めまいに悩まされて Aさん(58歳・男性)のケース
Aさん(58歳・男性)が「めまい」に悩まされるようになったのは10年前。
めまいは、1年に数回、季節の変わり目に起きていました。疲れのせいだと思い、体をほぐしてもらうと、症状は一時的に治まったため、病院を受診することはありませんでした。ところが7年が過ぎた頃、これまでとは違うめまいを感じました。
「立っていられないぐらいのめまいで座りこんでしまいました。妻が家にいたので、もうダメだから救急車を呼んでと頼みました。このまま死んでしまうのではと不安になるぐらいでした」
救急搬送された医療機関で脳を詳しく調べてもらいましたが、異常は見つかりませんでした。
翌日、Aさんは近所の耳鼻科を受診。ここでも異常は見つからず、対症療法として乗り物酔いの予防薬をのむことにしましたが、効果はあまり感じられませんでした。
この頃になると、めまいは以前よりも長く続くようになり、めまいを感じない日の方が少なくなっていました。
「朝スッキリ起きられない。起きてもちょっとクラクラしているなみたいなのが、毎朝続いたので、気持ち的に落ち込んでいました。この感覚と付き合っていかなければならないのかと不安になりました」
めまいに悩まされて Bさん(42歳・女性)のケース
Bさん(42歳・女性)がめまいに悩まされ始めたのは6年前。
「朝ベッドから起き上がれない。起き上がって頭を動かすと天井がぐるぐる回っているような感じでした。頭痛もひどかったです」
Bさんの場合、めまいや頭痛を感じるのは、仕事が休みになる週末が多く、ひどいときには、数時間もベッドの中で安静にしていないと治らない日もありました。
「まためまいが起きたらどうしようと、数日前から緊張しました。当たり前のことができなくなってきたときには、何をしたらいいのだろう、何が悪いんだろう、と毎日考えていました」
Bさんは、耳鼻科を受診し検査をしましたが、異常は見つかりませんでした。
そこで脳の異常を疑い、神経内科を受診すると「片頭痛」と診断されました。
片頭痛の予防薬を処方され、のみ続けることで頭痛に悩まされることは、少なくなりました。
しかし。
「だんだん薬が効かなくなってきたのか、朝起きたときに、また動けないというのが続くようになって」
長い間、めまいに悩まされていたAさんとBさんはそれぞれ、漢方の専門医を訪ねることにしました。
二人に処方されたそれぞれ違う「漢方薬」
漢方医で診察を受けた結果、Aさんには、真武湯(しんぶとう)。
Bさんには、当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)という漢方薬が処方されました。
同じめまいの症状なのに、違う薬が処方されたのは漢方医学の「気」「血」「水」という考え方からでした。
漢方独特の概念「気」「血」「水」
漢方医学では、症状に対して薬を処方するのではなく、それぞれの患者さんの体の状態に合った薬を処方します。そのため重視されているのが、「気」「血」「水」という漢方独特の概念です。
「気」とは、体の中を流れるエネルギーのこと。
「血」とは、血液や血液の循環のこと。
「水」とは、血液以外の体液をあらわします。
健康な人は、これらがちょうどよいバランスで保たれていると考えられています。ところが、どれかひとつでも足りなくなったり多すぎたりすると、バランスが乱れてさまざまな不調が現れてくると考えられているのです。
めまいを漢方薬で治療する
漢方医はAさんのめまいの原因を「水」のバランスが乱れたこと、Bさんのめまいの原因を「気」と「血」の巡りが悪くなっていたためと診断しました。
Aさんに処方された真武湯は「水」の循環をよくする漢方薬。
Bさんに処方された当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)は「気」と「血」のバランスを整える漢方薬です。
薬は自分で600mLの水に入れ弱火で40〜50分煮出してつくります。出来上がったものを、2〜3回に分けて1日でのみきります。
Aさんの場合、効果を感じたのはのみ始めて2週間が経った頃でした。
「普通に寝返りが打てるようになったときに、これは良くなっているのかもしれないと思いました。スッキリした朝を迎えたときは、うれしかったです。以前とは比べ物にならないくらい体の調子が良くなったので、のんでよかったなと本当に思います」
Bさんの場合、効果が現れたのは、のみ始めて1か月が経った頃でした。
「めまいのふわふわした感じも楽になったので、あれ?と思いました。薬が効いてきてからは、今までずっと行けなかった美容室に久しぶりに行くことができてすごくよかったです」
めまいの治療と漢方医学・西洋医学
ご紹介したAさんとBさんの場合は、それぞれの漢方薬を処方されたあと、めまいの症状が改善しました。ただし、同じ漢方薬で別の人のめまいが改善するとは限りません。漢方薬はそれぞれの患者さんの体の状態に合わせて処方されるからです。
また、AさんとBさんは、脳の検査や耳鼻科の診察で明らかなめまいの原因は見つかりませんでしたが、西洋医学でめまいの原因が見つかることは多く、良性発作性頭位めまい症やメニエール病、前庭神経炎と診断される場合や、脳卒中の場合もあります。めまいの症状が起きたら、まずはかかりつけ医にご相談ください。もしも症状が重い場合は、救急車を呼ぶことも考えてください。