茨城県不法就労外国人 全国最多
- 2024年04月24日
茨城県で2022年に就労の資格などがなく働いて不法就労と認定された外国人は、1283人と全国で最も多くこのうち7割が、農業の仕事をしていたことが国のまとめでわかりました。
農業の現場では何が起きているのか、現場の声を取材しました。
(水戸放送局記者:藤田梨佳子)
茨城県での不法就労外国人最多 就業先は農業が1位
出入国在留管理庁のまとめによりますと、2022年の1年間に全国で在留資格や就労資格などがないまま日本で働き不法就労と認定された外国人は6355人となっています。
このうち、茨城県で不法就労と認定された外国人の数は、全体の2割となる1283人で都道府県別では全国で最も多くなりました。
2番目に多かったのは890人の千葉県でその1点4倍となっています。また、茨城県内で認定された不法就労のうち、農業の仕事をしていた人数は897人で、全体の7割近くを占めていました。
雇う側も罪に問われるおそれ
こうした状況を受けて警察では、雇う側への取り締まりも強化していて在留資格や就労の資格のない外国人を雇った場合は不法就労助長の罪に問われるおそれがあるとして注意を呼びかけています。
一方、外国人労働者の実情に詳しい東京都立大学の丹野清人教授は、農業用の資材や燃料などが値上がりし経営が厳しくなる中で、技能実習生よりも費用を抑えられる不法就労の外国人を雇ってしまうケースがあるとみています。
東京都立大学 丹野清人教授
農家の経営は、収穫期に多くの人手が必要になるがそれ以外の時期の仕事は少ない。気候によって収穫量も変動するので非常にシビア。さらに技能実習生は、年単位で長期で給料を支払うのでコストが大きい。人手がほしい収穫の時期だけ雇うとなるとオーバーステイの人たちになってしまう。生き残るためにはそれしかない現状はいたし方ない。働ける人を迎えられるような環境をどう作るのか立ち戻って考えてもらう必要がある。
不法就労を雇う農業の背景
国のまとめによると、茨城県は、不法就労の人数が全国で最も多くこのうち、7割が農業で働います。
その背景はについて、県内の農業の現状をデータなどからみていきます。
茨城県は、おととしの農業産出額が4400億円余りと、都道府県別では全国3位の規模です。
収穫時期には多くの人手がいる一方で、県内の農業経営者などの平均年齢は67.5歳です。(2020年時点)。高齢化が進んでいることが分かります。
担い手や働き手が集まらない中で、技能実習生などの外国人材が注目されていますが、実習生の人件費が農家にとって経営の重しになっている状況も出ています。
担い手の高齢化と不法就労の関係
担い手の高齢化と不法就労。一見無関係に見えますが、不法就労の実態を知る農業関係者に話を聞くとある関連がわかってきました。
私が取材した農家のケースでは、技能実習生の受け入れに1人あたり70万円かかったほか、監理団体への費用などを含めると毎月25万円ほどの支払いがありました。
しかし、ここ最近の物価の高まりで肥料や農業用機械の燃料などが値上がりしコストが大きくなっています。このため実習生の数を維持したり、増やしたりする人件費が賄えなくなっているということなんです。
そして、苦しい状況の農家に、在留資格や就労資格のない外国人を違法に紹介するブローカーの存在も大きいといいます。観光ビザで入国した外国人や事情があって逃げ出した技能実習生などと農家を結びつけ、仲介料をもらいながら不法に働き手を供給しているということです。
また、ブローカーは、外国人のコミュニティにパイプのある日本人のほかにも、外国人のブローカーもいるということです。そして、農家を訪ねて直接、声をかけてくることもあるといいます。
さらに、ブローカーは、技能実習生にも接触しているといいます。
ブローカーが高い報酬で働き口を紹介すると、実習生が、農家の元から逃げ出してしまうこともあるということなんです。
実習生を勧誘したり、苦しい状況の農家につけこんだりするブローカーの存在が影響しています。
不法就労では、狭い部屋で何人も共同生活させられブローカーから、光熱費の名目で実際に使用した以上の費用を支払わせられるケースなど搾取されることもあります。
一方で、多くの農家は、困難な中でも正しく経営をしています。そのかげでブローカーなどが介在して不法就労が広がっていくような事態を食い止めようと、警察も取り締まりを強化しています。
違法に外国人を雇った人たちも検挙していますが、あとをたたないというのが現状だということです。
農業経済学が専門で、東京大学大学院の鈴木宣弘教授は農業の人手不足の問題を放置したままだと、深刻な事態を引き起こすおそれがあるとみています。
東京大学大学院 鈴木宣弘教授
肥料や餌の値段が、一昨年の2倍ぐらい。燃料が5割高ぐらいになって農家の経営を圧迫して、一方その農家が売っている農産物の販売価格は、充分に上がってない。そこで農家の赤字が膨らんでいるという状況で、担い手を確保するのが非常に厳しい状況になってきている。5年10年で、日本の農業農村が崩壊しかねないぐらいの担い手不足というものが深刻化している。
改善策は
一つの例ですが、収穫時期に人材が必要となる農業の特性を踏まえ、技能実習生などが、数か月単位の短期間でさまざまな農家の間で働くことのできる新しい制度を入れていく必要もあると指摘しています。
東京大学大学院 鈴木宣弘教授
技能実習生の形で働いてもらって、1年間雇いきれない場合には、双方にとってしっかりとプラスになる仕組み、制度というものをきちんと変えていく。農家それぞれ、短期間で働いてもらいたい期間が違うわけですから、あるときはこの農家で、またある時は別の農家の間で働くというように、働いてくれる人を1つの農家専属にせず、必要な時に労働力を移動してもらって、就労してもらえるようにするといいですね。一定の地域を超えた範囲での移動にもなるかもしれませんがそのような形で、働いていただく方にも負担にならないような形で、仕組みは変えられるんじゃないかなという風に思います。
1つの案ですが、不法な方法をとらずに人材を確保できる仕組みづくりを考えていく必要があります。また、農業の持続性も重要です。
茨城県の計算では農家の1経営体あたりの年間の所得は2022年で411万円となっています。
県では、収益性を高めて農業を発展させようという中長期的なビジョンを去年、初めて策定しました。
その背景には農業の担い手不足とともに食料需給の課題があるとしています。
食料の課題を放置すれば、私たちの生活に直結する問題になりかねません。
働き手が少なくても、どのように生産能力を確保し高めていけるのか、有効な方策を考えていくことが求められています。