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変わるお遍路

四国八十八か所めぐり
  • 2024年01月05日

四国各地にある88か所のお寺=札所を巡る「お遍路」。今、各地の札所の中には、コロナ禍や物価高騰によって、運営が難しくなっているところもあります。時代が変化する中で、お遍路の文化をどう維持していくのか、模索する現場を取材しました。
(高知放送局 記者 竹村知真)

コロナ禍や物価高騰で札所が苦境に

高知市五台山にある第31番札所の竹林寺。

五重塔などが有名な古刹(こさつ)で、この日も多くの遍路客が訪れていました。

「心の修行になるし、お遍路をするたびに、心が澄み切っていく感じがします」(遍路客)

「気持ちが安らいで、素直になれる気がします」(遍路客)

ただ、竹林寺の住職によりますと、コロナ禍で減少した遍路客は、まだ完全には回復しきっていないといいます。竹林寺の場合は、コロナ禍前の4分の3ほどにとどまっています。

そして、物価高騰が重なり、運営が厳しくなっている札所もあるといいます。

「昨今の物価の上昇もあり、お寺を維持していくのが大変な状況になっています。檀家さんなどお寺を守っていただく方がいればよいですが、札所によってはお遍路さんの収入だけでしかやっていけない所もあります」(竹林寺・海老塚和秀住職)

竹林寺・海老塚和秀住職

こうした状況を受け、88の札所からなる「四国八十八ヶ所霊場会」は、1つの決断に踏み切りました。納経帳などに「御朱印」を押してもらう「納経料」の値上げです。ことしの4月から「納経料」が、100円から200円の値上げになります。

御朱印をもらうものによって値段が異なり、「納経帳」では300円から500円に「白衣」では200円から300円に「掛け軸」では500円から700円にそれぞれ値上げされます。

「納経料」が値上げされるのは、平成6年以来30年ぶりのことです。

 

納経帳に押される御朱印

「霊場会」の土佐部会長を務める海老塚住職は、遍路客たちに理解を求めるとともに、値上げの分は札所の修繕などに充てていきたいと話しています。

「納経料を値上げすることで参拝客には負担をかけることになり、とても心苦しく思っています。手すりをつけたりトイレをきれいにしたり、皆さんに気持ちよくお参りしてもらえるよう、しっかりと還元していくことが札所の務めだと思っています」(竹林寺・海老塚和秀住職)

海外からの遍路客に期待高まる

苦境にある札所の運営ですが、その助けになると期待されているのが海外からの遍路客です。

昨年12月、あるツアーに参加すべく徳島県鳴門市の第1番札所・霊山寺に5人の外国人が集まりました。アメリカ、フランス、イタリア、シンガポール、フィンランドの旅行会社やメディアの関係者です。

高知の旅行会社が企画したこのツアー、主に欧米の富裕層に人気の「アドベンチャートラベル」と呼ばれる旅行スタイルのプレツアーです。キーワードは「異文化体験」×「アクティビティー」。お遍路がこのスタイルにマッチすると考え、企画しました。

線香に火をつけてお参りをしたあとは、電動アシスト自転車を使って次の札所に向かいます。

季節によって変わる「自然」の風景も大きな魅力となります。

 

四国の雄大な自然を楽しむ

近隣の観光施設なども巡り、お遍路に新たな体験を加えて付加価値を高めようとしています。
この日は、鳴門市ドイツ館に立ち寄り、第一次世界大戦時に日本軍の捕虜となったドイツ兵と地域の人たちがどのように関わっていたのかを学びました。

 

鳴門市ドイツ館で歴史を学ぶ

もちろん、札所での体験も充実。瞑想や写経を体験しました。
本格的なお遍路とレジャーを組み合わせることで、海外からの遍路客をさらに増やそうとしています。

アメリカの旅行会社の担当者

「このツアーに参加するまでお遍路について私はほんの少ししか知りませんでした。弘法大師の旅を追体験し、それぞれの札所の歴史を知るのはとても魅力的でした。四国は、多くの人がまだ発見していない宝石のような場所だと思います。もっと情報がほしいですが、私はこのツアーをアメリカで売って、ツアー客を熱狂させられると思います」(アメリカの旅行会社の担当者)

フィンランドのメディア関係者

「お寺の雰囲気はとても安らかで、鳥のさえずりや鐘の音、香り、写経など、どれもすばらしくて神秘的な感じがしました。インスタグラムやYouTube、ブログなどでお遍路のことについて広く皆さんに知らせたいと思います」(フィンランドのメディア関係者)

高知の旅行会社でガイドを務め、今回のツアーを企画したマシュー・ベネットさんも手応えを感じていました。

ツアーを企画したマシュー・ベネットさん

「私も10年くらい前に歩き遍路を始めました。もう4周目です。四国はサイクリングやトレッキング、川遊びなど数々のアクティビティーを楽しめます。世界中の誰もが日々の生活でストレスを感じていますが、お遍路の時にはお参りや瞑想、自然を感じることでストレスを忘れることが出来ます。日本に来る外国人は、東京や京都にはすでに行ったことがあるので、四国に来て独自の文化を体験し、より“深い”日本を感じたいのだと思います」(マシュー・ベネットさん)

変化することが文化を守ることに

高知県は観光客の滞在日数の増加を観光戦略の目標に掲げていて、お遍路はその核の1つになる四国の大事な資産です。

観光を専門とする高知県立大学の友原嘉彦准教授は、お遍路の門戸の開放は地域にとっても大きなプラスになると指摘しています。

高知県立大学文化学部の友原嘉彦准教授

「お遍路で四国を訪れ、四国が好きになり、次に来るときにはお遍路の道沿い以外の場所を訪れたりしてもらえるような地域作りをしていくことが大切だと思います。そのためには遍路道にベンチやゴミ箱を設置するなど、環境の整備を進めていく必要があります」

新たな旅行スタイルでお遍路の魅力を高め、「変化」していく。このことが1200年の歴史を持つお遍路の文化を「守る」ことにつながりそうです。

「長い歴史から見れば、もともとは歩き遍路しかなかった。それが車社会になり、車で回るようになった。時代によってこの四国遍路は変わっていると思いますし、お遍路に求めるものもまた、変化しているのだと思います。いろんな切り口で1200年の歴史を持つ四国遍路の魅力に触れていただいたらよいのかなと思います」(竹林寺・海老塚和秀住職)

  • 竹村知真

    NHK高知放送局

    竹村知真

    2018年入局。旭川局、札幌局を経て、2023年から高知局で県政取材を担当。最近、お遍路を開始。地道に回っていきたいです。

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