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「グリーンリカバリー」が世界で加速 欧米も中国も

新型コロナウイルスで落ち込んだ経済をどう回復させるのか?いま欧米でこの議論の中心になっているのがグリーンリカバリーというキーワードです。直訳すると「緑の復興」ですが、従来型の景気刺激策ではなく、脱炭素型社会に向けた投資によって経済を復興させよう、という考え方です。(こちらの記事も☞「グリーンリカバリーと“持続可能な”再エネ」
就任と同時にパリ協定への復帰に署名したアメリカのバイデン大統領は、4年で200兆円を越す巨額のグリーンリカバリー投資を表明しています。アメリカだけではありません。イギリスもEUも、そして中国もー グリーンリカバリーをめぐる各国の動きをお伝えします。
(『地球のミライ』取材班 プロデューサー・堅達京子)

次々に打ち出される『グリーンリカバリー政策』

去年12月12日、各国の首脳級会合「国連気候野心サミット」がオンラインで開催され、首脳級の会合「国連気候野心サミット」では、次々と新しい政策が発表されました。

最大の排出国である中国は、9月の国連総会で「CO2排出量を2030年までにピークにし、2060年までに実質ゼロをめざす」と宣言していましたが、習近平国家主席は、中国が2030年までにGDP(国内総生産)単位あたりの二酸化炭素排出量を2005年に比べ65%以上減らすなど、新たな自主目標を発表しました。

トランプ政権だったアメリカはこのサミットには参加しませんでしたが、大統領就任を控えていたバイデン氏は、同じ日、改めて気候変動対策の強化を表明しました。 バイデン大統領は、選挙公約として任期となる4年で200兆円を超す規模をグリーンリカバリー に投資し2035年までに電力の脱炭素化を目指すとしています。

EUも2030年までの削減目標を40%から55%以上に引き上げました。中でも、今年11月に開催される温暖化対策の国際会議「COP26」のホスト国・イギリスは、率先して野心的な目標を打ち立てました。

ジョンソン首相は「イギリスは、2030年までに1990年比でCO2を少なくとも68%削減します。コロナ禍から抜け出しながら、地球を救い、膨大な雇用を生み出すためです」と訴えました。まさにこれがグリーンリカバリーの考え方です。

イギリスは着実に実現するための具体策を発表しています。「グリーン産業革命に向けた10の計画」と名付け、洋上風力の強化や、2030年ガソリン車の新規販売禁止さらには建築や農業分野の脱炭素政策まで分かりやすく国民に示しました。蒸気機関から始まった元祖「産業革命」の国として、今度は「グリーン産業革命」を主導するという強い決意が表れています。

フロントランナーをめざすEUの対策

EUも負けていません。27か国・人口4億5千万近い市場が一丸となって、脱炭素革命をめざします。新型コロナからの復興予算の30%を、気候変動対策などのグリーンリカバリーに当てることを発表し、今後10年間で120兆円規模をグリーン分野に投じると宣言しています。中心になっているのは、排出量の75%を占めるエネルギーの転換です。

EUの電力業界は2020年以降の石炭火力の新規建設を禁止し、風力や太陽光など再生可能エネルギーへの転換を進めていきます。この他にも、電気自動車などの普及を一気に進めるため2025年までに百万基もの充電設備を整備します。
さらに、エネルギー消費を抑えるため2030年までに住宅や公共施設の断熱化を推し進める計画です。

もう一つ力を入れているのは、サーキュラーエコノミー (循環経済)への転換です。EUでは、排出量の20%を占める製造業などの産業部門も循環型に変革。生産・輸送・廃棄などの工程で、大量の温室効果ガスが発生する繊維産業に対しては、古着から繊維を取り出して再利用することなどを強く求めています。

しかしこうした様々な対策には費用がかかり、コスト高となるため、製品の競争力としては不利になります。そこでEUが2021年に具体案を示す予定なのが「国境炭素税」です。

温暖化対策を取っていない企業に対価として税金を支払わせる大胆な制度です。それを支払わない限りEUの中で製品を流通できなくします。

『炭素税』各国の動きは?

炭素税と聞くとアレルギー反応を示す方もいるかもしれませんが、それは制度設計しだいではないかと、個人的には思っています。気候危機を進めてしまう炭素の排出には、平等に税をかけて徴収する。ただし、そこで集めた税源をどう配分するかについては、脱炭素社会への公正な移行に役立つ、きめ細かい目配りが必要です。
例えば、燃料税の引き上げに反対している車を移動に使わざるを得ない人々をはじめ別の産業への転換を迫られる炭鉱や石炭火力発電などの産業で働く人々への補償や、他にも様々な人々に公正に資金が還元される仕組みを整えることはとても大事な視点です。

そこをきちんと設計できれば、炭素税をはじめとするカーボンプライシング(排出される二酸化炭素に価格をつけ、排出量に応じたコストを負担してもらう)という考え方は、気候変動を食い止める大きな力になるはずです。

国連の気候野心サミットでは、カナダのトルドー首相が連邦炭素税を2030年にCO2排出量1トン当たり170カナダドル(約14,000円)にまで大幅に引き上げると発表しました。これまでは毎年10カナダドルずつ引き上げ、2023年には50カナダドルにするとしてきましたが、今回2030年までの長期目標を掲げることで、産業界への強いメッセージを送ったのです。

日本企業も『再エネ導入目標』の引き上げ求める

1月18日、気候変動対策を求める大手企業の集まりJCI(気候変動イニシアティブ)に参加する192社が、2030年までの再生可能エネルギーの導入目標の大幅引き上げを求めるアピールを行いました。「2050年カーボンニュートラル実現の鍵として、欧州各国や米国の州は『2030年までに40〜74%』という高い再生可能エネルギー電力導入目標を決めているのに、日本の現在の2030年度目標は『22~24%』に留まっています。今年策定される次期エネルギー基本計画では『2030年度の再生可能エネルギー電力目標を40~50%とすることを求める』」というものです。

痛みを伴うカーボンプライシングの議論は、長年たなざらしになってきました。しかし脱炭素というのは経済利害も関わる重要な問題です。2050年にカーボンニュートラルを実現し、特に正念場と言われる2030年までの具体的なロードマップを考えるには、様々なステークホルダーを巻き込んだ国民的な議論が必要です。脱炭素社会の構築のため、いまこそ、国を挙げて議論をすることが求められていると思います。

いま世界中で、野心的な目標引き上げやビジネス界の動きを後押ししているのが、気候変動対策を求める若い世代の訴えです。グレタ・トゥーンベリさんをはじめとする若者たちは、政治家たちに働きかけるだけでなく、個別の企業やプロジェクトに対して抗議の声をあげるなど、プレッシャーを強めています。

こうした声に、世界の先進的なグローバル企業はどうこたえようとしているのか?脱炭素に向かうビジネス界の最新の動向については、次の機会に詳しくご報告したいと思います。

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