ページの本文へ

WEBニュース特集 愛媛インサイト

  1. NHK松山
  2. WEBニュース特集 愛媛インサイト
  3. 震度6弱の地震から1か月 今も続く“心の負担”

震度6弱の地震から1か月 今も続く“心の負担”

  • 2024年05月17日

「今もあの音が怖い」
宇和島市に住む女性は、地震のときに聞いたごう音に今も恐怖を感じています。

4月17日に愛媛県と高知県で震度6弱の揺れを観測した地震から1か月。
被害は比較的小さかったものの、今も精神面への影響が続く住民もいます。

私たちはこうした人たちにどう寄り添っていけばいいのでしょうか。

(NHK松山放送局  清水瑶平)

今でもあの音が忘れられない

私が訪ねたのは海と山に囲まれた、宇和島市石応地区です。
地震の際には強い揺れだけでなく、津波や崖崩れの危険性もあります。

この地区に住む、島田ヨシコさん(73)。
4月17日の午後11時過ぎ、居間でテレビを見ていたとき、それまで聞いたことのないごう音に体がすくみ上がったといいます。

「もう、家の前の山が崩れ落ちたのかと思ったぐらい大きな音で、本当に恐ろしかった。ドドーン、と聞こえたあと、1秒たつかたたないかぐらいでドドドドドーって聞こえて。あの音だけは忘れられないです」

島田さんは1人でふとんをかぶったまま動くことができず、近所の人が様子を見に来てくれるまで避難をすることもできなかったといいます。

宇和島市ではその後も繰り返し地震が起こり、この1か月で観測された震度1以上の揺れはおよそ70回。
島田さんは揺れや音に過敏に反応するようになってしまい、夜中であっても何度も目を覚ましました。
近所の工事現場から大きな音が聞こえるだけでも、体が緊張してしまうといいます。

眠りが浅くなったためか、頭痛にも悩まされました。
薬を飲む量も、以前より増えたといいます。
地震のあと、防災用品をかばんに詰め直したり、備蓄を確認したりして備えを進めましたが、「いつまた大きな地震が起こるか」という不安が拭えないといいます。

「揺れや音に敏感になりすぎていて、寝てはいるんですけど、どこかで眠りが浅くて頭がうずくように痛いんです。子供や孫と一緒に住んでる人ならそうでもないんでしょうけどね、1人でいると音にすごく敏感になりますね。思い出しただけでも本当に涙出ますよ、
今でも私、あの音が怖くって」

不安を感じる人たちにどう寄り添う

こうした不安を感じている人は決して少なくありません。
地震のあと、宇和島市では住民からの相談を受け付けていますが、1人暮らしの高齢者などからは「いざというときに頼れる人がいない」などと訴える声も多いといいます。

宇和島市福祉課 久德理絵 課長

「1人暮らしの中でなかなか誰かに相談できなかったり、頼れるところがふだんからないという方は、どうしてもこういう災害をきっかけに不安感が強くなってしまうっていう傾向があります。不安感を少しでも解消できるようなそういう関わり方がこれから必要になってくると思います」

こうした人たちをサポートしようと、市では地元の社会福祉法人やNPOと協力し、見守り活動を行っています。
宇和島市の九島で行われている活動に同行させてもらいました。

社会福祉法人 正和会 「島の保健室」室長 野澤美香さん

社会福祉法人・正和会が運営する「島の保健室」室長の野澤美香さん。保健師や救急救命士の資格を持っていて、島の人たちの健康づくりなどに取り組んでいます。
この日は戸別に高齢者の家を訪ねて回りました。

「こんにちは。この間の地震からもう1か月になりますけどどうですか。何か心配なことはありますか」

「1軒1軒、“突撃訪問”で訪ねていきます。結構嫌がられたりするんですけどね、繰り返し繰り返し外に出ましょうよとか、お話しましょうよっていう機会をつくるのも私の仕事かなと思っています」

支え合うことで不安を和らげて

この日はさらに、高齢者どうしの集まりも開きました。
「健康づくり」の体操を行ったあとに話し合ったのは、災害に対してどのような備えをしていくか、ということでした。

「皆さん、災害に対して備えていることは何かありますか?」

「この間の地震があってから、水2リットル 6本入りを1ケース準備しています」

「夫の薬を1週間分は用意していますね」

話し合いの中で、1人暮らしの人からは不安を訴える声も聞かれました。

「1人だとやっぱり不安を感じる時があります」

「お1人暮らしの方の多い地域ですから、身を寄せ合うっていうことが大事だと思います」

備えを進めること、そして周囲の人と支え合うことで少しでも不安を和らげてほしい。そうした思いで、この活動を続けているといいます。

野澤美香さん
「いざというときに頼りになる身内がいないっていうのは非常に心細い、それはすごくわかります。だからこそケアを続けていきたいですし、いつもあなたのそばにいますよっていう、寄り添う姿勢が一番大事だと思います」

災害の規模にかかわらずきめ細かなサポートを

中央 赤枠が清水記者

4月17日の地震が起きたとき、私(清水)は松山放送局内にいました。このとき、松山市で観測された揺れは震度4でしたが、私は「南海トラフ巨大地震が来たのか」と思い、正直言って恐怖からとっさには動けませんでした。
より揺れの強い地域ではなおさらだったと思いますし、今も精神面の影響が続いている人がいることは不思議ではありません。

災害がもたらす心身への影響は長引く場合もあります。
2018年7月に起こった西日本豪雨では、NHKが2023年に県内の被災者およそ100人に行ったアンケートで、およそ7割の人が心身への影響を訴えていました。
災害から5年がたっても、「不安感やストレスが高まった」とか「よく眠れない」などと回答する人が多かったのです。

愛媛大学防災情報研究センター二神透 副センター長

専門家も大きな災害の際は心身に影響が出るケースが多いと指摘します。

「今回の地震は非常に強い揺れが襲ったので、南海トラフ巨大地震を想像して不安を感じた人が多かったと思う。誰かに相談できる人ばかりではなく、1人で悩みを抱えられている人もいると思いますので、1人1人に声をかけていくことが大切です」

その上で、仮にそうした状態が1か月以上続くようであればPTSD=心的外傷後ストレス障害の可能性が高いとして、医療機関で受診するよう呼びかけています。

今回の地震でけがをした人は愛媛・高知で合わせて12人。能登半島地震など、ほかの大きな災害と比べれば、人的被害は比較的少なかった言えます。

しかし、災害は規模の大小にかかわらず、そこに暮らす住民にとって、命と日常が奪われる恐怖を突きつけられる出来事です。
住民1人1人の不安としっかり向き合い、きめ細かなサポートをしていくことが必要だと、この取材を通して改めて感じました。

特集の内容はNHKプラス配信終了後、下記の動画でご覧いただけます。

  • 清水瑶平

    清水瑶平

    2008年入局、初任地は熊本。その後社会部で災害報道、スポーツニュースで相撲・格闘技を中心に取材。2021年10月から松山局。学生時代はボクサーでした。

ページトップに戻る