ページの本文へ

エジプト考古学者・河江肖剰のまなびノート「生きている限り、学び続けたい!」

2023年7月24日(月)

記事サムネイル画像

ピラミッドの謎に挑むエジプト考古学者・河江肖剰さんのイチオシ動画3選!選んだのは武術の奥深さを堪能するマニアックな動画やロシアの文豪・ドストエフスキーの超難解なあの名著をひもとく動画など予想外のラインナップ!?なぜ河江さんはこの動画をオススメするのか?理由をたずねると人生で楽しく学ぶためのヒントが見えてきました! 

 

《河江 肖剰(かわえ・ゆきのり)》
1972年生まれ。名古屋大学高等研究院准教授。ドローンを用いた3D計測など最新テクノロジーを駆使してピラミッド建造の謎に挑む世界から注目を集める考古学者。2016年には先駆的な活躍をする科学者や探検家に与えられる米国ナショナルジオグラフィック協会の「エマージング・エクスプローラー(新世代の探求者)」に選出。自身が出演するYouTubeチャンネル「河江肖剰の古代エジプト」では学術的な知識を分かりやすく紹介して人気を呼び、再生回数は1か月で100万回を超える。
豪華講師陣に学ぶ講座番組『NHKアカデミア』でも動画を配信中。

 

目次

 

ドローンの横にいる河江肖剰

Q.今年3月にエジプト・ギザにあるクフ王のピラミッド内に新たな空間が発見されて話題になりました。河江さんはいつからどのような研究や調査をされているんですか?

私がギザで調査を開始したのは2003年からで、もともとはピラミッドを作った人たちの古代都市の発掘調査をしていたのですが、研究を進めていく中で巨大なピラミッドそのものを3次元で計測したらよいのではないかということに気づき、現在はピラミッドがどうやって作られたのかを解明しようと研究しています。

Q.3次元の計測…?

私たちは「3D計測」と呼んでいるのですが、ドローンなど最新のテクノロジーを用いてピラミッド内外の詳細なデータをとっています。実際にピラミッドに登って観測するこれまでの調査では分からなかったことが明らかにできるんです。さらに工学や数学、測量の研究者とチームを組んで様々な専門分野からアプローチしています。

Q.すごい…!もっと詳しく知りたい方はNHKラーニング内の講座番組『NHKアカデミア』の動画もぜひご覧ください!ところで、そもそも河江さんがピラミッドや古代エジプトの研究者になろうと思ったキッカケは何でしょうか?

キッカケはテレビでした!中学生か高校生ぐらいのときにテレビを見ていたら、ピラミッド内部に未知の空間があることを知って…4,500年前に作られた巨大な建造物の謎がまだ解けていないということにすごく惹(ひ)かれましたね。今みたいにネットで検索してすぐ出てくる時代ではなかったので、簡単に答えが出ない謎を自分で解きたいという気持ちが強かったと思います。

ただ、実際に研究者になっていろいろ知っていくと、そういったロマンってだんだん霧散していくんです。それがなくなって初めて本当の意味での謎に出会える。はじめに自分が知りたいと思っていたことって実はもう既に知られていることだったりするんですが、知ることを重ねていくとここから先はまだ誰も知らない境界線が見えてくる感じです。

学びとは長い道のり…その道を真摯な姿勢で歩み続ける河江さんイチオシの動画がこちら!

河江肖剰の推し動画3選

 

1. 【明鏡止水~武のKAMIWAZA~】力を使わずに相手を倒せる!?柔術のスゴ技

 力に頼らない武術にトリンドル玲奈ビックリ 明鏡止水 柔術

Q.この動画の元の番組『明鏡止水』がお好きだそうで…

はい、とにかくぜいたくな番組ですよね。私も武術をやっているのですが、古流から現代の柔術、総合格闘技の超一流が一堂に会して、さらに柔道のオリンピック選手まで出ているなんて夢のような番組です(笑)

Q.河江さんも武術をやっていらっしゃるんですか?

大東流合気柔術を高校生ぐらいからやっていて、二段の段位をいただいています。現在はブラジリアン柔術も学ばせてもらったり、クラヴマガという護身に使える格闘術を教えたりもしています。研究でエジプトに住んでいたときも昔柔道の山下選手と戦ったラシュワン選手の道場で稽古したことがあります。

 インタビュー中の河江肖剰

Q.たくましい筋肉の理由が分かりました!(笑) 河江さんにとって柔術の面白さとは何ですか?

そうですね…研究と同じように頭をしっかり使って学べば上達するところですかね。上達する人を見ているとやはり常に考えていますし、研究をしています。そういう意味でも「文武両道」とはよく言ったもので、とても理にかなっているなと思いますね。

 

2. 【100分de名著】超難解名著「カラマーゾフの兄弟」キーワードは“父殺し”

 著者の背景から読む ロシア文学 カラマーゾフの兄弟

Q.なぜこの動画を選ばれましたか?

『カラマーゾフの兄弟』はエジプトにいたときに読んだんですよね。住んでいた家の近くにとてもお世話になったご夫婦がいらっしゃって、その妻の方が当時『カラマーゾフの兄弟』にハマっていたんです(笑) それで「これすごく面白いからあなたも読みなさい!」と勧められて手にとりました。当時はネット環境が今ほど整っていなかったので本は貴重な情報源でしたね。

Q.難解な作品として有名ですが、読んでみた感想はいかがでしたか?

実は今回この動画を見て「そういえばこんな作品だったな」と思い出しました(笑)

本当に難解なので内容について当時読んだ印象はあまり覚えてないですね。

Q.河江さんにとっても難解だったんですね…!この動画を見た感想はいかがでしょうか?

名著でも難解な作品はいきなり原作を頑張って読もうとしても私みたいに印象に残らなかったり、途中で挫折してしまったりすることが多いかもしれません。でも、たとえばこの動画を見て原作に何かしらの興味を持って手にとれば、「知りたい」というモチベーションを持って読み進められますよね。この動画は短い中にも、どのような視点で読むと面白いか分かりやすく教えてくれるので「学びの入口」になるなと思いますね。

 

3. 【これって攻めすぎ!?世界旅行】生きている人間が実演!古代エジプトを再現したテーマパーク

 人形じゃなくて人間が実演 古代エジプト 再現テーマパーク

 Q.この動画を選んだ理由は?

私は16年間エジプトで暮らしていたんですが、実はこのテーマパークは行ったことがないんです。なので今回動画を見て「へえ、中はこうなっているんだ」と初めて知ることができて面白かったです。

Q.動画を見て新しく発見されたことはありましたか?

私の専門であるピラミッド時代の研究では、そこに暮らしていた人の姿があまり見えてこないんです。こういうテーマパークで面白いなと思うのは、農耕や漁業のやり方とか当時のピラミッドの周辺にいた人々がどんな暮らしをしていたのかビビッドに想像できるところだと思います。古代エジプトというとピラミッドに限らず、神殿や美しい壁画、財宝に目がいきがちですが、その中心にいるのは必ず人なんです。人ありきの文明であり、国家であり、社会であり、文化だと思うので。

Q.登場するエジプトの人たちも面白かったですね。

「楽な仕事」と言っちゃえるところがエジプトっぽくて好きでした。エジプトって他のアラブ諸国と比べてちょっとのほほんとしているところがあると思います。私が好きなエジプトの言葉に「マレーシュ」というのがあります。日本語に訳すなら「仕方がない」みたいな意味なんですが、たとえばエジプト人の友だちが私の家に来てグラスを割っちゃったとき、エジプトの友だちは「マレーシュ、マレーシュ」って言うんです(笑) 「いや、お前が言うなよ!」ってはじめは思うんですが、でもやっぱりマレーシュなんですよね。日本だったらすぐ「ごめんなさい」って言うと思うんですけど、エジプトは「マレーシュ」。当たり前ですけど人生ってマレーシュなことが多いですよね。それを言葉にできるエジプト人の穏やかさというかユニークさというか。ちょっと笑いがクスッとこみ上げるようなところがエジプトっぽくていいですね。

 笑顔の河江肖剰

Q.最後に、ここまでご覧くださった皆さんに一言お願いします!

「ラーニング」という言葉はいいなと思います。ただ情報を得るだけで学びに結びつけられないと結局自分の身にならないので。知りたいという欲求は人間特有のものだと思うので、知る中で得られる満足感や幸福感をつなげていくことが学びなのかなとも思います。NHKラーニングは学びの入口になるので老若男女問わず活用できると思います。食べることや寝ることと同じように生きている限り学び続けていきたいですね。

 

ありがとうございました!

あわせて読みたい

2023年3月21日(火)19:30~総合テレビで放送されたNHKスペシャル「恐竜超世界2 前編 巨大恐竜の王国 ゴンドワナ大陸」。番組では伝えきれなかった最新の恐竜研究の一部を「恐竜超ノート」として、ご紹介していきます!

2023年3月26日(日)放送のNHKスペシャル「恐竜超世界2後編 恐竜絶滅の"新たなシナリオ"」。番組では伝えきれなかった最新の恐竜研究、そして最新のVFX技術で描きした恐竜世界の制作舞台裏、その一部を「恐竜超ノート」として、ご紹介していきます!