれたという女性。家族の支えで少しずつ平穏な日常を取り戻したものの、今も大学をやめてしまった後悔や、教団に人生を翻弄されたつらい記憶が残っているといいます。
女性がごく親しい人にしか話せなかった当時の記憶を語ろうと思ったのは、2022年7月に発生した安倍晋三元総理大臣の銃撃事件がきっかけでした。殺人などの罪で起訴された山上徹也被告の母親が教団に多額の寄付をして困窮していたことを知った女性。2023年4月、教団によって人生が翻弄されたみずからの人生と重なるとして、自身の体験を綴った手紙を山上被告に送りました。

人を死なせてしまったのは、どんな場合でも罪を償わなければならないと思います。しかし、少しだけかもしれないけど、気持ちが分かるというか、どれだけ、つらかっただろうと思ってしまったんです。私のように思っている人もいるということを、山上被告に、ただ、伝えたかったんです。

事件のあと、旧統一教会の問題が改めてクローズアップされ、国は解散命令の請求に踏み切りました。女性は、旧統一教会が宗教法人として認められていることが教団の「お墨付き」になっているとして解散命令が確定することを期待しています。

信仰をしたい人たちがするのはよいと思いますが税制を優遇するとか、特別な措置というのはやめてほしいので、解散命令はとてもよかったと思っています。問題がうやむやにされて、無かったかのようになる不安もありました。教団の活動で自己破産したり命を落としたりした人もいるので、なんとか被害者の救済をしてほしいと思います。

取材後記

元信者の女性の経験は30年以上前のことですが、途中で涙ぐみながら話をしていたのが印象的でした。現在の「世界平和統一家庭連合」の信者にも、それぞれ思いはあるとは思いますが、今も苦しんでいる人が一刻も早く救われればと思います。

  • 橋本慎也

    長野放送局記者

    橋本慎也

    平成26年入局。教育や防災、自治会活動など身近な話題を取材。

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