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【Nスぺ公式】恐竜超ノート② 「恐竜絶滅の謎」と「恐竜世界制作の舞台裏」編

2023年4月24日(月)

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2023年3月26日(日)放送のNHKスペシャル「恐竜超世界2後編 恐竜絶滅の“新たなシナリオ”」。番組では伝えきれなかった最新の恐竜研究、そして最新のVFX技術で描きした恐竜世界の制作舞台裏、その一部を「恐竜超ノート」として、ご紹介していきます!

目次

 

1.「衝突の冬の中でも恐竜たちは世代交代できたのか?」

今回の番組では、プエルタサウルスが衝突の最中に産卵し子孫を残す様子が描かれています。このシーンは恐竜の繁殖術について研究する筑波大学の田中康平博士のアドバイスがもとになっています。

田中さんは「単に恐竜が衝突の冬を突破することができただけでなく、中には衝突の冬の最中でさえも繁殖をし、子孫を残すことができた恐竜もいただろう」と考えているのです。

そしてそうした「子孫を残すことができた恐竜」の筆頭候補が、南半球ゴンドワナで生きていたプエルタサウルスの仲間たち、つまりゴンドワナの竜脚類です。理由は「恐竜超世界2の前編」で詳しく紹介した「地熱を利用した繁殖術」。彼らは地熱地帯に卵を産み落とし、地熱で卵を温める、という巧みな繁殖方法を実現していました。田中さんはこの繁殖術であれば、衝突の冬の最中でも繁殖できた可能性が高い、と指摘するのです。なぜなら衝突の冬の最中でも、火山地帯の地熱地域なら、その環境はほとんど変わらなかった可能性が高いから。もともとそうした場所を活用して繁殖をしていた恐竜たちであれば、何事もなかったように地熱帯で卵を産み、その熱を利用して卵を孵かえせていたはずだ、というのです。

最新研究から浮かび上がる恐竜たちの能力の高さ。それが「恐竜たちの中には隕石衝突が引き越した災害の数々をくぐり抜け、生き延びたものもいたのではないか」という恐竜学者たちの考えを後押ししているのです。

冬の恐竜衝突の冬の中でも繁殖できた恐竜がいた?

筑波大学・田中康平博士「地熱を利用した繁殖術なら衝突の冬の最中でも子孫を残せた可能性がある」と指摘する田中さん

プエルサウルスの産卵はこちら

地球史上最大級の陸上生物・恐竜プエルタサウルス。今からおよそ6600万年前、地球上には恐竜たちの楽園が広がっていた。全長40メートルにもおよぶプエルタサウルスが向かったのは火山の近く、地熱地帯。プエルタサウルスはここに穴を掘り産卵する。なんと、地熱を利用して卵を温めるというのだ!驚きの生態を最新CGで再現する。(NHKスペシャル 恐竜超世界2)

 

2.「新生代の恐竜?真偽をめぐる議論は続く」

今回の番組では、恐竜時代が終わった後の「新生代」の地層から見つかった恐竜の化石を紹介しました。この驚きの報告をしたのはジェームス・ファセットさん(89歳)。6600万年前の巨大隕石の衝突地点に比較的近いアメリカ・ニューメキシコ州でこの恐竜の化石を見つけ、2002年に「死ななかった恐竜たち:ニューメキシコ州サンホアンベーシンのオホ・アラモ層から見つかった新生代恐竜の証拠」という論文を発表しました。

2022年10月、私たちは撮影のためファセットさんを訪問。ニューメキシコ大学に保管されていた“新生代恐竜”ハドロサウルス類(エドモントサウルスの仲間)の太ももの骨を見せてもらいました。「この化石が、隕石衝突より5万年以上後の時代に生きていたことは、化石が見つかった地層の花粉の分析から明らか。私はこの恐竜を“新生代(暁新世)の恐竜”と呼び、隕石衝突後の世界で生きていた恐竜だと確信している。」とファセットさんは自信たっぷりに語ってくれました。

しかし、番組でも紹介した通り、このファセットさんの研究には反対意見も出ています。見つかった恐竜化石は「再堆積(さいたいせき)」とよばれる現象の結果、新生代の地層に紛れ込んだものだ、というのです。もう少し詳しく言うと、「骨の主である恐竜は、あくまで恐竜時代に生きていたもので、骨はいったん恐竜時代の地層に埋まったが、その後、新生代になってから何かの理由で地表に露出し、もう一度、埋まった。その結果、新生代の地層から恐竜の化石が見つかったのだ。」という説です。実は、この説を支持する恐竜学者が多いのが実情なのです。“真相”はどうなのでしょう?

筆者と「新生代恐竜」の化石筆者と“新生代恐竜”の化石。巨大さとコンディションの良さに驚く

番組の中では紹介しきれませんでしたが、私たちが現場を訪れたこの日、ファセットさんはとても重要な日を迎えていました。世界的な恐竜学者の一人である、カナダ・アルバータ大学のフィリップ・カリー博士が“渦中の化石”を直に見に来る日だったからです。元々、ファセットさんは地質学者で、恐竜学者と議論はするものの、あまり交流がない様子。カリーさんと会う直前にはかなり緊張しているようでした。果たして、実際に見たカリーさんの反応は?

大きな化石を見るとすぐ、「おお」と声を出し、明らかに感動しているカリーさん。その見立ては驚きの結果でした。「これが新生代の地層から見つかったということは、大変興味深い。なぜなら、こんな巨大な骨が再堆積することはまず想像できないから。こうした骨は地上にあると、とても早くもろくなってしまう。普段、調査しているカナダの例でいうと、こうした大きな骨は数か月も露出していれば、すぐに粉々になってしまう。」と言い、カリーさんは「再堆積とは思いにくい」と指摘したのです。であればやはり、この化石の主は本当に新生代の世界で生きていたのか?化石を保管するニューメキシコ大学は、今回のカリーさんの発言をきっかけに改めて“渦中の化石”を詳しく調べることになりました。

隕石衝突から5万年たった地層から見つかったこのハドロサウルス類の化石。多くの恐竜学者が考えるように「恐竜時代に生きていた個体」に過ぎないのか?それとも、ファセットさんの主張どおり、新生代に生きていた、常識破りの「恐竜の生き残り」だったのか?この先も可能な限り、研究の行く末を取材し続けていきたいと思っています。

「新生代恐竜」の化石を調べるカリー博士とファセットさん謎多き“新生代恐竜”化石を喜々として調べるカリー博士と、見守るファセットさん

3.恐竜世界制作の舞台裏① 恐竜CGにはスタッフの演技が大切!

「最新研究から浮かび上がった恐竜たちの姿」を映像化していく過程では、一風変わった、でも、とても大切な仕事がありますので、ご紹介させてください。

ご存じのとおり恐竜そのものはCGで描き出すわけですが、実は背景のほとんどは「実写」です。まず、私たちは監修してくださる研究者のご意見をもとに、恐竜時代の風景に比較的近い現代の風景を撮影します。そこに恐竜のCGを合成するのです。例えば、今回の番組に登場したマイプやプエルタサウルスが生きていた世界には、「北海道の草原の風景」が使われています。

こうした背景撮影で重要なのは、1カットごとに「カラ画(え)」「人あり」の2とおりを撮影することです。「カラ画」とは、空の映像、つまり風景だけのこと。もう1つの「人あり」は、スタッフが画面に入って恐竜の演技をしている映像です。スタッフは、恐竜ではなく人ですから(当たり前ですが)、「人あり」の映像は最終的には一切使われません。でも、これが重要なのです。この時、スタッフは恐竜になりきって、演技をしています!こうして「そのカットで予定する恐竜の動き」を映像に“焼き付けて”おくと後々、アニメーターがコンピューターで恐竜の動きを作っていく際、“恐竜の動きの意図”をスタッフの演技から直に受け取ることができます。リアルな恐竜映像を作り上げていくために極めて重要なプロセスなのです。とはいえ、海岸で大の大人が「ガオーっ」とばかりに恐竜を演じる様子、何も知らずに通りがかった人には、遊んでいるようにしか見えないことでしょう(汗)もし見かけたら、温かく見守ってやってください。

「カラ画」と「人あり」の撮影① 「カラ画」と 「人あり」を撮影。(これは、人あり)

「カラ画」に恐竜を合成② スタッフの動き参考に「カラ画」に恐竜を合成していき・・・

恐竜合成の完成画像③ 完成!

 

4.恐竜世界制作の舞台裏② 技術革新!リアルサイズ恐竜ARも活用!

上記の話は、いまでも基本ではあるものの、最近ではさらに進んだやり方も使っています。中でも特筆すべきは「リアルサイズ恐竜AR技術」の活用です。ARは「拡張現実」と呼ばれる分野の技術で、スマホなどを利用して、現実の空間にはないものがあたかもそこにあるかのように見せるなど、現実と仮想現実を融合するものです。この技術を応用し、現実の空間に恐竜のCGを置いた映像をスマホの画面で見ることができるようになりました。

この方法の利点の1つは、大きさがわかること。先ほどの話で「スタッフが恐竜を演じる」とは言ったものの、そもそも全長13mものティラノサウルスを全長2mに満たない人間が演じることに限界があります。(それでもやるメリットはあるのですが!)。特に今回の番組で登場した南米のプエルタサウルスなど、30mを超えるような超巨大恐竜ともなれば、なおさらです。こうしたとき、合成のための「カラ画」を撮影するのも簡単ではありません。カメラマンはファインダーをのぞきながら、「この画角で、高さ5mのところにある恐竜の頭まで入っているのかなあ・・・」と心配顔。なにしろ、見えないものを相手に撮影しているので、スタッフ全員が不安になることも日常茶飯事でした。

「リアルサイズ恐竜AR」なら、この問題が一気に解決!デイノケイルスや、マイプ、プエルタサウルスなど、巨大恐竜をリアルサイズで撮影現場に置いてみると、私たちの想像をはるか超えるその巨大さをリアルに実感しながらの撮影が可能になりました。おかげで、巨大恐竜のサイズ感をより正確に把握した「カラ画」の撮影に取り組めています。

リアルサイズ恐竜AR画像・プエルタサウルスの場合リアルサイズ恐竜AR画像①プエルタサウルスの場合

リアルサイズ恐竜AR画像・マイプの場合リアルサイズ恐竜AR画像②マイプの場合

リアルサイズ恐竜AR画像・デイノケイルスの場合現場で実際に利用したリアルサイズ恐竜AR画像③デイノケイルスの場合

恐竜CGの制作風景はこちら

恐竜を実際に撮影しているかのような、リアルな映像はどのようにして生み出されたのか?その様子がわかるBreakdown(実写の映像にCG要素のレイヤーを重ねていき、完成までの工程を説明)。ロケーション撮影した映像に、恐竜やは虫類たちのCGを合成(VFX)。細かな表現が積み重ねられてカットが完成していく様子や、撮影現場の様子をたっぷりと紹介する。(NHKスペシャル「恐竜超世界」)