がんの治療で不確かな情報に惑わされないために

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ビワの種子に注意

農林水産省は「ビワの種の粉末は食べないようにしましょう」と注意を呼びかけています。ビワの種や未熟な実にはアミグダリンという物質が含まれています。
このアミグダリンは腸内細菌の酵素によって分解されますが、そのときに毒性の強いシアン化水素が発生します。そのため、大量に摂取すると頭痛やめまい、おう吐などの中毒症状を起こす危険があります。

ビワの種子に注意

農林水産省「ビワの種子の粉末は食べないようにしましょう」ホームページはこちら
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農林水産省が注意喚起する背景には、SNSで「がんに効く」という誤った情報が広がっていることがあるためです。しかしこれらの情報は間違った情報です。

SNSでのビワに関する間違った情報

アミグダリンとは?

アミグダリンはかつて一部で「ビタミンB17」と呼ばれていましたが、足りなくても欠乏症などが起きないということもあり、現在はビタミンの定義には該当しないとされています。
また、一部で「抗がん作用」について議論されたこともあります。
しかし、アメリカ国立がん研究所の臨床研究の結果、科学的根拠がなく、現在では否定されています。むしろ悪影響の方が大きく、海外ではアミグダリンの大量摂取による健康被害事例や死亡事例が報告されています。

熟した果肉は安全 種は危険

ビワの熟した果肉は安全 種は危険

アミグダリンはバラ科の植物に含まれることが多いのですが、熟した果肉は安全です。
果肉のアミグダリンは、果物の成熟と共に分解されるため、体の害となることはなく、ふだんの食事で楽しむ分には気にする必要はありません。
しかし、種子と種子の粉末には注意が必要です。
特に種子の粉末は、食べたり飲んだりすることによる大量摂取のリスクが上がります。
加工の仕方にもよりますが、小さじ1杯程度でも悪影響がある量を摂取してしまう可能性があります。

「自然なものだから安全」ではない

ビワの種子のような食べ物は、自然、天然、ナチュラルという言葉で形容されることもあり、“体に良いのではないか?”と思ってしまうかもしれませんが、自然界には、トリカブトやふぐの毒に代表されるように、体に害を及ぼすものが多く存在します。自然、天然、ナチュラルという言葉は「安全」を意味しているわけではありません。

SNSの情報を信じてしまうワケ

インターネットにあふれるさまざまな情報。しかし、それらの信頼性は玉石混交です。その中でも「健康」に関しては、不確かな情報を信じてしまう特別な理由があるといいます。

男性

それは、人は「不安」や「恐怖心」を埋めるために“間違った情報を信じてしまう”ことがあるということです。
自分や身近な人ががんと診断されれば誰でもショックを受けることと思います。
そんなときに、インターネットなどで調べて“がんに効く”などと自分に都合の良いような情報があると、それを心のよりどころにしてしまうことは誰にでも起こりえます。

例えば、新型コロナの感染が広まったときに、SNS上ではトイレットペーパーが買えなくなるという情報が出回り、急いで買いに行ったという経験をした人もいるのではないでしょうか。
実際には、トイレットペーパーの供給量や在庫は十分にあったのに、コロナ禍でどうなるかわからないといった“不安”や“恐怖心”からその情報を信じてしまったと言えます。
このように「不安」を解消するために“冷静な時”には判断しないような行動をとってしまうことは誰にでも起きうるのです。

民間療法での3つの被害

がんでは、医療機関での治療のほかに、健康食品やサプリメント、ヨガなどのいわゆる「民間療法」の利用を検討する人もいると思います。
そうした場合、3つの可能性を意識しましょう。

健康被害

ビワの種子のように健康へ直接的に悪影響を及ぼしてしまうケース。
さらに、通常の治療の妨げになってしまうケースもあります。
例えば、日本では健康食品として扱われる「セントジョーンズワート」というハーブの仲間があります。不安やイライラを解消するとされていますが一部の抗がん剤の効き目を弱めてしまう可能性を示唆する研究報告があり、通常の医療の妨げになる恐れがあります。

経済被害

経済被害は多くの被害報告があります。
具体的には

  • 1回限りと思ってサプリメントを注文したら、定期購入だった。
  • 1回目は1000円ぐらいだったのに、2回目以降は2万円などと高額だった。

「解約ができない」「連絡がつかない」「返品ができない」といったようなトラブルが数多く報告されています。

機会損失

民間療法に傾倒し、医療機関での適切な治療を適切なタイミングで受けなかったため、本来、得られたかもしれない治療効果を失ってしまうケースです。
きちんとした治療を受けないうちに、がんが進行してしまうというケースもあります。

【標準治療】
がんの治療では「標準治療」と呼ばれる治療がその時点で科学的に勧められる最善・最良の治療法となっています。

民間療法を始める前に知ってほしいこと

このように負の側面もある民間療法ですが、がんの進行や治療に伴う症状や副作用の緩和につながる可能性もあります。具体的には倦怠感など身体症状の緩和のほか、不安などメンタルの改善につながるケースが、一部の民間療法で証明されています。
活用する場合は、下記のことを意識して下さい。

「がんが治る」というものには近づかない

現在、科学的にがんが小さくなったり、治癒したりといったことが証明された民間療法は1つもありません。
そのため、「がんが治る」とうたっているものには、近づかないようにしましょう。

信頼できる第三者に相談する

“一人で悩まない”そして、知識のある第三者に相談することが大切です。
特に、がん患者さんやその家族は、民間療法を取り入れる前に相談するとよいでしょう。

相談窓口

相談窓口はさまざまあります。
まずは主治医、そのほかには看護師、薬剤師、管理栄養士。
がん相談支援センターや健康サポート薬局などがあります。

主治医に相談しにくい場合には、看護師や薬剤師、管理栄養士に相談しましょう。
管理栄養士であれば、健康食品に頼らずとも、ふだんの食事で栄養を補う方法を聞けるかもしれません。薬剤師であれば、薬ののみ合わせでのアドバイスももらえることでしょう。
健康サポート薬局は、病院で処方される薬のほかに、健康食品のことやふだんの食事のことを相談できる薬局です。全国に広まりつつあります。

厚生労働省の情報を参考にする

【統合医療】
厚生労働省では、標準的な医療に民間療法のような補完代替医療を組み合わせたものを統合医療と呼んでいます。
厚生労働省の統合医療に関するホームページでは、科学的根拠の有無など参考になる情報をまとめているので、ぜひ参考にしてください。

厚生労働省eJIM | 一般の方へ | 「統合医療」情報発信サイト
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この記事は以下の番組から作成しています

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