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世界が評価 “持続可能な観光” 愛媛県大洲市

  • 2023年05月25日

今、愛媛県大洲市が世界から注目されています。きっかけとなったのはことし3月、オランダの国際団体が選ぶ「世界の持続可能な観光地」で世界1位になったことでした。何が評価されたのか。昔ながらの城下町の歴史を生かしながら観光客を誘致する取り組みを取材しました。

(松山放送局 藤田理世/八幡浜支局 勅使河原佳野)

「伊予の小京都」とも呼ばれる愛媛県大洲市。

大洲城を中心に城下町が広がる人口およそ4万人の町です。
いま、歴史的な建物を活用したまちづくりが進んでいます。
そこで作られたのが「分散型ホテル」です。
市内にある歴史的建造物を改修して客室を作り、町じゅうがホテルとなっているのです。

例えばこの部屋は元々は江戸時代に建てられた蔵でした。

1泊2食付き、2人でおよそ7万円で、長期滞在を好む外国人富裕層を主なターゲットとしています。

ホテルに改修にあたって大切にしたのは、かつてここで暮らした人々の息づかいを残すことでした。
この部屋の壁には、江戸時代にかんなの代わりにちょうなを使って削られたはりが残っています。

下からライトを当てると削り跡が文様のように浮かび上がります。

さらに、トイレの壁にはたくさんの文字が書かれています。江戸期に書かれたとされる落書きをあえてそのままに残しました。

見方によってはアートに見えると外国人客から好評だそうです。

「お金で買えない歴史がある」

建物の改装を進めているのは、市と連携してまちづくりを行う一般社団法人の代表、髙岡公三さんです。

キタ・マネジメント 髙岡公三さん

伊予銀行で地方創生の仕事をしていた髙岡さんは、市外から来た人にお金を落としてもらうことで地域が潤う仕組みを目指し、古民家を活用したホテルを作ることにしました。

この法人の特徴は建物を所有者から買い取るのではなく借りてホテルに改装していることです。それをホテルの運営会社に貸し出して賃料を得るビジネスモデルです。

この仕組みによって3年間で22棟の歴史的建造物がホテルに改装されました。

髙岡公三さん
「この町には何億円お金を出しても買えない歴史がたくさんあります。建物もその一つで、それをもう一回よみがえらせたら長く持つ。これからは文化財が自らお金を稼ぎ出すぐらいのことをやっていかないとダメなのではないかと思っています」

地元にお金が落ちる仕掛けも

ホテルを起点に、地域経済の活性化も目指しています。

朝晩の食事会場はあえて客室とは別の建物に設け、町を散策してもらうようにしました。

ホテルのフロントや客室は町に分散している

観光客は地図を片手に町の隅々まで足を運びます。「細い路地を通ってまるで迷路みたい」と散策を楽しむ外国人客もいました。

改修した建物の一部は菓子店や雑貨屋などに貸し出しています。その半数以上は地元の人が経営していて雇用も生んでいます。
 

和菓子店 店主

客が増えている感じはありますね。町全体で大洲を盛り上げようという機運が高まっています

観光は目的ではなく手段

右が「キタ・マネジメント」のディエゴ・コサ・フェルナンデスさん

こうしたまちづくりで大洲はことし3月、オランダの認証団体「グリーン・デスティネーションズ」が選ぶ「世界の持続可能な観光地」の「文化・伝統保存」の部門で世界1位を受賞しました。日本の都市では初めての快挙です。

観光客が増えると町には経済効果がもたらされます。しかし、交通渋滞が発生するなど地域に住む住民にとっては必ずしも良いことばかりとは限りません。

大洲市でも中心部の駐車場不足が課題となっていて、春の大型連休は小学校のグラウンドを駐車場にしてしのいでいました。

環境や社会、経済に負担をかけない「サステイナブル・ツーリズム」とはどうあるべきなのでしょうか。

髙岡公三さん
「観光地にするのが目的ではなくて、観光は手段だと思っています。目的というのは、歴史文化の保全と地域経済の活性化なんです。この町にお金が落ちて、得られた利益はまた町に再投資をして、それを続けていけば、この町は残っていくんだろうと思います」

髙岡さんの法人ではホテルをあと4棟増やし、この夏には26棟になる予定です。活用したい歴史的建造物は大洲にはまだまだあるそうで、持続的な観光地のモデルとしてどう発展していくのか注目です。

  • 藤田理世

    藤田理世

    2019年入局のディレクター。東京で国際報道を担当した後、2020年9月から松山局で番組制作を行う。 愛媛に住んで驚いたのはかんきつの種類の多さ。

  • 勅使河原佳野

    勅使河原佳野

    2019年入局の記者。2021年5月から八幡浜支局で、南予地域の取材を担当。 好きなものはコーヒーと温泉、エスニックなもの。

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