バス路線廃止 実態を可視化! 背景には運転手不足・人口減少・高齢化?
通院や通学など生活に密着した移動を支える路線バス。
その衰退が新たなフェーズに突入しています。
これまでは人口減少が続く「地方の過疎地」の問題とされてきましたが、近年は住民の高齢化に伴う通勤需要の減少や運転手不足などが原因で東京や大阪といった都市部でも路線の廃止や縮小が相次いでいます。
今回NHKでは、福島大学の吉田樹准教授の協力を得て、バス路線減少マップを作成し実態を可視化しました。吉田さんは工夫を凝らすことで路線バスの衰退を止められる地域は少なくないと言います。まずは現状の把握から。必見のデータマップです。
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マップを見るポイント: 隣接する町の状況も確認を!
―今回のバス路線減少マップはどんなデータを基に作成したものですか?
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吉田さん
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今回のマップは国土交通省のHPにある国土数値情報の「バスルートデータ」を基に作成したものです。青線のルートは最新発表(2022年度)の定期運行バス路線、赤線は2011年度から2022年度の間に廃止、もしくは予約型のデマンドバスのほか、自治体等が自家用車で輸送する、いわゆる白ナンバーのバスで運行される部分です。バス会社が定期運行する路線が減少したことが分かります。
―赤線であってもデマンドバスや白ナンバーのバスが運行していれば問題はないのでは?
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吉田さん
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過去の例から、デマンドバスや白ナンバーのバスに切り替わった後、利便性が低下してしまうことが少なくありません。白ナンバーのバスは、費用を自治体が丸抱えすることになるので、バス事業者に補助金を出すのに比べ公的負担が増加します。
そのため、多くのケースで路線の縮小や減便に至ってしまうのが実情です。一方、デマンドバスはドア・ツー・ドアかそれに近い形態で運行されるため、その側面では利便性は増すかもしれません。でも、前日までの予約が必要な場合があり、急な外出や観光客の利用には対応できません。また実際の予約に対応できるのは1台につき1時間で2件~3件が限界です。結局「予約が面倒」「予約がとれない」といった理由で、従来のバス利用者が離れていってしまうことも少なくありません。
―マップを見るポイントを教えてください。
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吉田さん
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今回のマップを見て私が改めて感じたのは、この10年の間に、その自治体のほぼ全域がごっそりと赤になってしまったケースが思った以上に多いなということです。
デマンドバスや白ナンバーのバスが代替する場合でも、自治体内で運行が途切れていることが多くあります。そのため、隣町にある病院や学校、職場には通いにくくなるという事態が起きてきます。進学先や病院、就職先の選択肢が狭まるため、年齢の若い世帯ほど「家族全員で転居してしまおう」という発想が生まれ、隣町だったらまだしも遠方の大都市に居を移す人もでてくるかもしれません。
こうして人口の減少が進むとバス路線の廃止がドミノ倒し的に広がり、その県やエリア全体の人口減少につながる悪循環となる可能性があります。バス路線は人々の暮らしと交流を支えるネットワークです。是非、自分が住んでいるなど直接関係する自治体だけでなく、周辺の自治体の状況もチェックしてみてください。
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定期運行のバス路線が必要な理由
―「自分はバスを利用しない。なぜ公費を投入してバス路線を維持する必要があるのか」という声もあります。バス路線の維持はなぜ必要なのでしょうか?
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吉田さん
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自家用車利用が進んだ地域にも、高齢者や障害者、そもそも免許を持てない年齢の子どもなど、人口の数パーセントは「自家用車を気軽に利用できない人たち」です。おのずと家族などの送迎に頼ることになりますが、両者にとって負担が大きく、また高齢になって免許を返納したくてもできないという事態も生まれてきます。
これに対して1人で自由に移動ができる仕組みとして公共交通という選択肢があることで、より多くの人が外出できるようになるほか、免許を持つ人も送迎の負担が軽くなり、時間のゆとりができます。すると地域のなかでさまざまな活動が生まれ、活力につながっていきます。また、自由な外出は人々の健康維持にも寄与するのではと思います。
私は、1時間に1往復程度の運行ができる場合や、自治体間にまたがる移動が多い場合には,できる限り定期運行のバス路線を維持することが有効だと考えています。一方、人口密度が極めて低い地域には定期運行はなじまないことが多くなります。デマンドバスや自治体などが運営する白ナンバーのバスに移行する場合は、通学や通院、買物など、どのような活動目的を満たすために導入するかを見極めることが必要です。
「逆転の発想」で路線維持に成功した山形県鶴岡市
―人口減少が進む中でもバス路線の維持に成功したケースはありますか?
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吉田さん
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私の試算では1平方㎞あたり1千人以上の沿線人口規模があれば、定期運行路線として維持していける余地はあるのではないかと思います。
山形県鶴岡市では人口減少に伴う路線バスの再編が課題となったとき、郊外はデマンドに切り替えましたが、人口密度がある程度高い市の中心部では、バスを小型化する一方で、便数は増やす「逆転の発想」で乗客数を大幅に増加させました。
2022年10月、庄内交通は鶴岡市中心部を走る定員25人のバスを12人のワゴン車に変更しつつ、便数は1日48便と5.6倍に増やしました。
小回りの利くワゴン車の特性を生かし、高齢世帯が多く住む住宅街の狭い路地を抜け、医療機関やスーパーマーケットの近くを走る新ルートも設定。バス停も300m間隔を基準に58か所から79か所に増加させるなど徹底した利用者目線の再編を行った結果、年間の利用者は2万3千人から6万8千人と、およそ3倍に増加しました。(※)
それまで外出の際は親族の車で送迎してもらっていたお年寄りが、ほぼ毎日バスを利用して外出するようになるなど、新規の需要も数多く生まれているといいます。
※最新データの2022年10月~2023年9月とコロナ禍前の2018年10月~2019年9月を比較
―すばらしい取り組みですが、近年は運転手不足が深刻な地域もあります。ルートの延長や増便に対応するのは難しくはないでしょうか?
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吉田さん
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確かに簡単にはいかないかもしれません。でもバスを小型にすれば大型2種免許を持っていなくても運転可能な場合があります。大型2種免許よりも普通2種免許を持っている人のほうが多いですし、取得もしやすいので、ある程度の解決策にはつながるのかなと思います。
鶴岡市のケースで重要なのは、行政である鶴岡市も「利用する地域住民の目線」に改めて立ち返って庄内交通と綿密に議論を重ね、策を練ったことです。行政には「人口が減少しているからしかたない」と諦めるのではなく、いま一度、問題の根幹に目を向ける積極的な姿勢が求められていると思います。きっと、その地域の実情に合った打開策があるはずです。
―貴重なお話ありがとうございました。
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