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地域おこし協力隊  169人のリアルな声

  • 2023年04月26日

人口減少や少子高齢化に悩む地方の自治体にとって、「地域おこし協力隊」は地域活性化につながる希望を託す、重要な制度です。

一方で都市部から来た隊員が地域のコミュニティーとうまくやっていけず、任期の途中で退任してしまうケースも時々耳にします。

2023年は制度が始まってから15年目になります。
隊員たちが何を感じ、どんな壁にぶつかっているのか、アンケート調査とインタビュー取材を実施しました。

その生の声を紹介します。

(NHK松山放送局 髙橋英佑)

地域との関係に悩む協力隊員

調査はオンライン形式で行われ、169人から回答を得ました。(2023年2月24日~4月3日に実施)

まずは率直に「地域おこし協力隊として活動する中で、どのような悩みを抱えているか」尋ねました。
その回答です。

地域の人たちとの関係づくりに苦労している様子がうかがえます。

具体的にどういうことなのか、回答を寄せた現役の隊員に直接話を聞きました。

徳島県で活動する隊員は、地域から求められることと、自分が地域に定住するためにやらなければならないことのギャップに悩んでいました。

「いろいろ求められることが多いですね。「地域おこし協力隊」という名前がそもそも良くないと思っていまして、『地域をおこす人』や『協力してくれる人』みたいなイメージ。当然 給料ももらっているので何か依頼されると断りにくいですし、ボランティアでコミットすればするほど、信頼は得られると思っています。ただ、活動をある程度見分けながらじゃないとボランティアをするだけで終わってしまう。その地域に根付きたくても仕事が無ければ根付けないので、自分が地域でやりたいこととのバランスを考えなければいけないと思います」

Uターンで地元に戻って活動する高知県の隊員は、協力隊の役割や活動に対する理解が進んでいないことにとまどっていました。

「協力隊と仕事で関わる人以外は、町のほとんどの人が知らないと思っていて、知り合いからは『協力隊はそもそも何をしているのか』と聞かれます。中には『どうせ辞めてどこかに行くんでしょう』とか、『どうせここでうまくやっていけないだろう』という人もいて、この地域ではそういう印象がついてしまっています。協力隊の役割を町の人も知らないし、そもそも協力隊の人もこれまで自分たちから発信もしてこなかったので、浸透するわけもないですよね」

深まる溝には“コロナ禍”の影響も

「地域との関係で課題に感じたこと」を問う設問の回答からは、コロナ禍についてのコメントも多く寄せられ、ここにも影響を及ぼしている状況も見えました。

コロナ禍で移住に関心を抱く人が増加したと言われる一方で、集まる機会がなくなって地域の人々との接点を持ちづらいと感じる人も多かったようです。

「住まい」確保の難しさ

地域おこし協力隊の狙いのひとつが、活動地域への定住です。
総務省によると、任期を終えた隊員の65%が同じ地域に定住。

数字上は比較的順調に見えますが、前出の「地域おこし協力隊として活動する中で、どのような悩みを抱えているか」という問いには、“住まい探しの難しさ”について言及するコメントも多くありました。

最も多い悩みは「行政との関係」

そしてアンケートの中で最も多かったのは、行政との関係に悩む声でした。

コミュニケーション不足に危機感を感じているという現役隊員は、匿名を条件に話してくれました。

「役場で自分がふだん席を置いている場所に常駐している職員がいない状況で、たぶん協力隊に時間を割くことがほとんどないんじゃないかなと感じています。話しかけられることもなく、進捗や『こういうことしたいって思ってたんじゃなかったっけ?』と声をかけられることは、きょうまで一度もないですね。頂いた役割はあるんですけど、本来その役割を持っている人であれば出なければいけないはずの会議やミーティングも呼んでもらえていません」

今回のアンケートで、協力隊と行政の間で行われる活動の進捗の共有やミーティングの頻度を隊員に尋ねたところ、「月に1~2回」が40%近くと多かった一方で、「数ヶ月に1回」が20%、「半年に1回」が5%、さらに「年に1回」というのが12%と、頻繁にコミュニケーションをとっていないケースも少なくないことが分かりました。

対話が無いため、自分が何をどう進めたらいいか、見失っているようでした。

「行政の方が地域おこし協力隊というものをどう捉えているのか、どう協働していきたいと思っているのか、正直まったく分かりません」

愛媛県で活動する別の隊員は、求められる“理想”と“現実”のギャップもあるといいます。

「私の着任した町では期間任用職員という形で公務員に準ずる立場になります。その規範をしっかりはめられるのですが、活動の自由さは担当部署や担当者によって全部バラバラ。そうなると地域おこし協力隊として来たけれども、役場の課の中の仕事をする正職員と変わらない存在みたいになる。役場職員の立場・発想ではできないことを協力隊に期待していると思っていましたが、役所のルールに縛られていることに来てから気付きました」

隊員169人の声を聞いて

まず、アンケート調査にこれだけ多くの人が協力してくれたことに感謝と驚きを感じつつ、それだけ「伝えたいことがある」ということの現れなのだと感じました。
どの立場の人たちも、“理想”と“現実”の差が大きければ大きいほど、傷つく度合いも大きくなるような気がします。
そういったミスマッチを極力起こさないためにも、いま現役隊員たちは何を感じているのか、現場で何が起きているのか、現実を直視することが必要なのだと強く感じました。
制度をより良い方向に改善していくためにも、この169人の声が生かされることを願っています。

  • 髙橋英佑

    髙橋英佑

    2020年入局のディレクター。趣味はフィルムカメラを持って街中を歩くこと。愛媛は歩きがいがあって楽しいです。

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