「らんまん」牧野富太郎博士 新婚旅行で新種!?その花に異変!
- 2023年07月13日
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主人公・槙野万太郎(神木隆之介)とその妻・寿恵子(浜辺美波)の生涯を描く朝ドラ「らんまん」。今回は万太郎のモデル・牧野富太郎が新婚旅行の際に見つけて命名した「ミヤマキリシマ」の今を解説します。
ミヤマキリシマとは?
ツツジの一種で九州各地の高山に生息する「ミヤマキリシマ」。樹高は1mほどで、薄紅色や紫紅色の花を咲かせます。「日本の植物学の父」と言われる植物学者の牧野富太郎博士が新婚旅行で霧島を訪れた際に見つけ、1909(明治42)年に「深い山に咲くツツジ」という意味で「ミヤマキリシマ(深山霧島)」と命名したとされています。
開花時期は5月~6月で、小さくて可憐な淡いピンクの花が一面に咲く様子はまさに絶景です。
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九州固有の花がピンチ!?
霧島連山の花の代表格とも言えるミヤマキリシマ。
しかし、昔から植物の調査でえびの高原を訪れている南谷忠志さんは7年前、ミヤマキリシマのある“異変”に気がつきました。
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なんか色がえらい濃くなっていると思ってね。ひょっとするとこれ、雑種になっているのでは?と思って調べ始めました。
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一昨年、環境省の許可を得て国立公園内で本格的な調査に乗り出したところ、従来の花の大きさが最大で約2.5cmであるのに対して3.7cmや3.8cmなどと、18の調査エリアのうち半数以上の10か所で従来より大きな花が見つかりました。
また、見た目についても特徴的な淡いピンク色ではなく、濃い紫色や紅色の個体のほか、従来なかった斑点模様のある個体が多くのエリアで確認されました。
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異変が起きた原因は?
さらに南谷さんは、植物の分類が専門の愛知教育大学の渡邊幹男 教授にミヤマキリシマの遺伝子解析を依頼したところ、霧島連山の宮崎側の個体からは同じツツジ科のヤマツツジ、鹿児島側からはサタツツジの遺伝子が検出されました。これによって、ミヤマキリシマが少なくとも2種類のツツジと交配していることが裏付けられました。
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調査でサタツツジやヤマツツジの花粉がミヤマキリシマに付いてできた雑種だということは分かりました。雑種のほうが強いんですよ。もともとの親よりも。だから(純粋種の)親のミヤマキリシマを駆逐して、雑種が主導権を握るということになると思います。
雑食化で何が起こる?
純粋な固有種が失われると、小さく可憐で、淡いピンク色という特徴を有した従来のミヤマキリシマが見られなくなってしまいます。花の大きさや色の特徴が違うと、印象や趣が変わることは避けられません。
ここで、南谷さんが雑種化が進んでいると考える根拠を改めて整理します。
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まずは、花の大きさ。霧島連山のなかで標高や環境が異なる18もの地点を調べたところ、過半数を超える地点で従来のミヤマキリシマよりも大きな個体が確認できました。そして、色の点でも濃い紫や紅色などの花が数多く見られたとのことです。
花粉にも異常が
一般的に、植物の雑種化が進むと、花粉の生殖能力が低下することが知られています。南谷さんは、およそ200個体の花のサンプルから花粉を採取し、自宅の顕微鏡で調べました。
下の写真の青色のものが生殖能力のある花粉です。試薬に反応して青く染まっています。一方、色が染まっていないものが異常な花粉です。一つ一つ花粉を数えて調べたところ、全体の3割余りの花粉が生殖能力を失っていることが分かりました。
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雑食化が進む背景
では、なぜ雑種化が進んでしまっているのか。南谷さんの考えるメカニズムがこちらです。
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霧島連山のふもとには、それぞれ鹿児島県側にサタツツジ。宮崎県側にはヤマツツジという同じツツジ科の花が自生しています。これらの花の花粉を付けた虫が上昇気流に乗り、標高の高い所に咲くミヤマキリシマまで行き着いて交配している、という仮説です。
こうした雑種化は、最近の数十年間で進んでいるとみられるということです。理由ははっきりしないものの、近年の気温の上昇などが関係しているのではないか、と南谷さんは話しています。標高の高い所に自生する純粋なミヤマキリシマは気温の変化に弱い一方、雑種は環境の変化に強いため、純粋種との置き換わりがんでいるのではないかと、分析しています。
固有種を未来へ残すために
宮崎や九州の人にはなじみが深いミヤマキリシマ。私たちの取材に対し、南谷さんはこう話してくれました。
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純粋なミヤマキリシマが滅びていく可能性があります。九州固有の花を100年後、200年後まで残していくためには、純粋な株を残すような手立てを考える必要があると思います。
南谷さんはこれからも調査を続け、牧野富太郎博士が愛したミヤマキリシマの純粋種の保護に貢献したいと話していました。
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