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土佐和紙を支える“極上の4%”

西日本の旅・千野秀和アナウンサー
  • 2023年02月01日

高知が誇る工芸品「土佐和紙」。
1100年の歴史を支えてきたのは、紙をすく職人、原料を育てる農家のみなさん。
原料の一つ・楮(こうぞ)の産地、いの町を訪ねました。

1100年の歴史を誇る 土佐和紙

高知には数々の伝統産業がありますが、中でも長い歴史を誇るのが「土佐和紙」です。

平安時代に書かれた「延喜式(えんぎしき)」に献上品としてその名が記され、以来1100年以上の歴史があるとされています。
なぜ高知で和紙作りが盛んになったかというと、原料となる楮(こうぞ)やみつまたの産地だったためです。
いまでも、農家だけでなく紙すき職人も加わって栽培にいそしんでいます。
県内有数の楮の産地で「紙の町」とも称されるいの町に行くと、様々な発見がありました。

和紙作りにも欠かせない 仁淀ブル―

高知県の中央に位置するいの町には、土佐和紙をはじめ和紙の歴史や魅力に触れることが出来る紙の博物館や紙漉き体験ができる土佐和紙工芸村「くらうど」という道の駅もあり、訪れるだけで豊かな和紙の世界を楽しめます。
その道の駅の近くには、紙漉きの工房が立ち並んでいます。

土佐和紙作り27年のベテラン、田村寛(たむら・ひろし)さん。

原料について尋ねてみると「この土地でいい和紙が作れるのは、原料だけでなく水が素晴らしいおかげ」とのこと。
そうなんです!いの町には、「仁淀ブルー」の名で全国的にも知られる清流・仁淀川が流れていて、
和紙作りにもその伏流水が使われているのです。

仁淀川

そして、地元で採れる楮にも特徴があります。とれる繊維が太くて長いため、こんなに薄い紙でもなかなかちぎれません。

これを活かして、ヨーロッパの聖堂壁画や浮世絵の修復に使われるような世界に誇る高品質の和紙が生まれました。 

田村さん

地元の高知の原料を使って高知でできる紙を作っていきたいって思ってます。使ってくれる方々がそういうものを感じて使ってもらえるように作っていけたら。

職人さんもこだわる和紙の原料、楮。どんなところで作っているのか探ってみると・・・。

日当たり抜群!急斜面の大胆で繊細な収穫作業

油断すると下まで転げ落ちそうな急斜面!
山あいの開けた土地に集落が点在するいの町では、昔から平地で野菜やコメを作りながら、周りを囲む山の斜面で和紙の原料となる楮やみつまたを栽培しています。戦前には大切な副収入としてどこの農家でも楮などを作っていましたが、今ではごくわずか。そこで、地元の有志が集まり楮づくりを守ろうと頑張っています。
「上東を愛する会」会長の筒井茂位(つつい・しげい)さんに、楮畑を見せていただきました。

筒井さん

楮は、冬になると葉が落ちて幹の繊維がしっかり育ちます。12月から1月にかけてが収穫のピークです。
楮は日当たりと水はけがよい土地を好むので、南を向いた山の斜面は楮栽培に最適なんです。

ごつごつとした根元から生える楮

楮は、根本が太く、多くの繊維が取れます。そこで、鎌やのこぎりを使ってなるべく根元から刈り取ります。力加減を間違えると切り口がぐちゃぐちゃになったり幹が裂けてしまうため、大胆かつ繊細な技がいります。
 

収穫をお手伝いしようとするも・・・
切り取った瞬間、後ろにコケそうに!慣れと強い足腰がいる作業です

見よう見まねでチャレンジしてみましたが、何とか無事に収穫!でも刈り取った瞬間後ろにひっくり返りそうになり、危うくそのまま下山するところでした・・・。

かつては勤め人だったという筒井さん。定年退職後に地元に戻り、子どもの頃どこに行っても見られた楮畑が失われた現状を目の当たりにして、荒れた畑を切り開き、昔から伝わる栽培方法を守り伝える活動を始めました。

筒井さん

コウゾがなくなってしまったら紙すきさんも困るでしょうし、畑がなくならないよう精一杯続けていけるといいかな。

”極上の4%”とお芋のおやつ

タイトルにある”極上の4%”って、おまん、何を言いゆうが?」・・・引っ張ってすみません!
これは、楮から繊維を取り出す作業と関係があります。
収穫した楮は、束にして甑(こしき)という大きな木の入れ物の中で蒸らします。 

楮の束。ひとつ200kg!

1.5メートルくらいの長さで揃えた楮の大きな束。持ち上げるには10人ほどの人手がいる重労働です。蒸した後も、取り出すやいなや皮をはがなくてはいけません。熱いうちに作業しないと皮がはぎにくくなり、品質にも影響してしまいます。

この日、8時間かけてこの作業を3回繰り返し、およそ600㎏の楮から皮を取りました。

はぎ取った楮の皮
皮をはいだ後の楮

残った幹や枝は、また楮を蒸すときのたき木や、地域の燃料として無駄なく使われます。

皆さん、この時点で「皮だけつかうの?」って思いませんか?大半の部分は、和紙の原料になりません。しかも、ここから外側の汚れた皮やちりを取り除く作業を繰り返し繰り返し・・・いよいよ和紙の原料として使われる繊維は、もとの楮のたった4%
太くて長い、上質な素材である高知の楮は、険しい急斜面での栽培、大胆かつ繊細な刈り取り、おとな10人がかりの蒸らし、やけどしそうなかわはぎ作業、度重なる繊維をほぐす工程を経て、まさに”極上の4%”の繊維として、和紙作りに活かされているのです。

地域の宝物 どう守り伝えるか

「紙の町」いの町の土佐和紙作りに欠かせない、楮の栽培と加工。担っている皆さんの平均年齢は70歳以上。 「いつまで続けられるのかなぁ」皆さん穏やかに話しますが、後継者作りは大きな課題です。
メンバーの中で唯一の40代、和田博(わだ・ひろし)さんは、先祖代々伝わる楮畑を守りながら他の家の畑の世話も続けています。今後について尋ねると「できる所までは頑張りたい。でも一緒にやってくれる人を増やさないと、将来的には厳しい」と訴えます。
畑の管理、楮を蒸らして皮をはぐ工程、ひとつひとつにコツや意味があり、この土地ならではのものづくりが続いてきました。「上東を愛する会」会長の筒井さんも、和田さんのように受け継ぐ人を増やし、かけがえのないいの町の楮文化を伝えていきたいと意気込んでいます。 

筒井さん

やっぱり楮は地域の宝物。こういう作業を自分たちは子どもの頃当たり前のように見ていたから受け継いでいる。絶えないように続けていきたい。

そして・・・これが厳しい作業を支える、楮と一緒に蒸らしたお芋!楮を蒸らすと、それこそさつまいもの蜜のような独特の甘い香りが広がるんです。これが芋の甘みと合わさって、この時しか味わえない甘味になります。寒い中の楮蒸しに欠かせないおやつ、こちらは100%極上でした!

土佐和紙を支えるいの町の楮を訪ねた今回の取材、2月3日(金)の「こうちいちばん」、翌4日(土)あさの「ギュッと!四国」にて放送です。ぜひご覧ください!

  • 千野秀和

    高知局 アナウンサー

    千野秀和

    2002年入局
    土佐和紙が伝統的工芸品に指定された年の1976年生まれ
    リポーターとして現場に行くのが大好き
    2度目の高知勤務、より深い魅力を探っていきます!

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