
身近な場所に危険が!ショッピングモールや公園のトイレでの子どもの性被害
「ママ、トイレ行きたい」
「もう小学生だし、一人で行っておいで」
ショッピングモールのレストランで食事中、私が小学生の娘にかけた言葉です。実はこの対応がとても危険な行為だったと、後にSNSの話題で知ることになります。
犯罪学の専門家は、日本の公共のトイレは「世界一危険」だと指摘。いったい、どんな危険が潜んでいるのか…。トイレでの子どもの性被害について取材しました。
(「ニュースLIVE!ゆう5時」ディレクター 佐伯 桃子)
※記事では性暴力被害の実態を広く伝えるために、加害の手口や言葉などについて触れています。フラッシュバックなど症状のある方はご留意ください。
楽しいお出かけで子どもが性被害の危険に… SNSで話題
いまSNSで「公共のトイレでの子どもの性被害」が話題になっています。公園やショッピングモール、駅など、お出かけ先のトイレで子どもが性被害に遭う危険性があると、意見が相次いでいるのです。
異性の親はトイレの中まで一緒についていけず不安だという書き込みや、身近な人が公共のトイレで性被害を受けた経験があるといった書き込みもありました。

「夫が小さいころ商業施設内のトイレで性被害に遭ったことがあり、息子が小さいころから外出先のトイレ利用には神経を張り巡らせてきた」
「近所の商業施設で女の子が事件に遭い身が震える思いをした」
「息子が4歳くらいのときに、ファストフード店で知らない年上の男の子に性器を見せてって言われた。子どもでもイタズラしてくる子いるからほんと目を離さないで」
もしかしたら、私の娘も被害に遭ったかもしれない…。自らの行動を振り返り反省すると同時に、安全だと思っていた場所がそうではなかったという事実に衝撃を受けました。
商業施設のフードコートなどは、明るくて大勢の親子連れがいます。最近はトイレの前にソファーや自動販売機があり、休憩も兼ねて子どもの見守りもできると思っていました。しかし専門家によると、性犯罪者はそうした場所で子どものリュックを持つなど “親のふり” をしながら、ターゲットとなる一人きりの子どもを男女問わず物色しているというのです。
日本の公共トイレは世界一危険?
犯罪学が専門で、これまで世界100か国以上のトイレや公園などを分析している、立正大学教授の小宮信夫さんです。小宮さんは、そもそもトイレは性犯罪が最も起きやすい場所の一つで、日本の公共のトイレは海外と比べても特に危険だと指摘します。

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小宮信夫さん
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「実は日本のトイレは世界一危険。トイレの中で性犯罪が子どもに対して行われていること自体も、あまり知られていません」
問題は、日本の公共のトイレの構造にあるといいます。犯罪が起きやすいのは「入りやすく見えにくい場所」。つまり犯罪者が怪しまれることなく簡単に標的に近づくことができ、かつ簡単に逃げられる場所です。
日本の商業施設などでは、見えにくい裏手の通路を抜けた先に男女のトイレが並んであります。まさに犯罪が起きやすい条件がそろっていると、小宮さんはいいます。
こちらは、2011年に熊本県で起きた女児殺害事件の現場となったスーパーマーケットのトイレの見取り図です。

図の右手から通路に入ると、手前が女性用のトイレ、その隣りに多目的トイレ、一番奥に男性用トイレがあります。トイレに行くには全ての人が同じ通路を通ることになり、しかも奥まった場所にあるため人目に付きません。トイレに向かう子どものあとに不審者がついていっても不自然ではなく、構造的にも犯罪につながりやすいといいます。
熊本の事件の犯人も女児のあとについて多目的トイレに入り、わいせつ行為を犯しています。
一方、海外の公共のトイレは犯罪を起こさせないための構造になっていると、小宮さんがいくつかの事例を見せてくれました。まずは、ニュージーランドのトイレの写真です。

男女のトイレの入り口が建物の正反対の位置にあり、異性がついていくと怪しまれ犯罪の機会を奪うようにレイアウトされています。
続いて、韓国の駅のトイレ。女性用トイレは最も奥に設置され、異性を警戒できるような設計になっています。

また海外の多くの国では、個室のドアの足元も空いていて複数の人が入るとわかるように作られています。

さらに、多目的トイレにも工夫が凝らされていると小宮さんはいいます。日本では、ほとんどの多目的トイレが男女共用。男性用トイレ+女性用トイレ+多目的トイレという、3つのゾーンで設計されています。誰でも出入りできるゾーンがあるため、犯罪が防ぎにくいというのです。

一方、海外の多目的トイレの多くは男女別。男女それぞれのトイレの中に多目的トイレが設けられ、4つのゾーンに設計されています。


誰でも立ち入れるゾーンをなくすことで、犯罪者が尾行しにくく周囲の人も異変に気づきやすいといいます。
おでかけ中のトイレ 小学4年生くらいまでは一人で行かせないで
―なぜ日本にはそうした考え方や仕組みがないのでしょう?
「海外では『犯罪を起こさせないためにはどうするか』という危機管理に基づいた設計が公共の建築に多く取り入れられており、トイレも同様です。しかし日本は基本的に性善説。そもそも犯罪が起こることを想定していません。加害者になる機会を構造的に減らすことより、『怪しい人に気を付けよう』『標語を覚えて頑張ろう』など注意を促す犯罪対策が多いように思います」
―犯罪は、意識するだけでは防げないということでしょうか?
「いかにも怪しい格好をしている犯罪者はほとんどおらず、街中の犯罪の9割は普通の服装をした人によるものです。怖かったら逃げようといいますが、突然襲われると体が硬直し防犯ブザーなども使えない可能性も高いです。そうしたことを知らないので、被害に遭ったら “運が悪かった” ということになってしまう。日本の公共トイレは構造的に危ないと知ってもらい、自治体レベルで変革していかないといけないと思います」

―ショッピングモールやスーパーには防犯カメラがありますが、抑止力にならないのでしょうか?
「熊本の女児殺害事件の犯人は、多くの防犯カメラがある店でおよそ3時間半もの間、堂々と女児を物色し続けています。もしカメラに自分の顔が捕らえられたとしても、犯行が発覚しなければ録画映像が見られることもないと考えていたと思われます。
小さなこどもを狙うわいせつ行為などの犯罪では、子どもを最後までだまし通せば事件は発覚しないと思っている犯人もいます。ある性犯罪者は、言葉巧みに子どもに近づき『こうすれば虫歯が治るんだよ』と何人にもディープキスをしていました。子どもは本当に虫歯の治療だと思い親へも言わないため、犯行が発覚するまでに時間がかかったといいます。
天井などについているカメラは顔を背ければ角度で顔が映らないこともあるので、顔が映りやすい目線の高さにカメラがないと抑止力はあまりないのではないかと思います」
―商業施設や公園などのトイレに、何歳くらいまで付き添ったほうがいいでしょうか?
「小学4年生ぐらいまでは、男女問わず一人ではトイレに行かせないでください。同性間の性犯罪もあります。そもそもトイレが安全だと思っていることは、大間違いです。
付き添いのときは『怖い人がいるかもしれないから一緒に行こう』と声かけをして、ショッピングモールや公園など公共のトイレは “怖い場所だ” と教え、子どもも警戒できるようになることが大切です。
トイレにいる間、親が声をかけ続けるのも大事。犯人は『子どものことを見ている親なのか』も実はしっかり観察しています。誰かが見守っているだけで、犯罪の抑止力にもなります」
―付き添うと子どもが自立しないのではという心配もあります
「大切なのは、自分の意見をしっかり言うことができる “精神的な自立” だと思います。精神的な自立ができれば万一、性被害に遭ったときも、親に相談できるようになります。また、他の人が触ってはいけないプライベートゾーンもしっかりと教えて下さい」
取材を通して…
今回の取材でいくつもの商業施設に問い合わせ、子どもへの性被害についての対策を尋ねました。警備員の監視の強化や防犯カメラの設置を実施している施設は多いものの、子どもへの性被害に特化して対策を行っている施設はなく、対策には限界があると感じました。
日本の公共のトイレが子ども一人で行くには危ない場所という現実…人目があるから安心だと思い込んでいましたが、もっと多くの方に知ってもらい、もし一人でトイレに行く子どもを見かけたら声かけや見守りをする、という意識を持ってもらいたいと思いました。
それと同時に、事業者や行政など社会全体で何か対策が取られるようになってほしいと、子を持つ親として率直に思います。
小宮さんの「性犯罪者は、子どもは加害されたことを理解できないので周囲に犯行がばれないと思っている」という言葉は忘れられません。卑劣な性犯罪がすぐそばで起き、子どもたちの心を傷つけ何年もむしばんでいくことは許しがたいことです。
また、万が一被害に遭ってしまったときにも子どもがすぐに話せるように、私たち大人の意識や普段からのコミュニケーションにも気を付けたいと思います。
子どもたちを守るために、現状を伝えて少しでも悲しい事態を防ぐことができるよう、これからも取材を続けて発信していきたいと思います。
※2023年3月1日、記事の内容を一部修正して再公開しました。
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