
財津和夫さん “ファンは家族” ともに歩んだファンとたどり着いた50周年記念ツアーファイナル
「心の旅」「サボテンの花」などのヒット作で知られる音楽グループ「TULIP」のリーダーで、シンガーソングライターの財津和夫さん(75)。昭和から令和に至る約50年間にわたって音楽業界をけん引してきました。
7月中旬、「TULIPとしては最後」と話す50周年記念ツアーのファイナルを迎えました。その直前のインタビューでは「ファンの皆さんとともに」「ファンのおかげ」と何度も50年連れ添ったファンへの感謝を口にした財津さん。ともに歩んできたファンとの間にはどんな絆があるのか聞きました。
「NHK MUSIC SPECIAL~TULIP 50周年記念ツアー 50年の軌跡~」
NHK総合 2023年8月31日(木)22:00~22:45
「TULIP 50周年記念ツアーファイナル 福岡 4Kライブ」
NHKBS4K 2023年9月9日(土)21:00~22:29
たどり着いた全国ツアーファイナルの日

7月15日、財津さんのふるさと福岡で迎えた50周年記念ツアーのファイナル。会場は満員、立ち見が出るほどで普段以上の熱気に包まれていました。そのほとんどが50代以上。TULIPとともに年齢を重ねてきたファンたちです。
財津さんはコンサートの冒頭、駆けつけてくれたファンたちに、こう語りかけました。
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財津和夫さん
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「またお会いできたこと心からうれしく思っております。そして感謝申し上げます。こんな長くやってこれると思っておりませんでしたけども、皆さんも私たちも年をとってしまいましたね」
TULIP ファンと共に歩んだ50年

1972年に福岡から上京し、「魔法の黄色い靴」でデビューしたTULIP。3枚目のシングル「心の旅」が大ヒットし、一躍人気バンドとなりました。以来、「虹とスニーカーの頃」や「青春の影」などヒット曲を連発、さらに全国でコンサートを開催し、社会的にも注目を浴び続けました。

デビュー当時からファンだったという女性がいます。長野県在住の手塚恭子さん(65)です。3歳上の兄の影響でビートルズなど洋楽によく触れていたという手塚さん。中学生の時、初めてラジオで「魔法の黄色い靴」を聞いたとき、衝撃を受けたと言います。
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手塚恭子さん
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「兄のレコードを借りてよく洋楽を聴いていましたが、同じようなテイストの曲が流れてきて、すぐに誰が歌った曲か調べるとTULIPだったんです。以来、メロディーもそうですし、優しい歌詞や歌声に惹かれファンになり、学校から帰るとずっとTULIPの曲を聴いていました」
手塚さんの大好きな曲があります。1975年に発表された「心を開いて」です。
君の人生をみつめてごらん
君はやりたいことをやっているかな
一度っきりの この人生は
君の心一つで自由になるものさ
信じるものが もしないなら
それは君が心を開かないから
心の壁を破ってごらんよ
見過ごしていた世界がすぐ見えてくる
生きてることに疲れたとき
失敗だらけで悲しいときは
想い出そう 眼を閉じて
幼い頃の澄みきった世界を
人の口はいつもうるさいもの
とぼけた顔して 生きてゆくのさ
いくら悩んでも むだなことさ
だって死ぬまで一人にゃなれないものだから
聴く人に寄り添う優しい歌詞が特徴的で、手塚さんは何度もこの曲に励まされてきました。
夫と離婚したとき、コロナ禍で仕事を辞めたとき、つらいことがあっても財津さんの歌声に支えられてきたと言います。
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手塚恭子さん
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「TULIPの曲は心の栄養剤なんです。誰かに怒ったり、苦しいことがあって悲しかったりしても、曲を聴いていると自然と心が落ち着く。それが私が50年間TULIPの曲を聴き続けた理由な気がします」
財津さんが大切にしてきた“まじめさ”

なぜ財津さんが作った曲は、半世紀にわたり多くの人に支持されてきたのか。私たちは今回の取材の中で率直に疑問をぶつけると、財津さんが大切にしてきたことを教えてくれました。
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財津和夫さん
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「50年経って思うのは、まじめなところは変わんなかったなって。だからみなさんそのところには親しみを持ってくれてるのかなって思いますね。まじめの概念にはいろいろあると思いますけど、自分っていうものを曲げない、頑固に一徹に自分の信じるもの、正しいと思うことを突きとおす、これはまじめだと思うんですよね」
財津さんの言う“まじめさ”。それは流行廃りに影響されない曲作りにあります。そのときの流行にあわせて曲をつくるのではなく、自分たちのポリシーを貫く。それを示すエピソードがあります。
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財津和夫さん
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「ずいぶん昔ですけど、事務所の一番偉い人と話したときに『財津はいい餌つけて、魚釣りしてない。もっともっと漁場が広いのに、もっともっと釣れるのに、そうしようとしてない』っていう例えで諭されたことがある。だからすぐその時に『お言葉ですが』って返したんですけど、自分たちの漁場を長く確保することのほうが絶対これからいいですからって言った記憶あるんですよ。
それはもう世界中の7つの海の魚を取れるようなバンドになった方がいいですけど、たぶん自分のキャラクターとか自分の能力とかそういうものを考えたら、やっぱり小さな漁場で細々と長くの方がよかったって判断したんでしょうね。だってもう、諸行無常を嫌っていうほど見せられてますんで、いやトップになると怖いぞっていつも思ってました。そんな心配もなかったですけどね。トップにいくこともなかったんで余計な心配だったんですけど」
謙遜しながらも財津さんが教えてくれたエピソード。そこには財津さんやTULIPが50年、多くのファンから愛された理由が詰まっていました。
ファンに支えられた時期も
多くの曲でファンを支えてきた財津さん。一方でファンに支えられる時期もありました。2017年の全国ツアー中に大腸がんが判明。残りの公演を中止にせざるを得なくなりました。闘病は半年に及び、想像を超える苦しさを経験したといいます。
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財津和夫さん
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「がんになったときは覚悟しました。年齢も年齢でしたからここが潮時なんだろうなって。ずっと薬を飲み続けなきゃいけないんですよ。再発防止の副作用が強くて食欲が出ないのはもちろんですけれど。味覚がない 嗅覚がない。食べようとすると戻しそうになる。覚悟はしましたけれど いろんなことを」
引退さえも頭をよぎったという財津さんを支えたのが、ファンから寄せられた声でした。財津さんのもとには多くの手紙やメールが届きました。
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財津和夫さん
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「お手紙やら、お便りやらいろいろいただきまして、それで、待ってくれてる人もいるんだったら、これは自分にとっても欠かせない日常生活の一部であるわけですから、ぜひとも力をもう一回入れ直そうと思えるようになりました」
全国ツアー中 財津さんとファンの絆がみえた場面も
互いに励まし、支え合いながら50年という長い月日を過ごしてきた財津さんとファン。その絆が見えた場面が今回の全国ツアー中にありました。
去年6月に行われた長野でのコンサート。アンコールの最後にデビュー曲の「魔法の黄色い靴」を歌っている時でした。
歌声が一瞬途切れ、その後もこみ上げるものを抑えるように歌います。そのとき財津さんの目に入ったのは、客席で涙を流すファンの姿でした。
そして最後はとうとう感情があふれ出た財津さん。ステージの上で私たちが初めて見た涙でした。
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財津和夫さん
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「客席のファンは僕らのことを思ってくれているんだな、それも強く思ってくれているんだな。何か愛を感じてしまった。泣いている人を見て長年の思いを持ってここにいらっしゃってるんだなと思うとそれが嬉しかったです」

2022年から始まった今回のツアーは当初、新型コロナウイルスの感染防止のため声出しが制限されていました。しかし、2023年にはいってからの公演は声出しが解禁となりました。「魔法の黄色い靴」はもともと、メンバーとファンがともに大合唱する曲でしたが、その日常が戻ってきたのです。その光景を目の当たりにして財津さんが思うことがあったといいます。
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財津和夫さん
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「本当によかったと思います。おかげさまで、こんな歳になったらちゃんとした歌を届けられないなと思ったんですけども、客席の皆さんが本当に許してくださっているので、今まで一緒に歌ってくれていた歌も、もっと今まで以上に今回大きな声で歌ってくださっているので、きっと僕の非力さをカバーしようと思ってやってくれてるなっていうのが伝わってくる」
“家族”へ ありがとう

半世紀にわたり共に歩んできたファン。最後に財津さんにとってファンはどんな存在なのか問いかけてみました。
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財津和夫さん
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「長い間付き合っていただいてね。50年付き合っている方もいらっしゃいますからね。家族ですよ。不思議な関係だなって思います。真面目にやってきたところを見てくれていて、そこにつながりを感じていてくれているんだったらそれはもう一番うれしいです。だからありがとうの一言しかありません。もう本当にありがとうございましたって感じですね」
“家族”ともいうファンとともに迎えた全国ツアーのファイナル。財津さんにとってもメンバーにとっても、そしてファンにとっても特別な時間となりました。
ファイナルの様子を取材した番組の放送予定は以下の通りです。
「NHK MUSIC SPECIAL~TULIP 50周年記念ツアー 50年の軌跡~」
NHK総合 2023年8月31日(木)22:00~22:45
「TULIP 50周年記念ツアーファイナル 福岡 4Kライブ」
NHKBS4K 2023年9月9日(土)21:00~22:29
【続けて読む】ツアー開始前の財津和夫さんインタビュー
