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どう立ち向かえばいい? マンション“2つの老い”

マンションの“2つの老い”とは、「老朽化」による建物の劣化や多額の修繕費などの問題と、住民や部屋の所有者の「高齢化」による認知症のトラブルや孤独死などの問題のこと。それが二重に覆いかぶさると、住民全体に影響がおよんできます。さまざまなマンションのケースから、この問題にどう備えれば良いか、ヒントを探りました。
(クローズアップ現代ディレクター 荒井拓・中松謙介)

なぜマンションは、“2つの老い”に追い詰められたのか

全国の老朽化マンションの取材を進める中で実感するのは、建物が劣化し危険な状況のマンションであっても、決して管理組合や部屋のオーナーである区分所有者たちが手をこまねいていたわけではないことです。

あちこちが剥がれ落ちている外壁、穴の開いた天井、さびついた手すり。鹿児島市内にある築46年、59戸からなるそのマンションは、一見して老朽化の深刻さが分かります。2年前には外壁のタイルが剥がれ落ちて道路に落下し、非常に危険な状況だったといいます。

老朽化した箇所を見つめる理事長

部屋の所有者たちで作る管理組合の理事長に話を聞きました。建設当時から住んでいる人はほとんどおらず、自身も13年ほど前に入居しました。マンション59戸のうち、部屋を自ら所有する区分所有者の住民が35戸。また空き室が10戸、残りは賃貸用に所有されています。

さびついた柵

建設された昭和51年3月当時は、まだ管理組合や長期修繕計画などが、法律的にも明確に位置づけられていない時代。

修繕積立金があったとしても、現役世代に買ってもらうために非常に安く設定されていることが少なくありませんでした。

このマンションでも、修繕積立金は安く設定されており、管理組合もしばらくありませんでした。管理組合ができる過程でマンションを建設した会社が所有する区画の一部を購入するなど出費があり、管理組合の資金が減ってしまいます。さらに築20年を過ぎたころに、不良工事の影響で大量の外壁が剥がれ落ちる出来事が。2000万円かけて修繕し、積み立てた資金はほとんどなくなってしまい、マンション全体に“あきらめ”が少しずつ広がっていったといいます。

その後年月を経る中で建物の劣化は進み、修繕の出費がかさんでいきます。一方で、所有者たちの高齢化も進み、年金生活者が増えていきました。

理事長によると、いま各部屋の所有者の平均年齢は70代。現在、修繕の積立金は各部屋月3700円ですが、値上げは難しいのが現実です。また区分所有者が亡くなって、そのまま空き室になってしまった部屋から積立金が取れないケースも増えました。建て替えや解体についても、億単位の資金が必要となるため、老朽化で危険な状態ではありますが、いまは現状をなんとか維持していくしかないと言います。

「ここは管理組合が遅くできた経緯もあって、とにかく最初にお金がない状態で始まり、ここまできてしまった。今はご高齢の方も多く、一人一人条件も違う中で、億単位の金をかけて何か決めるのは難しい。合意形成して方向性を出したいのはやまやまだが、自分も素人だし、コンサルを雇うお金もない。自治体の手なども借りながらなんとかしたいと頑張っている」と振り返ります。

町内会館の中

実はこのマンション、1階には町内会館が入っています。
壁には西郷隆盛、大久保利通など明治維新に関わった偉人たちの写真がずらり。このマンションがある町内は、彼ら偉人たちが生まれ育ったという由緒ある地区なのです。

その住民たちの拠点として使われている町内会館ですが、建物が危険なことを心配する声が多く寄せられています。このマンションの先行きは、地域住民も心配する問題となり始めているのです。

壁に飾られた偉人の肖像画

このマンションには現在、鹿児島県内の管理組合で作るNPO・鹿児島県マンション管理組合連合会が支援に入り、建築の専門家や行政とつなぐなどのサポートを始めています。

NPOの有薗修一郎(ありぞの・しゅういちろう)理事長は、
「まずこのマンションのような場合、どこに相談したらいいか困っているケースが多い。中立的に相談できるのは行政だが、そういった相談支援を行っているところと、そうでないところがある。特に地方都市ではマンションの専門的な知識を伴った担当を置いていない行政もあり、自治体間の格差が大きい。国の支援策があっても、現場がおいついていないケースも多々ある。そして問題の根っこには、部屋の所有者たちの無関心がある。マンションの今後をどうするのか他人任せにせず、向き合うことが当たり前にならないと、管理不全の老朽マンションは今後増えるばかりだと感じる」と警鐘を鳴らします。

“スラム化”マンションを防げ 苦心する自治体

町を歩く豊島区職員たち

一方で、行政もこうした老朽化したマンション対策に頭を悩ませています。東京都では、1983年以前に建てられた6戸以上のマンションを対象に管理状況の届出制度を20年に開始しました。

そのデータによると、届け出たマンションのうち16%で「管理者がいない」「修繕計画がない」などの“管理不全”の兆候がみられたといいます。

住民の7割がマンションに住む東京都豊島区。区内には1200棟以上、5万戸を超えるマンションが建っています。2013年に全国に先駆けてマンションが管理状況などの届け出を義務付ける条例を制定しました。未届けや管理不全の場合は、区が指導や勧告を行い、マンション名を公表するという罰則管理条例を作りましたが、いまだにおよそ2割のマンションが届け出ていません。

マンションを訪問する豊島区職員

管理がおろそかになり、朽ちたマンションが街に点在する状況は避けたい。区の職員とマンション管理士が未届けのマンションを訪問調査していますが、管理がおろそかなマンションでは、住民が誰も状況を把握しておらず、そもそも誰が管理をしているか分からないような状況です。

豊島区都市整備部・マンション担当課長の河野敬輝(こうの・よしてる)さんは、
「高齢化が進み、マンションの管理自体に興味がなかったり、自分事としてとらえていなかったりされる方も多い。当事者意識をいかに持ってもらうかが大事で、そのために実際にマンションを訪問して生の声を伺い、マンション管理の課題を解決する手助けを行っています。また、管理状況の届出書も区に提出してもらい、当事者意識を持ってもらうきっかけにしています」と語ります。

高齢化を見据えたマンションの環境作り

京都市にある「ルミエール西京極」

京都駅から車でおよそ15分。桂川のすぐそばに建つ「ルミエール西京極」は、来年築40年を迎える183戸のマンションです。築30年を前にした2011年、2回目の大規模修繕工事の際に住民同士で話し合ったのが、マンション住民の高齢化の問題だといいます。

管理組合で理事長を務める能登恒彦(のと・つねひこ)さん(66)。マンション完成時に20代で入居し、長年マンションの管理運営に携わってきました。

管理組合理事長の能登恒彦さん

管理組合理事長 能登さん:
「高齢化の問題というのはどんなマンションでも避けて通れません。周りの先輩マンションを見ていて、高齢化がやってくる40年超の時代にどう生きるか、どう運営していくのかというのを、築30年くらいを境に住民同士で考えないと絶対に手遅れになると感じていました」


2度目の大規模修繕をきっかけに「ルミエール西京極」では、マンションを自主管理に切り替えました。管理会社との契約を解除し、自主管理にすることで経費削減を図り、さらに本当に必要な改修が何かを住民たち自身で考えることで、一人一人が自分のマンションだという意識を高めてもらいたいという狙いもあったと話します。

高齢化が進む中、自分はどんなマンションで暮らしたいか? 管理組合の理事会を中心にさまざまな意見を出し合いました。段差があったマンションの入り口をスロープにし、車椅子が必要になった住民も出入りできるよう改修。また玄関前にスペースを確保し、介護士やデイサービスなどの車が来ても駐車できるようにしました。

段差があった玄関をスロープに改修 (左)改修工事前、(右)現在

そして高齢化への対策として欠かせないと考えたのが、マンション住民同士のコミュニティーづくりです。

マンション一階にあるガラス張りの交流室。もともと店舗だったスペースを、管理組合が買い取り、住民たちの交流の拠点としました。コロナ禍前は月1回、手作りのお菓子が出る「カフェ」を開き、子どもからお年寄りまで集まり、住民同士のつながり作りのきっかけになっていました。

コロナ禍でも定期的に行われている「折り紙教室」は、参加者の半数以上が一人暮らしの高齢者です。毎月顔を合わせて話すことでお互いの悩みを相談しあえたり、体調の異変に周囲が気づく場にもなるといいます。

マンション1階の交流室 住民自ら主催する折り紙教室

さらに、こちらの交流室には週に2回、地元のスーパーから移動販売を呼んでいます。外出が困難な高齢者もマンション内で買い物ができ、他の住民と顔を合わせる交流の機会にもなっています。

またこの移動販売は、マンション住民だけでなく近隣の地域の人も利用できます。能登さんは、マンションの住民同士のつながりに加えて、地域ともつながることが重要だと話します。

毎週月曜と木曜に行われる地元のスーパーによる移動販売

管理組合理事長 能登さん:
「我々この地域から見れば新参者なんですね。突然200世帯近くが大挙してやって来た、異質な人たちと見えると思うんです。また高い建物が影を作るので、対立構図にもなりがちです。そうすると垣根みたいなのができて、うまく交流できない部分もあるんですけども、我々も高齢化すると自分たちだけで支え続けるには限界もくる。最近は防災という観点からも地域との交流を普段から深めて、万が一の時には共助、地域みんなで一緒に助け合えるような関係、マンションが地域の一部になっていくことが必要だと思います」

マンションの屋上から見える桂川を指す能登さん

マンションから100メートル先に、桂川の土手がある「ルミエール西京極」。2018年の大雨の際は氾濫寸前まで水位が上昇しました。万が一の時には近隣に住む住民がこのマンションに避難できるという取り決めも行いました。

移動販売などで日頃から地域の住民と交流がありお互いに顔を知っている関係があれば、いざというときの高齢者の避難などもスムーズに行えるのではという期待もあります。

若い世代に魅力を感じてもらうマンション作りがカギ

マンションの高齢化問題を考える際に、見落としがちなのが若い世代との共存だと能登さんは話します。高齢者にとって暮らしやすい設備や仕組みを整えるだけでは、本当の意味での高齢化対策にはならないというのです。

若い世代との交流の様子

「高齢化問題というのは偏った世代が住むマンションになるのを避けるということが実は大きなポイントだと感じています。いろんな世代がピラミッドを形成するように若い人が住んでいるということになれば、経済力も含めてマンション管理組合自体の力がつきます。必要なのは何も高齢者対応だけではありません。バランスよく子育て世代、さらに子ども達が喜んで住んでくれるマンションであり続ければいろんな手が打てる。若い世代にも魅力を感じてもらえるマンションづくりを同時に進めることが、結果的に高齢者にとってもプラスになると考えています」

取材後記

今回全国の様々なマンションを取材する中で感じたのは、住民も行政も業界も薄々気づきながら、“マンションの老い”の問題を先送りにしてきたという現実です。

「このままで大丈夫だろうか」と思った住民がいても、声をあげたら自分が管理組合のさまざまな業務を任されてしまうのではないか? と躊躇したり、業界でも新築マンションを建てて売るという至上命題の中で、なかなか触れにくかったりという現実がありました。

そうした中で、「ルミエール西京極」のように、先送りせず早い段階から一歩を踏み出せたマンションは、“2つの老い”の課題にさえも、前向きに楽しみながらみんなで取り組めています。マンションの中で、まずは小さな一歩を踏み出す。そして行政も業界もその一歩を支える。ごく当たり前だけれど、その難しかった一歩を、一日でも早く踏み出す必要があると感じました。

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