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みんなで防災 北九州・旦過市場火災の教訓

火災予防のポイントは?
  • 2024年04月26日

北九州市では近年、木造建物が密集する商店街や繁華街で大規模な火災が相次いでいます。2022年4月19日に起きた旦過市場の火災では42店舗が焼損しました。あれから2年。火災を防ぐために何をするべきか、旦過市場や北九州市消防局の皆さんと考えました。(北九州放送局 大倉美智子)

木造密集地域で相次ぐ火災

「木造密集地域では、一度火の手が上がると消火が難しい」。この2年間、取材で何度も聞いた言葉です。北九州市では、2022年4月と8月に小倉北区の「旦過市場」で起きた2度の火災に続いて、10月には八幡東区の「枝光本町商店街」、ことし1月には小倉北区の「鳥町食道街」一帯でも火災がありました。いずれも木造建物が密集する地域で、火は周辺の建物に次々に燃え広がり被害が拡大しました。古くから町が発展してきた北九州市では、こうした木造建物が密集する商店街が多く、市は、防火対策に力を入れてきましたが火災は後を絶たない状況です。

どうすれば、こうした火災を防ぐことができるのか。ポイントは3つです。
▽火を出さない。▽初期消火。▽防火意識の向上。当たり前のことですが、この当たり前を改めておさえることが大切です。今回、2度の火災を経験した旦過市場で働く3人に具体的な対策を聞きました。

ポイント①「火を出さない」

中国料理の総菜店店長 山田照彦さん

まず中国料理の総菜店の山田照彦さんに「火を出さない」ための取り組みについて聞きました。

<対策“コンロの周りに可燃物は置かない”>
店では、消防OBの防火指導員の指導でコンロの上にあった棚や、コンロのそばに置いていた調味料を移動させました。コンロの周りに可燃物などを置かないよう整理整頓を徹底するよう日頃から気を遣っているといいます。

<対策“油の処理に注意”>
店で使用しているのは、温度設定ができるフライヤーです。これまで使用済みの油は、廃油用の容器に入れて、凝固剤を入れて固めて捨てていました。これまでのやり方にも問題はなかったということですが、最近では廃油の回収業者に依頼して処分するようにしているといいます。

<対策“火の元栓チェックは声出し確認”>。
店を閉めて帰るときには、火の元栓をしっかりチェック。相次ぐ火災の後、声出し確認を習慣にしたといいます。

山田さん
 

元栓OK!電気OK!ガスOK!で電気を消して帰ります。旦過市場でもし私のところで火が出たら、私の店だけで終わるということはありません。火災が2度あったことで、3度目は避けたいと思っています。

ポイント②「初期消火」

「初期消火」について話を聞いたのは、旦過市場商店街の中尾憲二会長です。2度の火災の後、商店街ではハード面、ソフト面のそれぞれで対策を強化してきました。

<対策“消火器+火災の自動通報装置”>
火災の跡地に出来た「旦過青空市場」。ここにはすべての区画に消火器を設置し、火災の発生を自動で通報する装置を設置した店もあります。

火災通報装置

<対策“消火器は誰でも使えるように”>
初期消火の際、使うのは消火器。市場の誰もが使えるように消防と連携して消火訓練を実施し、迅速な初期消火につなげる備えをしています。

2023年8月に実施した消防訓練

中尾さんは自身の店では消火器に加えて、より手軽に扱える消火スプレーも複数用意していました。「使う自信はありますか?」と尋ねると、「結構、訓練したので、大丈夫です」と即答。そして「初期消火が一番大事ですね。もし何か失敗があってもすぐ気づいて対処すれば大きな火災にはならないですから」と話してくれました。

旦過市場商店街 中尾憲二会長

ポイント③「防火意識の向上」

最後に「防火意識」について、くん製店を営む林貴寛さんに話を聞きました。林さんは、おととしの火災で被災した経験から、去年6月、防災士の資格を取得しました。

くん製店店主 林貴寛さん

林さんは、旦過市場全体で防火意識を高めようと、動画配信サイトの自身のチャンネルで商店街で行う消火訓練などの動画を配信しています。「どんな対策も“防火意識”があってこそです」と強調していたのが印象的でした。

林さん

実際に火災を経験して、意識が変わったという自覚があります。「新たにこういう事も気をつけなきゃ」という気づきが広まれば、次の防災につながると思います。本人が気をつける意識がないと行動につながらないので、意識を高めることが一番大事だと思います。

特に注意を!天ぷら油火災

火災予防の3つのポイントに加えて、消防が特に気をつけてほしいと言っていたのが「天ぷら油火災」です。おととし8月に旦過市場で起きた2度目の火災では、飲食店で天ぷら油を処理するために凝固剤を入れた際、油を加熱したままその場を離れたことが原因とみられています。

家庭では天ぷら油は揚げ物が終わった後、まだ熱いうちに凝固剤を入れて処理するのが一般的です。ただ飲食店では、営業が終わった後に冷めて常温に戻った油を処理することがあり、凝固剤を溶かすために再加熱することがあるといいます。この際、閉店準備の慌ただしい状況の中で、つい火をかけていることを忘れてしまい、火災につながるケースがあるというのです。

天ぷら油は何分で出火?

実際に火をかけたまま油を放置すると何分くらいで火が出てしまうのか。北九州市消防局に協力してもらい、実験を行いました。500ミリリットルの油が入った鍋に凝固剤を入れて、火にかけます。使うのは飲食店などで使われる業務用の火力の強いコンロです。

火をかけてから1分28秒後。油の温度が94度になったところで、凝固剤は完全に溶けました。その後、火をかけたまま放置すると、油の温度がどんどん上がり、10分を超えたところで、突然、炎が上がりました。

消防によると、天ぷら油火災の要因のほとんどは、火をかけていることを忘れてしまう「人的ミス」だということです。

(北九州市消防局 火災調査係 坂本祥一消防司令補)
火をかけたら2分弱で油は温まり、凝固剤を溶かすことができます。油に火をかけたら、絶対にその場を離れないという意識が何より重要です。旦過市場や鳥町食道街の火災を、対岸の火事としてではなく、自身のこととして受け止めてほしいです。

みんなで“わがこと”として対策を!

今回の取材では、4月19日に旦過市場の火災からちょうど2年となるのにあわせて火災予防のポイントを皆さんに聞きました。しかし、4月20日にその旦過市場からわずか150メートル余りの場所にある魚町の繁華街でまた火災が起き、飲食店など8店舗が焼けました。
北九州市では、旦過市場の火災の後、消防OBの防火指導員を配置して防火指導に力を入れてきたほか、今年度からは密集地にある木造の飲食店を対象に、費用の9割を補助して、簡易型の自動消火装置の設置を進めることにしています。そうした中で再び火災が起きたことは、残念でなりません。
出火原因については警察と消防が調査を進めていますが、あらゆる可能性を念頭に、みんなが“わがこと”として、火災予防の取り組みを徹底していく必要があると感じます。

  • 大倉美智子

    北九州放送局・記者

    大倉美智子

    北九州に住んで5年、私も防火意識高まりました。唐揚げをよく作りますが、絶対コンロのそばを離れません。料理中は防火意識のギアを一段上げています。

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