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加害者家族を孤立させないために

「忘れられた被害者」への支援を考える
  • 2024年04月26日

     

    ある日、家族が犯罪者になってしまったらー。
    「忘れられた被害者」とも言われる加害者家族が直面している過酷な現実、必要される支援について専門家に聞きました。
    (高知放送局 記者 園田 孝一郎)

     

    NPO「World Open Heart」理事長
    阿部 恭子さん

    16年前、2008年に加害者家族を支援する団体を国内で初めて設立した阿部恭子さんです。
    阿部さんはこれまでに3000人を超える加害者家族の相談を受けてきました。

    加害者家族の支援は、被害者支援と対立するものではないのです。
    同じ犯罪に巻き込まれた人たち」という観点で見ると、むしろ被害者支援の延長線上なのです。欧米では、自らは犯罪を犯していないにもかかわらず差別や偏見を受ける加害者家族は「隠された被害者」とか「忘れられた被害者」と呼ばれています。

    加害者家族の実態は

    しかし、家族の連帯責任の意識が根強い日本では、加害者の家族というだけで社会的制裁の矢面に立たされてしまうということです。

    殺人事件の加害者家族の8割近くは、自宅を特定されたり嫌がらせを受けたりして、事件後に転居しています。また、加害者の家族であることを知った婚約相手や両親から婚約を破棄されるケースもとても多いです。このほか、学校を退学したり進学を諦めたりするなど、子どもの日常や将来にまで大きく影響を及ぼしています。

    また、事件の捜査やその後の裁判でも、加害者家族は追い詰められていくといいます。

    家族の犯罪について全く心当たりがないにもかかわらず、共犯者のように疑われて、取り調べを受けるケースもあります。また、夫が性犯罪を起こした事件では、男性の警察官から夫婦の性生活を聞かれてPTSDになった事例もあります。また、弁護士は加害者本人のために弁護活動はしますが、その家族には裁判の方針などを説明することは多くありません。当事者であるにもかかわらず、事件のことは分からないまま、バッシングを受け続けることになるのです。

    団体のアンケートでも、多くの加害者家族が社会から孤立していく実態が浮き彫りになっています。

     

    また、近年ではSNSの普及で加害者家族を取り巻く状況はさらに深刻になっています。

    誹謗中傷の文言が大量に投稿されることはもちろん、どこに転居してもSNS上で情報が広まってしまうため、生活をやり直す機会すら奪われつつあります

    ”加害者本人の更生”にも影響

    こうした加害者家族に向けられるバッシングは、加害者本人の更生や再犯防止を阻害すると指摘します。

    加害者家族に謝罪や補償といった責任を負わせるのは、加害者本人が背負うべき責任を軽くしてしまっていると思います。また、バッシングによって家族が自殺したり離散したりすれば、加害者本人が出所後に戻る受け皿がなくなり、再犯の可能性も高まってしまうという欧米諸国のデータもあります。

    支援の第一歩は

     

     

    ことし3月、高知市内で加害者家族について考えるシンポジウムが四国で初めて開かれました。
    阿部さんが参加者に最も訴えたかったのは、世の中の認識が変わることでした。

    犯罪者とその家族は別」という認識を皆が持つことが支援の第一歩です。
    そうすることで不条理な差別や偏見はなくなっていきます。

    (参加者)
    日々ニュースを見る中で、犯罪者の家族まで想像が至っていなかったと実感しました。自分でも無意識に加害者の家族が責任を取ると当然のように思っていた部分がありましたが、そうでないということを改めて考えさせられました。

    (参加者)
    家族が起こした犯罪によって、被害者と同じように傷ついているということを認識して、しっかりケアしたり寄り添ったりするという視点が大事だと思いました。

    現在、高知県内には加害者家族を支援する団体や行政の支援はありません。しかし、事件の裏で多くの加害者家族が苦しんでいるのは紛れもない事実です。加害者家族が住み慣れた地域で、事件後も生活を続けられるような支援の体制を早急に築くことが求められています。

      • 園田孝一郎

        高知放送局 記者

        園田孝一郎

        2017年入局
        司法・警察取材を担当

        事件事故の報道のあり方を見つめ直すきっかけになりました

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