ポケモン少年の夢叶う!「ポケモン化石博物館」大盛況のワケ
- 2024年03月27日
ゲームやアニメなどで人気の『ポケットモンスター』を通じて古代の生き物について学んでもらおうという特別展「ポケモン化石博物館」が、盛岡市の岩手県立博物館で2023年12月19日から2024年3月3日まで開催されました。
入館者が4万5000人に達し、単独の展覧会としてはこれまで最大級の入館者になるなど大盛況に。
昔からポケモンファンの私、中條も内覧会の取材に加え、プライベートでも何度か通い、すっかりこの特別展の虜になっていました。なぜこれほどまでに「ポケモン化石博物館」は人を魅了するのか。
取材を進めていくと、ある一人の「ポケモン少年」の夢が多くの人の心をつかみ、仲間を増やして次の町へ広がっていったことが分かりました。
(NHK盛岡放送局 キャスター 中條奈菜花)
ポケモン×古生物で楽しく学ぶ
「ポケモン化石博物館」は、さまざまなカセキポケモンたちと古代の生き物を見比べて、似ている部分と異なる部分を発見して楽しく学んでもらう構成になっています。コンセプトは「ゲームの中でカセキポケモンに出会った子どもたちが、現実世界の博物館で化石に出会う」。
カセキポケモンとはゲームの中で化石から復元されたもののことで、会場にはその模型や骨格の模型など約40種類が展示されました。ポケモンの模型はいずれも実寸大で、もしかして現実世界にいたら…と思いを巡らせることができるのもおもしろい点です。実在した古生物の世界と、仮想世界のポケモンを区別するため、展示の背景を色分けするなどそれぞれの世界観を大事にしているのも特徴。さまざまなポケモンが幅広く取り上げられているので、世代を超えて親子で楽しめるようになっています。
地方の巡回展では、その地域ならではの展示にも力を入れています。
今後も全国を旅する「ポケモン化石博物館」。
3月20日~6月23日 熊本県の御船町恐竜博物館、7月19日~10月27日 岐阜県博物館、11月9日~来年2月24日 山口県の防府市青少年科学館ソラールの巡回が予定されています。
きっかけは一人の“ポケモン少年”の熱意
この企画を総合監修したのは、東京の深田地質研究所でアンモナイトの研究をしている相場大佑(あいば・だいすけ)さん。発案した2019年当初は北海道の三笠市立博物館の学芸員でした。地方の学芸員の発案で複数の博物館や企業がコラボし、大規模な巡回展が実現するのは異例のことだったそうです。
相場さんがポケモンに出会ったのは、小学生の時。8歳の誕生日のプレゼントにはゲームボーイソフト『ポケットモンスター赤』を買ってもらい熱中しました。ゲーム以外にも、アニメや漫画を見たりシールやぬいぐるみを集めたりと、ポケモン一色の生活を送っていました。
小さなころはポケモンが現実世界にいるのではないかという妄想をいつもしていたという相場さん。植物図鑑を眺めながら、世界最大の花をつけるラフレシアがフラワーポケモンの「ラフレシア」に似ていることに気づくと心が躍ったそうです。幼い頃から恐竜や化石にロマンを感じていたこともあり、ゲーム内で発掘されたカセキからポケモンを復元させることができた時は、とても感動したそうです。
そんな「ポケモン少年」が化石の発掘・研究の道に進んだのも、新しいポケモンをつかまえて図鑑を作っていく“冒険”を現実世界でもやりたかったからだと相場さんは言います。
大学院で古生物の研究をした後、博物館の学芸員になってからもポケモン熱は冷めませんでした。ある時、『ポケモンGO』をしている最中に特別展の企画を思いつきました。
「ポケモンと現実世界の生き物を見比べる展示があれば、子どもの頃の自分なら興奮するだろうし、今の子どもたちにも楽しんでもらえるのではないか」という思いからでした。
“仲間”を増やして次の町へ
相場さんは即行動に移りました。展示のコンセプトやイメージ案、ポケモンの骨格模型の図案などを書いた企画書を作り、ポケモンをプロデュースする株式会社ポケモンへ送り、国立科学博物館を含む全国の博物館を巻き込んだ巡回展として、実施されることになったのです。
株式会社ポケモンとつながりがあったわけではなく、最初は問い合わせフォームから連絡したというから驚きです。
相場さんの呼びかけで、各地の博物館の学芸員や各分野の専門家が制作に参加し、企画に関わる関係者=仲間がどんどん増えていきました。
展示の中でも、ポケモン世界の「カセキ博士」と相場さんがモデルの「アイバ博士」、そのほかにも力を貸してくれたさまざまな学芸員が博士となって解説してくれます。
ポケモンと古生物の専門家が議論を重ね、形になったポケモン化石博物館は、コロナ禍での延期も経て、2021年7月に自身が所属していた三笠市立博物館で初開催。
その後も、国立科学博物館を含めた各地の博物館を巡回し、ポケモン化石博物館は次の町へ次の町へと広がっていきました。
そして実現した岩手での開催。東北初開催で東北各地から来館者が訪れました。
岩手は恐竜などの化石が相次いで発見されている土地でもあることから、来館者の古生物への関心の高さも感じたと言います。何度も訪れる人も多かったそうです。
相場さんの“好きの思い”が重なり、ポケモンと古生物を通して見えた世界。
全国の人がポケモンと現実世界の行き来を楽しむ光景は一人のポケモン少年の夢が叶った場所でもあるし、新たなポケモン少年の夢が生まれた場所でもあるかもしれません。
古生物の旅は“つづくったらつづく”
反響が大きいことから、さらに多くの人に届けたいと、全国各地の巡回展を進めているポケモン化石博物館。相場さんは、いずれは海外のファンにも届けられたら嬉しいと話しています。
また、相場さんはポケモン化石博物館の企画実現後、深田地質研究所に移り自身の専門分野であるアンモナイトの研究をさらに深めています。
相場さん曰く、「古生物の研究は、絶滅して今は現存しないものを推測して当時の姿に近づいていくことにワクワクする」のだそう。最近では、岩手県野田村で震災の復興工事の現場から10年前に発見されたアンモナイトの化石が、これまで北海道でしか見つかっていない貴重な種だったことが岩手県立博物館との共同研究で判明するなど、熱心に研究を進めています。
「研究はいくらやっても終わりがない」と語る相場さん。
そんな中でも、一人でも多くの人が古生物学を身近に感じ、魅力を知ってもらえるよう、これからも相場さんの旅は、つづきます。つづくったらつづく。