おもわく。
おもわく。

 明治維新の立役者の一人であり「江戸無血開城」等の政治的難事業をなし遂げた稀有な政治家、西郷隆盛。晩年こそ反逆者として追われ不遇の最期を遂げたが今なお多くの人から慕われ続けています。しかし、特に晩年の行動は謎に包まれており、今でも議論が尽きません。西郷を生涯にわたって支えた思想とはどんなものだったのか? それを知る上で大きな手がかりがあります。生前の彼の言葉が記録されている「南洲翁遺訓」です。

 編纂したのは元庄内藩有志たち。西郷の仇敵にあたる庄内藩の人たちが彼の言葉を残そうとしたのは、西郷のはからいにより庄内藩に寛大な処置がとられたからでした。その高潔な人格に感動した人々による編纂であるため、これまでは「偉人・西郷隆盛」をイメージづける名言集という読まれ方がなされてきました。しかし、その言葉の端々に潜む意味を丁寧に読み解くと、西郷が世界史の動向を鋭く見据え、比類のない洞察力で、国家のあり方、文明のあり方、人間のあり方を模索し、新たな時代の指針を打ちたてようとしていたことがわかってきます。研究者の先崎彰容さんは、この書が単なる名言集を超えた一級の思想書であり、これまで謎とされてきた西郷晩年の行動の意味を解き明かす鍵を握っているといいます。

 また、その言葉の裏には、せっかく維新を成し遂げたにもかかわらず志を失い私利私欲にふける官僚達、民のことを忘れ権力闘争にあけくれる政治家達、物質的な繁栄のみを追い求めようとする政策等々への、西郷の深い憂いがこめられています。この書は、明治新政府への厳しい諫言でもあり、現代社会の問題をも鋭く刺し貫く射程をもっているのです。

 大河ドラマ「西郷どん」の放送がスタートする2018年1月。幕末から明治維新への激動期、新しい国づくりのために、51年の人生のすべてを捧げた西郷の言葉から、あるべきリーダーの条件、国家や経済への洞察、困難を乗り越えるための人生の指針など、現代の私たちが学ぶべきメッセージを読み解いていきます。

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第1回 揺らぐ時代

【放送時間】
2018年1月8日(月)午後10時25分~10時50分/Eテレ
【再放送】
2018年1月10日(水)午前5時30分~5時55分/Eテレ
2018年1月10日(水)午後0時00分~0時25分/Eテレ
※放送時間は変更される場合があります
【指南役】
先崎彰容(日本大学教授)
【朗読】
津田寛治(俳優)
【語り】
内藤裕子

西郷が生きた時代、1830-70年代は、世界で巨大な情報通信革命とエネルギー革命が急速に展開している時代だった。一大鉄道網の敷設、大陸間をつなぐ海底電信ケーブルの設置等々、現在でいえばインターネット革命に匹敵するような巨大な地殻変動。その余波が超大国ロシア帝国をも揺さぶる時代。「南洲翁遺訓」を読むと、西郷が世界史的視野からそうした変動を鋭く洞察し、国家がどうあるべきかについてのヴィジョンを模索していたことがわかる。こうした激動の時代だからこそ、国家の屋台骨を打ちたて、世界に伍する国柄を明確にせねばならないと考えた西郷は、巨視的な立場から、藩閥政治の利害争いや安易な西洋文明の模倣に対して、鋭い批判を展開する。第一回は、西郷の人となりなども交えながら、彼の思想の先見性に迫っていく。

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第2回 「敬天愛人」の思想

【放送時間】
2018年1月15日(月)午後10時25分~10時50分/Eテレ
【再放送】
2018年1月17日(水)午前5時30分~5時55分/Eテレ
2018年1月17日(水)午後0時00分~0時25分/Eテレ
※放送時間は変更される場合があります
【指南役】
先崎彰容(日本大学教授)
【朗読】
津田寛治(俳優)
【語り】
内藤裕子

ともすると、古きよき人生訓やビジネス指針として読まれがちな「敬天愛人」の思想。しかし、「南洲翁遺訓」を読み解いていくと、そこには時代を経て培われてきた奥深い思想が秘められていることがわかる。そのエッセンスの一つが佐藤一斎らが展開してきた「陽明学」。維新が成った結果、人々の欲望が解放され、経済的利害のみが人々を動かす行動基準になろうとしていた時代、西郷は、改めて日本人がよって立つべき原理を「天」という概念に求め、旧秩序の崩壊で価値基準が混沌する中、国家の命運をかけた大きな決断を下す際の基準点をぶれることなく持ち続けた。第二回は、奄美流罪時代の西郷の苦闘の意味なども交えながら、これまであまり読み取られることのなかった「敬天愛人」の思想の淵源に迫っていく。

名著、げすとこらむ。ゲスト講師:先崎彰容
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第3回 「文明」とは何か

【放送時間】
2018年1月22日(月)午後10時25分~10時50分/Eテレ
【再放送】
2018年1月24日(水)午前5時30分~5時55分/Eテレ
2018年1月24日(水)午後0時00分~0時25分/Eテレ
※放送時間は変更される場合があります
【指南役】
先崎彰容(日本大学教授)
【朗読】
津田寛治(俳優)
【語り】
内藤裕子

「このままでは日本は商法支配所になりさがる」。私利私欲に走り、そろばん勘定だけを政策決定の基準にしようとしているかにみえる藩閥政治に対して、西郷は鋭い論陣を展開する。刑法のあり方、財政のあり方など具体的な指針も交えながら、西欧列強と対峙しうる国家のアイデンティティとは何かを追求し続ける西郷。だがその基本姿勢は偏狭な国粋主義と一線を画す。彼の思想は、西欧に学ぶべきところは学ぶが、途上国に対する非道さや経済的な打算による威信の軽視を鋭く批判するという文明史的視点に貫かれているのだ。第三回は、西郷が思い描いた文明のあり方、国家のあり方の奥深さに迫っていく。

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第4回 時代を映す「古典」

【放送時間】
2018年1月29日(月)午後10時25分~10時50分/Eテレ
【再放送】
2018年1月31日(水)午前5時30分~5時55分/Eテレ
2018年1月31日(水)午後0時00分~0時25分/Eテレ
※放送時間は変更される場合があります
【指南役】
先崎彰容(日本大学教授)
【朗読】
津田寛治(俳優)
【語り】
内藤裕子

西郷を悲劇の死に追いやった「西南戦争」。不平士族たちの思いを背負った西郷が負けとわかって挑んだ戦いと記されることも多いが、先崎彰容さんは、実はこの戦いは、西郷が大きな思想的な課題を成し遂げようとして戦った必然的な戦いだったと考える。この戦いには、洋行帰りで西欧の最新知識を吸収した人やルソーに心酔した知識人も参加していた。こうした事実と「南洲翁遺訓」を合わせて西郷の行為を読み解くと、官僚独裁が進み排除の論理が横行する新政府に対して行った大きな「抵抗運動」だったと考えられるという。時代の転換期ごとに読み返され、福沢諭吉、内村鑑三、三島由紀夫らにも大きな影響を与え続けた西郷の思想。第四回は、時代を超えて何度も掘り起こされてきた西郷の思想が、現代の私たちの置かれた状況にとってどんな意味をもっているかを明らかにしていく。

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南洲翁遺訓 2018年1月
2017年12月25日発売
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こぼれ話。

西郷の「抵抗の精神」に学ぶ

今回、西郷隆盛「南洲翁遺訓」を取り上げようと考えた理由の一つには、もちろん大河ドラマ「西郷どん」の放送がスタートするということがありました。世間では、この時期を期に西郷への関心が高まるのは間違いないでしょう。ただ場合によっては、ムード先行でお祭り騒ぎになってしまい、西郷が本当に考えぬいたことについて、読み解き、深めていく機会が意外に少なくなってしまうのではないかとも危惧していました。どうせやるならば、他の番組やドラマでは描きえないような深みのある解説ができたらと思っていましたが、西郷を新しい視点で解説してもらえるような講師が思い浮かばず、考えあぐねていたのです。

そんなときに出会ったのが、今回の講師・先崎彰容さんでした。ある出版社の方に紹介いただき、先崎さんにお会いしたのが今年4月。「ナショナリズムの復権」「違和感の正体」などの著作を読んで、その鋭い論客ぶりに注目していた私は、日本の近現代を彩る思想家の数々が先崎さんに解説していただく候補として頭に浮かんでいました。しかし、先崎さんは、「取り組むならばしっかりとした準備をしてからにしたい」という強い気持ちをおもちで、私が挙げる思想家のことごとくを「とても興味はあるのですが、解説するには少し時間がかかりますね」と固辞されました。

少しあきらめかけてきたとき、「そういえば、今、集中的に読み込んでいる本があるんですが、こんな本は候補になりますか?」と手にとられた本が「南洲翁遺訓」だったのです。

こちらとしては願ったりかなったり。しかも、先崎さんが提示してくれる西郷像が、これまたことごとく、私たちの常識を打ち破ってくる斬新なものでした。

一つは、私たちが想像もしなかった西郷の巨視的な洞察力です。西郷が生きた時代、1830-70年代は、世界で巨大な情報通信革命とエネルギー革命が急速に展開している時代でした。一大鉄道網の敷設、大陸間をつなぐ海底電信ケーブルの設置等々、現在でいえばインターネット革命に匹敵するような巨大な地殻変動。その余波が超大国ロシア帝国をも揺さぶる時代。「南洲翁遺訓」を読むと、西郷が世界史的視野からそうした変動を鋭く洞察し、国家がどうあるべきかについてのヴィジョンを模索していたことがわかってきます。

こうした激動の時代だからこそ、国家の屋台骨を打ちたて、世界に伍する国柄を明確にせねばならないと考えた西郷は、巨視的な立場から、藩閥政治の利害争いや安易な西洋文明の模倣に対して、鋭い批判を展開していたのでした。先崎さんによるこんな説明を聞いて、古色蒼然とした西郷像が、がらがらとくずれていきました。

もう一つは、西郷を悲劇の死に追いやった「西南戦争」についてのイメージです。不平士族たちの思いを背負った西郷が負けとわかって挑んだ戦いと記されることも多いですが、先崎さんは、実はこの戦いは、西郷が大きな思想的な課題を成し遂げようとして戦った必然的な戦いだったと考えていました。この戦いには、洋行帰りで西欧の最新知識を吸収した人やルソーに心酔した知識人も参加していたという事実を先崎さんの説明で初めて知りました。単なる不平士族の反乱とのみ「西南戦争」をとらえるだけでは、こうした実相が見えてこないのです。

そして、こうした事実と「南洲翁遺訓」を合わせて西郷の行為を読み解くと、官僚独裁が進み排除の論理が横行する新政府に対して行った大きな「抵抗運動」だったと考えられるといいます。実は、このことは、すでに同時代の福沢諭吉が鋭く見抜いており、西郷批判の嵐が吹き荒れる中、ただ一人、西郷擁護論を書き残していたのです。私は、この西郷と福沢の響きあいに深く感銘を受けました。

当時、西南戦争が始まると、ジャーナリズムはこぞって西郷批判を繰り広げました。メディアによる徹底的な西郷バッシング。しかし、その背景には、明治新政府寄りの報道だけに統制しようという政府側の思惑もあったといいます。

福沢は、こうした流れにただ一人立ち向かいました。福沢の論はこうです。西郷は、武士の「抵抗の精神」、つまり自尊心をもち、安易に政府の見解だからと言って阿諛追従せず、場合によっては異を唱える精神の重要性を示そうとしたのだ。西郷批判一色に染まった現状では、この日本の最良の伝統が失われてしまうのではないか。だから、私は、西郷を擁護するのだ、と。

先崎さんの解説を聞く中で、私は、自分が仕事をしていく上での姿勢を鋭く突かれたような戦慄を覚えました。西郷が示し、福沢が評価したこの「抵抗の精神」は、私たちメディアに携わるものとして忘れてはならない大事な思想性が込められていると深く感じています。

皆さんには、西郷のどんな言葉が響いたでしょうか? 表面だけ読むと、さらっと流れてしまうような非常に短い言葉を集めた「南洲翁遺訓」ですが、先崎さんの解説にならって、一歩立ち止まり、自分に引き当てて深く読みこんでいくとき、今までにない光が宿ってきます。ぜひあなただけの一言をこの本から見つけ出してみてください。

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