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愛媛県では45%が活用されず 「森林環境譲与税」知っていますか?2024年度から1人あたり年間1000円

  • 2023年12月21日

ことし1年の世相を漢字ひと文字で表す「今年の漢字」は、「税」が選ばれました。
皆さんは、森林環境譲与税という「税」を知っていますか。
これは森林の整備を進めてもらおうと、国から全国の自治体に交付されているものです。
実際どのように使われているのか、取材を進めると、現場で思うように活用されていないことがわかってきました。
森林環境譲与税の実態を追いました。

(NHK松山放送局 記者 新井一真)

森林環境譲与税とは

森林環境譲与税は森林の整備などを進めてもらおうと令和元年度に導入されました。
来年度からは、その財源として1人あたり年間1000円が個人住民税に上乗せされて徴収されることになっています。

令和元年度の導入から昨年度までに国から愛媛県の20の市と町に交付された譲与税はあわせて30億5349万円にのぼります。

この使いみちについて、愛媛県に取材したところ、交付された45%にあたる13億6080万円が活用されず基金として積み立てられていることがわかりました。

こちらは、市町ごとの譲与税の総額と基金の積立額を表にしたものです。
県内の5つの市と町では、交付された70%以上を基金として積み立てていて、割合が高い順に上島町の95%、松前町の79%、今治市の75%、四国中央市の71%、八幡浜市の70%などとなっています。県庁所在地の松山市でも60%となっています。
一方で、久万高原町は県内で唯一、交付された5億6391万円の全額を活用していました。

譲与税はどう活用

なぜ活用が進んでいないのか。
交付された全額を活用している久万高原町と、75%を基金としている今治市の現場をそれぞれ取材しました。

まず訪ねたのが久万高原町です。
案内してくれた林業戦略課の小野哲也課長です。

小野哲也課長

「久万高原町は林業が大変盛んなところで、昔から林業専門の担当課があるということが大きい」

久万高原町は、去年の木材生産量が県内全体の44%を占めるなど、県内で最も林業が盛んな自治体です。町では、林道の整備のほか、事業者に必要な備品を購入してもらうため、譲与税を補助金として活用しています。その一例を見せてもらいました。

小野哲也課長
「こちらが補助金の表です。ヘルメットやズボンそれに防振手袋などの一覧を申請してもらって、補助金額を算定しています」

購入した証明として領収書と備品の写真を提出してもらっています。

また、事業者が伐採した木を運ぶ大型の機械を購入する際には、最大で200万円を補助していて、機械の購入後、5年間でどれだけ実績が上がったのか確認することにしています。

町では産業でもある林業を守るため今後も、全額を使い切る方針だといいます。

小野哲也課長
「林業振興のためには、林業者の経営支援が一番大事だと思っています。譲与税を森林整備以外にも担い手の確保や木材利用など幅広い分野で活用していきたい」

補助金に変わった譲与税は

補助金として事業者にわたった譲与税は、現場でどのように使われているのか。
久万高原町で間伐などを行う会社の代表を務める大森雄二さんです。

大森さんは、大型の機械や装備品の購入に補助金をあてています。
特に作業の際に身につけるズボンや、手袋は高価である一方、消耗品でもあるため、何度も買い換える必要があるといいます。

「ズボンは1年もってくれればいいかな。枝の中を歩いていると、ほつれがばりっと破けたりする。これ1本で3~4万くらいするので、おいそれとは買えないところに譲与税があって助かっています。譲与税があるからこそ、事業者が安全に作業できたり、効率よく作業できたりすることにつながっていく」

活用が進まない現場は

一方、人口およそ15万の今治市。

交付された譲与税のうち75%にあたる8636万円を基金として積み上げています。
なぜ活用が進まないのか。

今治市農林水産課の砂田栄二主事は、荒れた森林を放置すれば自然災害のリスクが高まるため整備を進めたいものの、伐採ができる事業者が市内に2つしかなく、思うように進まないと指摘します。

砂田栄二主事

「今治地方は林業だけでなく、造船やタオルなどの事業者もいる。そちらの方に労働力が流出していて、それに対抗できるような報酬になっていない」

さらに、担当の職員も2人しかいないため、森林の所有者を特定したり、意向を聞いたりするのにも時間がかかっているといいます。

砂田栄二主事
「所有者を特定したとしても、人によっては、おじいさんが管理していて、自分は実際に、現地に行ったことがないという人もいる。効果的な業務の実施方法を検討して業務内容、業務量に応じた態勢としていきたい」

遅れる森林整備

整備が進まないと、どうなるのか。
今治市の担当者が中心部から25キロほど離れた森林を見せてくれました。
この森林では、昨年度から譲与税を使って伐採を始めています。

左:伐採して整備した森林 右:手つかずの森林

手つかずの場所は、日が差し込まないため薄暗く、今にも枯れて折れそうな木もありました。

砂田栄二主事
「譲与税をいただいている限り、第1に森林整備が基本と考えているので、整備が進んでいないところで、とりかかれるところは急いでやりたい」

人材育成を

こうした状況を専門家はどうみているのか。
地方財政に詳しい桃山学院大学経済学部の吉弘憲介教授は、基金に積み立てていることを一概に否定はできないが、長期的な視野にたって森林の整備を検討すべきだと指摘した上で、次のように話しています。

桃山学院大学経済学部 吉弘憲介教授

「本来はもっと整備を進めていきたいということがあっても、地方ではそれを担う人材がどんどんいなくなっている。人手が入ってこなければ、森林の整備もできないので、本来はそのボトルネックに予算を充分つけるべきだ。しかし、日本の森林政策は、基本的に整備や木を切って、新しく植えて素材を生産するというアイデアで作られているので、人を育てようという形で林業費を使うというアイデアがまだまだ乏しい人材育成のためのアイデアを考えていく必要がある」

取材後記

森林環境譲与税は、これまで国や都道府県が主体的に行ってきた林業政策を市や町が中心になって進めることを目的に導入されました。
しかし、今回の取材を通して、譲与税が交付されたとしても現場は人手不足で、森林の整備を進めたくても進められないという葛藤を目の当たりにしました。
愛媛県は市や町に職員を派遣したり、研修を開いたりして支援を行い、今年度末までに譲与税の積立を全体の26%にまで減少させたいとしています。譲与税は、来年度から財源として1人あたり年間1000円が徴収されるようになります。人手不足が進む地方で税金をどのように活用して森林を整備していくのか、実態にあった使われ方をしているのか、改めて考えていく必要があると感じました。

  • 新井一真

    新井一真

    2023年入局。埼玉県春日部市出身。大学時代は弁論部に所属、大学院では政治学を研究していました。現在、遊軍担当。趣味は散歩、古書店とスイーツめぐり

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