
激戦地・マリウポリは今 市民が語る深刻な“人道危機”
ウクライナ最大の激戦地・マリウポリ。1か月にわたりロシア軍に包囲され、電気やガス、水の供給が止まり、通信もほぼ壊滅状態となっています。
「陸の孤島」となった町で何が起こっているのか。3人の市民の証言から迫ります。
(4月4日放送「クローズアップ現代」から)
警官が語る 絶え間ない攻撃の恐怖
4月2日。今もマリウポリにとどまる警察官、ミハイロ・ヴェルシニンさんから、音声メッセージが届きました。通信状態が極めて悪い中、最新の状況を伝えてくれました。

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ミハイロさん
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「いまも激しい戦闘が行われています。警察は街の秩序を守ることができていません。警察官の多くは降伏したか、敵に寝返ったか、家に引きこもっているか、戦闘に参加しているかです」

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ミハイロさん
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「朝5時頃から夜12時まで、我々は砲撃を受けています。マリウポリにいる人間を根絶やしにしたいのでしょう。迫撃砲に始まり、その後は船やそれ以外からのミサイル攻撃、戦闘機からの攻撃、空爆、多連装ロケット砲で終わります。砲撃の回数は、信じられないほど多いです。街は焼け野原と化してしまいました。これは私の想像ではなく、現実に起きていることです。今はきちんとお話できません。たった今けがをしたばかりで、病院にいるからです」
地下シェルター 避難生活の壮絶な現実
民間人への容赦ない攻撃が続く中、マリウポリでは多くの市民が地下のシェルターに避難しました。テチャナさんとボロディミルさんの夫妻は11日間に渡り、自宅マンションの地下に身を潜めていました。今は西部リビウ州に避難し修道院に身を寄せています。

地下シェルターには100人ほどがいて、そのうち30人は子どもでした。気温がマイナス10度を下回る中、食料も水も電気もない、極限の生活を強いられていたといいます。
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妻 テチャナ・ビロストツカさん
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「子どもたちが、『お母さん、おなかがすいたよ』と叫んでも、食べるものはありません
でした。冷蔵庫がないので、やがて肉にカビが生えてきました。肉をトイレの水で洗って食べました」

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テチャナさん
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「トイレにも行けませんでした。1つのトイレを100人で使わなければいけませんでした。想像できますか? 何が何でも病気になるわけにはいきませんでした。病気になったらそれでおしまいだと言われます」
ふたりが地下で避難している間、知人の家に身を寄せていた夫の母が爆撃に遭い、亡くなりました。
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夫 ボロディミル・ビロストツキ―さん
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「2日後に、遺体を回収して埋葬するためにがれきを崩しに来ましたが、何も見つかりませんでした。埋めるべき遺体が見つからなかった。人間がちりと化してしまったのです」

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テチャナさん
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「“地獄”を見たような感覚です。“地獄”こそ、私たちが置かれた状況を表現するのに最もふさわしい言葉です」
命がけの脱出 検問所では惨劇も…
マリウポリから脱出する場合、ロシア側に向かう東のルートと、ウクライナ側に向かう西のルートに分かれます。ロシア軍は街に残る市民に対し、「ウクライナ側には行けない」と呼びかけていたという証言もあります。
この呼びかけに応じず、ウクライナ側に脱出したフリスティーナ・グサクさんが、命がけの避難の一部始終を語りました。
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フリスティーナさん
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「誤った情報が出回り、ロシアに連れていかれる人もいます。ロシア軍はマリウポリの住民に『ウクライナは君たちを見捨てた。唯一の救いはロシアに行くことだ』と言ってきます」

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フリスティーナさん
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「街から出るのはとても大変でした。郊外では、ロシア軍がこちらに向かってくるのが見えました。Zの文字に、戦車の銃口がこちらを向いているのが見えて、母は戦車が(砲弾を)発射すると思い、悲鳴をあげました。しかし、奇跡的にもその場を去っていきました」
フリスティーナさんはマリウポリから270キロ離れたザポリージャを目指しました。移動中に目にしたのは破壊された家屋や学校、高層ビル。焼けただれ、毛布のようなもので覆われた遺体…。その間にロシア側の検問を17カ所も通らなければなりませんでした。

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フリスティーナさん
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「検問所に近づくと、目の前で車が撃たれているのが見えました。そこには少女がいたのですが、彼らは彼女を撃ちました。ロシア人たちは『車にウクライナの工作員がいて立ち止まらなかった』と言い始めたのです。後部座席のドアが開いて、女の人が叫んでいるのが見えました。女の子のお母さんかおばあさんだったのでしょう。とても怖かったです」
マリウポリの中心部の半分を占領したとみられるロシア軍は、自国のメディアを市内に入れ、自分たちの軍事侵攻の正当性を主張しています。
マリウポリの市長によると「3万人もの市民が強制的にロシア側に移送させられている」としていますが、ロシアは「避難ルートを設置し市民を誘導・保護した」と主張しています。
マリウポリの街で実際に何が起こっているのか。その全体像は見えていませんが、現地の人々の声からは、深刻な人道危機の実態が明らかになってきています。