トラックドライバーへのアンケート結果 労働時間や給与についての本音は?
日本で1年間に運ばれる貨物は約43億トン。その9割を運んでいるのがトラックドライバーの皆さんです。日本の物流を支える大切な仕事にもかかわらず、“無料配送”“即日配達”などの陰でトラックドライバーの皆さんが厳しい労働環境に置かれています。労働時間は全産業平均より2割長く、脳や心臓疾患での労災認定の件数は全産業平均の10倍という衝撃の数字です。トラックドライバーはどんな状況で働き、どんなことを感じているのか。WEBサイトでアンケートを行ったところ、200件を超えるご意見が寄せられました。そこから見えてきたのは、コスト削減のしわ寄せがトラックドライバーに向かっていく現実でした。
※この記事は2024年3月12日に一部情報を加筆して更新しました
(クローズアップ現代「トラックドライバー」取材班)
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いわゆる「物流の2024年問題」。4月からトラックドライバーに“働き方改革”が適用、労働時間が制限されますが、改革に対して現場の対応が追いつかず、運送会社やドライバーから悲痛な訴えや不安の声が相次いでいます。物流現場の実情は?消費者への影響は?情報提供をお待ちしています。以下の情報提供窓口「スクープリンク」から声をお寄せください。
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『仕事の現状』についての質問
まず、トラックドライバーに「今の働き方にどのくらい満足しているか」聞きました。
満足・やや満足と答えたかたが32.6%、やや不満・不満と答えた人が48.6%と、不満を持っているかたが多い結果でした。
続いて、「どのような点に不満を感じているか?」最も不満に感じるものを選択肢の中から選択してもらいました。
その結果、「給与」と答えた人が55.4%で最も多く、続いて「人手不足」、「労働時間」が続きました。不満の理由を尋ねたところ、以下のような意見が寄せられました。
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【給与】
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長時間労働の割に全産業水準と比べても賃金が低く抑えられている。(40代・愛知)
基本給が安いため残業をしなければ生活が出来ない。家にいる時間が少ないので家族と遊ぶ時間までも奪われる。(40代・岩手)
拘束時間、仕事内容に見合った金額では無い。(30代・千葉)
歩合要素が高いため、休みが増えれば賃金の目減りが否めない。(50代・大阪)
何年経っても時給はほとんど上がらないのに、物量は倍ほどになった。(50代・奈良)
拘束時間が長い、朝早い、休みが少ないのに給料が上がらない。30年前より年収ベースで200万下がっている。(50代・大阪)
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【人手不足】
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自分が休んだ時に、代わりに出勤出来る人がいないので安心して休む事が出来ない(50代・福岡)
物量は増加しているがサービスを維持するための労働力が足りてない。(30代・静岡)
慢性的な人員不足により、休日休暇が制限されている。連休はあまりなく、それでも休もうとすると反逆者のような扱いを受けている(30代・千葉)
若い人の定着率が余りなく段々高年齢化してきている。(60代・神奈川)
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【労働時間】
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出勤時刻は荷主都合で毎日変わる。目的地も同様で、最長で往復800km超え。長距離で渋滞などに当たると一日の勤務時間は16時間を超える。通勤時間や食事を考えると最長で5、6時間しか寝られない。(60代・宮城)
拘束時間が長い。(30代・京都)
サービス残業。給与が出ない。(50代・東京)
『労働時間』に関する質問
人手不足や給与に対する不満、労働時間の長さについて、多くの意見が寄せられました。
さらに、「1年で最も忙しい時期の労働環境を具体的に教えてください」という質問に、以下のような回答が寄せられました。
最近忙しかった月は、13連勤があり、内8日は12時間以上の乗務でいずれも600km以上の走行。月間の走行距離は13,000km超え。時間外は管理されていて、80時間を超えないようになっている。配車について苦情を言うと、次から仕事を回してもらえなくなると考え、大人しく言われるままに与えられた乗務をこなすしかない。(60代・宮城)
年末繁忙期12月は、朝7時から夜11頃まで一か月続く。ただ耐え忍ぶだけ。(40代・埼玉)
朝5時に出社、昼食食べられない。退勤が22時、昼食夕食がこの時間になる。睡眠時間と食事の時間を削る。(50代・東京)
以前はお昼ごはんを食べないとか休憩を取らないことでしのいだが、現在はあきらめている。無理なものは無理。(40代・奈良)
大型連休前は常に忙しい。過去には200時間近く残業をしたことがあり体に異変は無かったものの気持ちだけで乗り切った。(40代・岩手)
1週間に1度しか家で眠れない。どうしのいだか?やるしかなかった。(50代・大阪)
休憩時間などを削り、休み無しで働く。1日の勤務時間が、18時間になったこともある。(50代・静岡)
16時間越えの違法な労働時間からの翌日までのインターバルが5時間ほど。(40代・大阪)
特に繁忙期には、十分な睡眠や食事をする時間もないほどの長時間労働を余儀なくされるという声が多く寄せられました。
次に2024年から始まる、年間960時間(月平均80時間)という新しい規定について「あなたやあなたの会社は、この上限を守ることはできると思うか」聞きました。
その結果、意外にも、65.2%が「守れる」と解答。その理由を聞くと・・・。
勤務管理については、以前よりかなり社内でも厳しくなってきた。(30代・徳島)
うちの会社は労働組合がしっかりしておりすでにそこまでの時間外労働をしていない。(40代・奈良)
現在、80時間よりはるかに少ない残業でおさまっている。(50代・福岡)
社員の健康を守る為に、守ってもらわなければならないから、守れないではなく守る体制を整えていただく。(30代・静岡)
などの理由で「守れる」という声が多く寄せられました。しかし、別の意見も・・・。
人が足りてないのに守れるわけがない。(30代・奈良)
業界大手は社会的な対応として守ると思いますが、中小や個人経営の運送会社は法を犯した対応を継続すると思います。(50代・兵庫)
残業代を払えないので、名目上は範囲以内に収まるようにするでしょう。(50代・静岡)
絶対無理。労働時間を誤魔化す。(50代・東京)
関東圏に向けて輸送をすることが多く、九州、四国から青果、魚等を輸送する場合、遵守することは不可能に近いのではないか。新鮮を求めれば無理が生じる。(30代・愛媛)
など、守ることはできないだろうという声も多く寄せられました。
また、そもそも「残業の上限時間が減ることをどう思いますか?」という質問に対する答えから、トラックドライバーの労働環境を巡る複雑な事情が見えてきました。
賛成・やや賛成と答えた人が38.2%、反対・やや反対と答えた人が29.8%と意見が大きく割れました。回答の理由を聞いたところ以下のような意見がよせられました。
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【賛成・やや賛成】
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労働時間が長すぎる。(50代・神奈川)
仕事も大事だが自分の時間も大事にしたい。(50代・福岡)
ワークライフバランスが取れていない。(30代・千葉)
労働時間を短くしないと若手のドライバーが入社しない。(50代・広島)
命と健康を大切にしたい。(50代・大阪)
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【反対・やや反対】
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残業で稼がないといけないのに、960時間でしばられると、さらに給料が減るので生活ができない。(40代・大阪)
基本的に歩合給なので労働時間の上限は賃金の減少につながる。(40代・埼玉)
稼ぎたい人が稼げない。(40代・東京)
残業ありきの給料体系なので給料が減るだけ‼️(50代・大阪)
現在の中小運輸業の体制では、上限時間が減ったところで、各ドライバーの仕事の量は変わらない。つまり、給料の支払われない仕事が増えるだけ。(50代・大阪)
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【どちらでもない】
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トラックドライバーの大半は残業代で稼ぎが決まる。残業なしでは食べていけない。けれど働きすぎると身体が持たない。(40代・埼玉)
残業しなければ給料が下がる。基本的な賃金体系が変わらなければお上が何を決めようが、現場には反映されないし、結局割りを食うのは現場の人間。(60代・宮城)
「労働時間が減る」ことそのものについては賛成の声が多いものの、「残業代ありきの給与水準のため、労働時間が減ると収入が減ってしまう」というジレンマを訴える声が多く寄せられました。
『給与や待遇』に関しての質問
続いて、現在の「給与や待遇」に満足しているか聞いた結果が、次のグラフです。
不満・やや不満が69.6%と、満足・やや満足の15.2%を大きく上回りました。
「トラックドライバーの待遇改善の足かせになっているものは何だと思うか」という質問に対しては、以下のような回答が寄せられました。
過度な価格競争による適正運賃の収受が難しい。(50代・熊本)
規制緩和により運送事業者が増え、生き残りのために過度な価格競争があったため。コンプライアンスを無視した価格の安い運送事業者が生き残りドライバーへの待遇面での負担が増える悪循環になっている。(40代・大阪)
物流業界は自由競争での運賃安売りをし過ぎた。(40代・新潟)
物を運ぶという流れやそれに伴う労働力を甘く見過ぎている。(40代・奈良)
運賃の安さ。物流費を削減可能なコストと考えている荷主企業の利己主義な考え方。運んで当たり前、着いて当たり前と思っている国民のエゴ。(50代・広島)
送料無料の表記がトラックドライバーの仕事の価値を著しく下げている。(40代・奈良)
『働く理由』についての質問
続いて、「辞めたいと思ったことはあるか」聞きました。その結果が以下のグラフです。
いつもそう思うが22.3%、たまにそう思うが61.5%、思ったことがないが16.2%。
多くの人がやめたいと考えたことがあると回答しました。
“過酷”とも言われる労働環境の中で、「トラックドライバーを続けるのはなぜか」聞きました。
子供の頃からの憧れの職業だった。(60代・神奈川)
運転が好きだし、運転以外で飯が食えるほどのスキルもないから。(40代・埼玉)
商品を待つ消費者の期待を裏切らないため。(40代・愛知)
給与は低いが社会インフラを担っている自負があるから。(40代・奈良)
大切で必要な仕事だと感じているから。(60代・広島)
全国の色んな景色を見れるし、悪い事ばかりじゃない。でも、休みがない!(40代・新潟)
インフラの一部としてのプライドがある。震災直後は、やはり必要な仕事と実感した。(40代・岩手)
厳しい労働状況の中でも、社会に必要なインフラを支える仕事としてプライドを持って働かれていることが伝わってきました。
変わって欲しいことは?
最後に「トラック業界の働き方が今よりも良くなっていくために、最も変わって欲しいのは誰か」聞きました。
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【運送会社】
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強い気持ちで荷主にぶつかって、法令遵守、ドライバーを守ってほしい。(30代・東京)
業界として、荷主と対等に向き合い、健全化に努めて利益をきちんと労働者に配分してほしい。(50代・大阪)
現場に穴をあけられないという理由でドライバーにむちゃをさせないで。(40代・東京)
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【荷主】
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自分の荷物がどのように運ばれているかを認識し、それに見合った運賃を払ってほしい。(60代・宮城)
仕事を丸投げするのではなく、実態を把握してほしい。(40代・岩手)
安全運行、法令順守にはコストがかかることを理解してほしい。(50代・兵庫)
送料無料などありえないし、他の産業のように燃料代が上がった時などに運賃に転嫁できる仕組みを作ってほしい。(50代・東京)
待機時間削減の取り組みが必要。(60代・奈良)
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【消費者】
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運送料がタダなのを当たり前だと思わないでほしい。(50代・北海道)
何でも値上げの世の中ですが、運賃を上げてもらうには消費者に商品の値上げをのんでもらう必要がある。(40代・埼玉)
人手・燃料を使っての仕事。料金がかかるのは当たり前。通販の送料無料と言う言葉を使ってほしくない。(40代・奈良)
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【国】
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自由競争にした結果、運賃の低下を招いた。サービスの安売りをするべきではないし、国民にサービスは有料であることの認識をもっとさせるべき。(30代・東京)
労働時間の規制ばかりして荷主の安い運賃を見て見ぬふりをしている。(50代・広島)
日本の物流はほとんどがトラック輸送なのでもっと高速料金を値下げすべき。(50代・奈良)
国が船頭となり荷主、消費者のドライバーへのイメージを変え、運賃の見直し給与の見直し、労働条件の見直しをすべき。ただ労働時間や残業時間を減らせば単純に給料が減り人手不足になるだけ、なおさらドライバー離れになる。(50代・北海道)
国の方から最低運賃の引き上げと運送約款など荷主や納品先や消費者への周知をしてほしい。(30代・大阪)
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【その他】
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問題はひとつではない、トラック輸送についての考え方を改善しないといけない。(50代・広島)
現在の輸送サービスはどこかが無理を強いて維持されている。消費者と荷主にその現状を知っていただきたい。(40代・奈良)
全てが変わる必要がある。国が主導し、荷主や消費者、そして運送会社の「従来の当たり前」を覆さなければ20年後には物流が崩壊しかねないところまで来ていると思う。(30代・熊本)
生鮮食料品から電化製品までいつでもどこでもモノが簡単に届く便利な時代。トラック輸送は私たちの日々の暮らしや日本の経済の根幹となっている物流インフラです。
その一方で、トラックドライバーの皆さんの労働環境は過酷を極め、日本の物流は危機に瀕しています。今後も安定的な物流を維持していくため、長時間労働や不当な労働を防ぐ取り組みをより進めていく必要があるのではないでしょうか?
クローズアップ現代では、みなさまの声を取材に生かしていきたいと考えています。物流現場の実情は?消費者への影響は?情報提供をお待ちしています。以下の情報提供窓口「スクープリンク」から声をお寄せください。
クローズアップ現代 “送料無料”の陰で・・・ トラックドライバーの悲鳴
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