あなたの街は?災害時の“孤立対策”愛媛県全20市町を緊急調査
- 2024年02月01日
能登半島地震で浮き彫りになった大きな課題が「災害時の孤立」です。石川県内では地震発生直後から多くの集落が孤立状態となり、救助活動や支援物資の輸送が困難になりました。
これを受けてNHKでは、愛媛県のすべての市や町に孤立対策について緊急取材。
「想定外」の被害を受け、多くの自治体が見直しを迫られている現状が見えてきました。
(NHK松山放送局 取材班)
特集の内容はNHKプラスで配信中の2月1日(木)放送「ひめポン!」(NHKGTV午後6時10分~)でご覧いただけます。
愛媛県内の孤立対策は?6割が見直しへ
激しい揺れや液状化による、道路の損傷。山間部の各地で発生した、土砂崩れ。能登半島地震は交通網に大きな被害をもたらし、各地で孤立状態が発生しました。
南海トラフ巨大地震が懸念される愛媛県でも、同様の事態が起こることは十分に考えられます。
そこでNHKでは1月下旬、愛媛県内のすべての市と町に災害時の孤立を想定した対策がどれくらい進んでいるのか、尋ねました。
各自治体の対策については次のリンクにまとめています。
(自治体が所在する地域名をクリックすると表示されます)
>>東予の市町はこちら
>>中予の市町はこちら
>>南予の市町はこちら
まず聞いたのは、「孤立が予想される地域を事前に把握しているかどうか」です。
▼把握している・・・7
▼把握しているが十分とは言えない・見直しが必要・・・10
▼把握はしているが十分かどうかわからない・・・2
▼孤立する想定はしていない・・・1
「十分に把握できていない」や「把握しているが見直しが必要」としている自治体が全体の半数を占め、各自治体が今回の能登半島地震の被害状況を重く受け止めていることがうかがえる結果となりました。
▼自主防災会などを通じて周知している ・・・12
▼周知しているがそれが十分かどうかは検討したい ・・・1
▼防災ハザードマップの配布などはしているが、孤立に特化してはいない・・・6
▼孤立の想定なし ・・・1
「孤立のおそれがあることについて、対象の地区の住民に周知しているか」については6割が「自主防災会などを通じて周知している」と答えたものの、「特に孤立の危険性を周知していない」としている自治体もありました。
▼見直しを始めている ・・・3
▼見直す予定 ・・・9
▼見直しが必要かどうかを検討・・・2
▼未定 ・・・6
そして「能登半島地震を受けて従来の孤立対策を見直すか」という質問に対しては、「見直しをしている」、「今後見直す予定」と答えた自治体が合わせて6割となりました。
「未定」と答えたのは自治体も、今後、国や県が新たな被害想定を出した場合には見直しを検討したいと答えたところもありました。
また、孤立のおそれがある地区と外部の通信手段については、すべての自治体が衛星電話や無線などを用意しているものの、該当する地区に配備できていないところもあるほか、避難者用の食料や飲料水の備蓄量は、自治体によって大きなばらつきがあることが分かりました。
「南海トラフ巨大地震でも今回の能登半島地震と同じような孤立が発生することが予想される。集落の孤立そのものを防ぐことは、大規模なハード対策が必要となり難しいため、行政は前もって孤立が発生するという想定での備蓄の呼びかけや、通信手段の確保などの対策を講じる必要がある」
11年前に“孤立集落”想定も・・・
実は、愛媛県は2013年に公表した南海トラフ巨大地震の被害想定の中で、県内で「孤立の可能性のある集落」は「農業集落」で505、「漁業集落」で103に上るとしています(「農業集落」と「漁業集落」は一部重複している可能性があります)。
市や町もこの想定を前提として孤立対策を進めていたところが多くありました。
県によりますとこの想定で「孤立の可能性がある」としたのは次のような集落です。
▼集落へ通じるすべての道路が土砂災害危険箇所や土砂災害警戒区域に隣接し、土砂災害によって道路が寸断されるおそれがある。
▼沿岸部の集落は船を停泊させる場所が津波などで使えなくなるおそれがある。
ただ、今回の能登半島地震では土砂災害以外にも、地面の液状化や隆起、強い揺れによる地割れなど、さまざまな要因によって交通が寸断されました。
愛媛でも、想定されていなかったところで孤立が起こる可能性は十分にあるのです。
伊方町 “孤立想定ゼロ”のはずが
「想定外」への危機感を募らせている自治体の1つが、伊方町です。
県の想定で、伊方町は孤立の可能性がある集落が「ゼロ」とされていました。
しかし職員から聞かれたのはこの想定を疑問視する声でした。
「本当に孤立地区想定が0なのかなと言うのは正直疑問に思うところはあります。あまり把握できてないところはありましたが、調査等を行って修正ができるものかわからないですけれども確認は必要なのかなと思います」
伊方町は町全体が日本一細長い半島、佐田岬半島に位置しています。
半島の付け根から先端までは1本の国道でつながっていますが、この国道が寸断されれば、交通アクセスが限られ、通行が難しくなります。
さらに国道から集落につながる道も、幅の狭いところが多く、道路の寸断による孤立を想定した対策の練り直しが必要だといいます。
専門家も町内で想定される孤立のリスクを指摘しています。
(愛媛大学防災情報研究センター 二神透 副センター長)
「沿岸部からメロディーラインに向かう道は土砂災害危険箇所、急傾斜地あるいは地滑りの危険箇所がたくさんありますから、多くの集落で実際は孤立するんじゃないかと思います」
対策が迫られる中、町は今、集落の孤立に備えた備蓄品の確保を急いでいます。
これまで、全町民の3日分の非常食を備蓄してきましたが、今回の能登半島地震の教訓から、長期間孤立する集落では不足するおそれがあると言います。また、簡易トイレやストーブなど、避難所にとどまる住民の生活用品の見直しも喫緊の課題です。
(伊方町危機管理係 畑中保人 係長)
「もし孤立することを想定する場合は3日分をもう少し長めに準備することが必要になってくると思いますし、避難所での生活、そのための段ボールベッドやパーテーション、今後増やしていく必要性があるのかなと思います」
1人1人が「孤立前提」で対策を
一方で、「孤立対策の見直し」が求められているのは行政だけではありません。
例えば備蓄に関しては市や町の蓄えだけで、1週間分の食料や水を用意できている自治体はありませんでした。それだけに、専門家は住民1人1人の備えが重要だと指摘します。
(愛媛大学防災情報研究センター 二神透副センター長)
「南海トラフ巨大地震は非常に広域な地域が被災するので、高知や徳島といった被害の大きい地域に優先して支援が入り、愛媛は1週間程度、支援が来ないと可能性もある。孤立が想定されているかどうかに関わらず、住民がふだんから災害への備えをすることが大切だ」
大規模な災害時に孤立が起こることを完全に防ぐことは難しいかもしれません。
それでも備蓄や通信手段の準備、ヘリポートの整備など、孤立を前提とした対策を進めていくことはできます。
能登半島と同じく、海と山に囲まれた四国に暮らす私たちは今、「孤立」という課題に改めて向き合っていかなくてはなりません。
特集の内容はNHKプラス配信終了後、下の動画でご覧いただけます。