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酒造り 原料も電気も地元産 老舗酒蔵9代目の思い

近ごろ「地産地消」という言葉を耳にしませんか?地元で生産されたものを、地元で消費するという意味で、主に農産物や海産物など食べ物に使われることが多いと思います。

福島県喜多方市にある老舗の酒造メーカーの9代目会長は、地元産の原料だけではなく、「地元産の電力」にまでこだわった酒造りを行っています。

“究極の地産地消”を目指す理由とはどこにあるのでしょうか?
(「Ethical Every Day」 NHKエンタープライズ ディレクター 小藤理絵)

メイドイン会津 こだわりの酒造り

訪れたのは福島県の西部、会津盆地にある喜多方市です。近くには2000メートルを超す山が連なる飯豊連峰がそびえます。

ここで、口当たりの柔らかい飯豊連峰からの湧き水と、自分たちで育てた米を使って酒造りを行っているのが、江戸時代から続く老舗の酒蔵です。地元の原料にこだわって酒造りをする理由を9代目の佐藤彌右衛門(やうえもん)さんが教えてくれました。

左・佐藤彌右衛門さん
酒造会社会長 佐藤彌右衛門さん

「先代から『自分の周辺で生産されるものを大事にしなさい』と教わってきました。自分の身の周りで取れる食材で、十分食べていけると教わってきたわけです。この土地にはあふれるほどに豊かさがあるんだよって。

高度経済成長期の頃は、酒に使う米は農薬を使うなど工業的な米作りで、大量生産・大量販売されてきました。酒もまた、工業製品のような大量生産・大量販売の酒造りになっていて、これは違うなと気付いたんです。

自分の酒蔵の持っている個性や力をどう生かすかということで考えたのが、米と米こうじだけで作る純米酒でした。水と米、こうじ酵母で作るので、よそから持ってくるものは何もないんですね」

佐藤さんの酒蔵は、先代の教えを守ろうと盆地の豊かな恵みで酒を造ることを続けてきました。今では酒に使う米の80~90%を自分たちで栽培しているというこだわりぶりです。

発電所を作った

地元にこだわった酒造りを続けていた佐藤さん。12年前に人生を変える出来事が起きました。2011年に起きた東日本大震災です。

佐藤さんの酒蔵がある喜多方には大きな被害はありませんでしたが、震源地に近い福島県東部では停電や断水でライフラインが途絶えるなど、大きな被害が出ました。佐藤さんたちは自分たちに何かできないかと、喜多方の湧き水を大量にくんで被災地支援に向かうことにしたのです。

そうした支援の準備を進めていた時に、東京電力福島第一原子力発電所の事故を知りました。

右・被災地支援に向かう佐藤さん

「東京電力福島第一原子力発電所がメルトダウンするのを目の当たりにして、豊かな会津を次の世代に渡していくと言われていたことがダメになると思いました。これはもう数百年の歴史もダメになると思いました。

この経験から、これまでずっとエネルギーをよそから依存していたということに気付きました。原発事故も含めて、もう自分たちで電力を作ろうと決めました。地産地消をやろうと」

佐藤さんは酒造りの原料は地元産のものを使ってきたものの、酒蔵の機械を動かす電力が地元で作られたものではなかったことに気付いたのです。

会津の再生可能エネルギーで発電した電気で酒造りをしたい。そんな思いから、佐藤さんたちは2013年小規模分散型の発電事業を立ち上げました。

非常用のコンセント

佐藤さんが作った一部の発電所では非常用のコンセントも設置しました。震災の際、停電になった教訓を生かし、災害時にはコンセントを開放して住民に電力を供給することにしました。

その後、佐藤さんたちは小水力発電所も設置。発電所は約90か所にまで広がりました。現在の合計発電出力は約6000キロワットで、一般家庭約1900世帯分の電力をまかなえるまでになりました。

電気の地産地消で地域も元気に

2021年には発電した電力を地域に小売りする事業を立ち上げました。これまでは発電した電力を大手電力企業の小売り会社に販売し、そこから各地の契約者に供給されるため、作った電気を誰が使っているのかが分かりませんでした。

しかし、自分たちで作った電気を自分たちで販売ができるようになったため、地元の再生可能エネルギーで作られた電力を使いたいという喜多方の住民たちや、そのほかの地域の人たちに供給できるようになりました。

もちろん、佐藤さんの酒蔵でも自分たちで作った電力を使って酒造りをしています。

会津の豊かな資源を活用して作った安心安全な電力を、地元の人たちに使ってもらいたいと立ち上げた小売り事業。それが、自分の生まれ育った町や人を元気にすることになると考えています。

佐藤さん

「再生可能エネルギーで電気を作り、地元で使うということ。それによってお金が地域で回り、雇用も発生する。そういう意味でいうと、地域の一つの活性化につながっていると感じています。

化石燃料を使うのではなくて、地域にあるものを掘り起こして地域循環の中でやっているので、むだがないんですね。持っている資源を地域で回すことによって、次の世代にも受け継いでいく。自分の生まれた場所が豊かなんだということをわかって継いでいく。それが生きる意味だと思います」

〈取材を終えて〉
東京電力福島第一原子力発電所の事故後に「原発に依存しない再生可能エネルギーによる社会を」と佐藤さんが中心となって作った電力会社。今年の8月で設立10年となったそうです。

楽しそうに仕事をされている佐藤さんの姿が印象的でした。佐藤さんたちの情熱は衰えることはなく、風力発電や地元の森林を活用したバイオマス発電の準備も進めているそうです。福島の4種類の再生可能エネルギーで、地元の人たちの電力がすべてまかなわれる日も近いかもしれません。

日本は世界と比較すると、再生可能エネルギーの導入率は決して高くはありません。しかし、佐藤さんたちのような地域に根ざした再生可能エネルギーを用いた電力作りが広がることで、地球にやさしい電気を使える選択肢が増えてほしいと思いました。

皆さんの住んでいる町での地域密着型の再生可能エネルギー発電の取り組みはありますか? ぜひ、コメントで教えてください。

担当 地球のミライの
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