学校の部活動がなくなる?地域移行とは 働き方改革と少子化で
- 2024年04月04日
公立中学校の部活動が大きな変革期を迎えています。
学校で顧問の先生が教える形をやめ、地域に根ざしたスポーツクラブなどに任せる「地域移行」の取り組みです。
狙いは働き方改革と少子化への対応。
取材すると従来の部活動にないメリットと課題の両面が見えてきました。(関口紘亮)
【事例1:教員の「働き方改革」へ】
3月上旬の土曜日の朝。山梨県昭和町で唯一の中学校・町立押原中学校に、ソフトテニス部の部員たちが集まってきました。ふだんから週末、土曜日と日曜日のどちらかに練習を行っています。
冒頭のミーティングで顧問に続き、外部指導者として教える県内の社会人チームのメンバーが姿を見せました。
さっそく部員たちに指示を出します。
走って準備運動して、そのあとショート乱打からやりたいと思うので、準備運動をしたら集合してください(外部指導者)
昭和町は、休日の部活動を地域に根ざしたスポーツクラブ「総合型地域スポーツクラブ」に委託。クラブの管理のもと、外部指導者たちが交代で指導にあたっています。
大人になっても一緒にテニスを続けてもらえるような子たちになってほしいですね(外部指導者)
競技に取り組む大人たちに指導を受けられるとあって、部員からも好評です。
「練習が本格的になっているので部活っぽくて楽しい」
「僕たちでは考えられない練習方法やラケットの使い方を教えてくれます」
こういった声が聞かれました。
部員だけではありません。未経験だったソフトテニスを苦労して教えてきた顧問の教員も…。
専門的なところをいちから細かく指導して下さるのは、非常に子どもたちのモチベーションにつながっています。とてもありがたいです(顧問の教員)
教員が学生時代にやっていたのは剣道。ところが顧問としては剣道部に縁がなく、これまでバスケットボール部に陸上部、サッカー部などの顧問を務めてきたそうです。ルールや技術をそのつど学び、生徒を指導してきました。
外部指導者が来ていたこの日。練習が始まってまもなくテニスコートを去った教員は、職員室で別の業務を始めました。
授業で使うプリントの準備です。外部の方が練習を見ている間に授業の準備ができます(顧問の教員)
国が目指す地域移行は、このように休日の部活動の運営を教員の手から離すことで、業務の負担を減らすことです。
国は令和5年度から3年間を「改革推進期間」と位置づけて、地域の実情に応じて可能な限り早期に地域移行などの実現を目指すとしています。
昭和町は押原中学校の19の部活動のうち4つの部で地域移行に着手し、令和6年度から対象の部を広げる方針です。
昭和町教育委員会の担当者は、こう話します。
丁寧に進めていくことによって、子どもたちの笑顔やそれを見る保護者の安心感とか地域の信頼感などが徐々に浸透してくるのかなと思っています。やっと、その一歩が切れたのかなと思っています(昭和町教委 生涯学習課の深川慶太係長)
【事例2:少子化でも活動機会を】
部活動の地域移行では、少子化で人数が減った部に活動の場を提供することも期待されています。
2月中旬の週末、甲斐市内の体育館には市内5つの中学校から野球部員あわせて20人余が集まりました。
山梨県甲斐市は、地域移行に向けた実証事業として令和5年12月から令和6年に2月にかけて野球部員の合同トレーニングを計5回開催。専門資格を持った指導者を招いて、運動能力を測りながら走る、跳ぶといった体の使い方を学んだほか、じゃんけんと鬼ごっこを組み合わせて判断力を磨くゲームなどを体験しました。
参加した中学生からも好評でした。
「すごく楽しいし、いろんな人と話せるので、トレーニングが苦しくても楽しくやれています」
「ほかの中学校の野球部と仲よくなって、休みの日に一緒に練習しました」
こうした声が聞かれました。
山梨県内の中学校の生徒数は、最多だった昭和37年度には6万3152人でしたが、令和5年度には2万231人にまで減りました。野球などの団体競技で人数が足りない部も珍しくありません。参加した顧問の1人は、こう話していました。
うちの学校も人数が足りなくて夏までは合同チームを組んでいました。
他校の生徒と一緒に練習するという環境が、子どもたちにいい刺激を与えていると感じる部分もあって、ありがたい場をいただいた思いです(顧問の教員)
【課題は人材・受け皿・費用負担】
取材した子どもや先生は、部活動の地域移行を前向きに受け止めているようでしたが、これを本格的に進めていくには、実はいくつものハードルがあります。
まず、部活動の受け皿になる「総合型地域スポーツクラブ」の確保です。地元に対応可能なクラブが必ずしもあるとは限りません。国は自治体を主体に受け皿をつくることも選択肢だとしていますが、簡単なことではありません。
そして生徒を教える外部指導者は各種目で必要になりますし、技術的なレベルだけでなく。生徒との接し方などの面でも質が求められます。
さらに今は国から一部の自治体に実証事業の費用が出ていますが今後、指導者への支払い等の負担を家庭に求めるのか、といったことも議論になる可能性があります。
【地域移行の仕組みづくり 県も支援】
仕組みづくりに市町村単独で取り組むのは難しい面があり、山梨県も支援に乗り出しています。
県教育委員会で地域移行を担当する保健体育課では令和6年3月、「人材バンク」のウェブサイトを開設しました。さまざまな競技について指導者の連絡先などを登録し、市町村の担当者が条件のあう人材を探す手助けになります。
県は、県スポーツ協会などの協力を得て登録者を増やしていきたいとしています。
また、学校現場などをよく知る担当者を令和5年度、市町村支援の司令塔「総括コーディネータ-」に任命し、市町村への指導や助言を行っています。
一方、地域移行への取り組みを生徒や保護者に十分に知ってもらえていないことが大きな課題だとしています。
生徒や保護者の方々が「今までの部活動の延長線じゃないの?」という意識のままでいると、地域移行が持続可能なものではなくなってしまう可能性があります。県民の皆さんに理解してもらう取り組みを進めていきます
(県教委 保健体育課の山田芳樹課長)
国は将来的に休日だけでなく平日の部活動も地域のスポーツクラブ等に移していくことも見据えていて、部活動のあり方はますます変わっていくことが見込まれます。
関わる人それぞれが納得して持続可能な形をつくれるか注目していきたいと思います。
(肩書は取材当時)
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