猛スピードで死亡事故 時速194kmの危険性を検証
法定速度60㎞の道路に、時速160㎞や190㎞を超える速さで走行する自動車がいたらどうなるのか・・・。明らかに危険な状況ですが、実際にそうした猛スピード運転の自動車が、他車にぶつかり相手を死傷させる事故が全国で起きています。
猛スピード運転のどんなところにリスクがあるのか。自動車の安全性の確認などを行っているプロのテストドライバーを訪ねました。
(「クローズアップ現代」取材班)
時速194㎞ ドライバーの実感
ビュン!
目の前を時速194㎞の自動車が通り過ぎると、ガードレール越しに十分距離をとっていても強い風圧を感じ、体がこわばりました。
訪ねたのは、自動車の開発や安全性の確認のためのテスト走行を行っている日本自動車研究所です。専用のテストコースで、ふだんからテストのために時速200㎞ほどで走行することがあるというドライバーに話を聞きました。
法定速度の時速60㎞と比較すると、時速194㎞で走行しているときは何が違うのでしょうか。
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日本自動車研究所 冨田信道さん
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「車速が上がるにつれて、自動車の動きはとても敏感になります。同じハンドルの操作量であっても、スピードが速いと車体が大きく傾いたり、状況が悪いとスピン状態になったりします」
さらに、視界にも変化があるといいます。
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日本自動車研究所 冨田信道さん
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「見える景色の流れが速くなります。よく「視野が狭くなる」という言い方をしますが、あまりにも速く流れるような景色は、なかなか情報として入ってきづらくなるので、周りにある危険や路面の状況はどうしても見えにくくなります」
国などの資料では、時速40kmでは、運転者は100度の範囲の視野があり、路側の障害物やその他の潜在的な危険を視認することが可能で、時速130kmでは視野は30度の範囲となり、運転者が潜在的な危険を認識する能力が大きく減退することになると指摘されています。
100mの距離をわずか2秒で・・・
時速194㎞で走行する自動車を見ていると、車体がまだ数百メートル遠くにいると思ったら次の瞬間には目の前を過ぎ去っていきます。
そこで、テストコースに100mの間隔で目印をつけて、いろいろな時速で100m進むのにかかる時間を比較しました。
まずは、法定速度の時速60㎞で走行します。100mを約6秒で通過しました。
次は時速160㎞。約2.3秒で通過しました。
そして時速194㎞では、約1.8秒でした。
あくまでこの日の計測の結果ですが、時速200㎞近いスピードを出すとわずか2秒ほどで100m以上先まで進んでしまうことが分かりました。
夜の場合、走行用前照灯(通称ハイビーム)が届く距離は約100mです。もし、夜に時速194㎞で走行した場合、前方100mにある障害物を見つけると、2秒以内に判断して回避行動をとらなければ衝突してしまうのです。
テストドライバーの冨田さんは、30年以上さまざまな自動車のテスト走行を行ってきました。時代の変化とともに自動車の性能は向上しても、人間の能力には限界があることを忘れてはならないと指摘します。
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日本自動車研究所 冨田信道さん
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「自動車そのものの性能は、圧倒的に上がっています。外国には速度制限がない道路がある国もあるので、時速300㎞で走行できる自動車も存在しています。ただ、人間の能力は昔も今もそれほど変わるものではありません。やはり、視界から情報を受け取って、危険を見つけて、ハンドルやブレーキを操作して対処するのは人間なので、どうしても時間がかかります。自動車の性能が上がったからといって、いくらでもスピードを上げられるかといったら、そうはいかないのです」
モビリティジャーナリスト「以前より速度出しやすく ドライバーの意識が重要」
長年、車の性能などについて取材してきた自動車業界に詳しいジャーナリストの森口将之さんは、ここ20年ほどの車の性能の変化として、車の安定性が向上し、高速度を出してもハンドルの震えが少なかったり、トランスミッションに振動が出にくかったりすることで、簡単に高速度を出せるようになっていると指摘します。
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モビリティジャーナリスト 森口将之さん
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「自動車は公共交通機関に比べて自由に移動できるところが長所であり、メーカー側も車の性能を向上させようとすることは物作りの上で当然のことであるとも言えます。そのため、たとえ簡単に高速度を出せるようになったとしても、安全な速度で走るというドライバー側の意識が一層重要になってきます」
国はメーカー側に速度制限求めずも「対策必要と認識」
相次ぐ猛スピード運転の事故に対してどのような対策を取っているのか、国土交通省に対応を尋ねました。
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国土交通省 車両基準・国際課の担当者
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「車の性能が上がり、以前よりも速度が出せるようになったことは把握していますが、国としてはメーカー側に車の速度にリミットを設けるよう指導することはしていません。メーカー側が自主的に速度制限を設けているケースもあると認識しています。猛スピードでの車による悲惨な事故が相次いでいることについては把握しているので自動車メーカーなどと連携して速度抑制システムの開発、普及を行い、対策を講じていきたい」
車を運転し、猛スピードを出せば危険度も上がります。求められるのは、ドライバーの一層の安全意識です。