コンプライアンス委員会

第2回(2013.5.28) ブリーフィング

日  時:平成25年5月28日(火) 14:45 〜 15:40

説明者:月尾座長、村上座長代理

 

(月尾座長)

  • 1月15日から7回の会合を重ね、議論した結果について、本日の経営委員会で答申した。答申の主な内容は次のとおり。

 

Ⅰ.外国人向けテレビ国際放送の目的

  • 「外国人向けテレビ国際放送の目的」として、平成19年に現在のテレビ国際放送の在り方を検討した情報通信審議会が示した内容に加え、「アジアを代表する国際放送となることを目指す」ことと定義した。この点は非常に重要だと考えた。
  • 世界情勢を客観的に知りたいという時に、多くの人はBBCを頼りにすることが多い。これからのNHKワールドTVには、客観性・信頼性のある、アジアから発信する放送媒体となり、多くの人に視聴されることを期待したい。
  • 東アジアにおいても様々な国際放送があるが、どちらかと言えば、国益を強烈に主張する放送が行われている。NHKは、そうではなく、アジア全域の情報を客観的に伝えているという評価を得て、多くの国々の人から信頼されることを目指してほしい。

 

 

Ⅱ.改革の基本方向

  • まずは認知度を高め、視聴者を増やすということを目指してもらいたい。残念ながらBBCやCNNなどに比べて、NHKワールドTVは視聴者が圧倒的に少ない。よい番組を制作し放送していても、世界に認知されていなければ意味がない。
  • また、これまではどちらかといえば放送する側、つまりサプライサイドの視点が強かったが、世界の視聴者の期待に応えるといったデマンドサイドの放送や事業運営とする方向で検討してもらいたい。

 

 

Ⅲ.改革に向けての具体施策

  • 具体施策は、大きく3つ提言している。

 

1.放送サービスの充実

  • 現在の放送内容は、NHKが取材したニュースや制作した番組を英語化して再利用することが多く、国際放送独自の番組が少ない印象がある。番組の多様化を進める努力をしてもらいたい。NHKには膨大な番組のアーカイブがある。それらの財産も積極的に使っていただきたい。
  • 大きな要望としては、多言語化をぜひ進めてもらいたい。現在は英語のみだが、アジアでの中心的な役割を果たすという目的に照らし合わせると、最低でも、13億人以上が母国語とする中国語のサービスが必要であると判断する。吹き替えでなくても字幕付与という形でもいいので、ぜひ多元語化の実施を検討してもらいたい。

 

2.インターネットサービスの充実

  • インターネットサービスの充実は、かなり有効な手段であると考えている。答申書のページをかなり割いて、いろいろ提言した。
  • これまでは、放送と通信は別の法体系で管理されていた。特定の人間から特定の人間へ伝達するのが通信で、特定の人間や団体から不特定多数に送信するのが放送という整理であったが、インターネットの出現でこの垣根が完全に崩壊している。すでに諸外国の放送機関が実施しているように、インターネットサービスを充実してもらいたい。
  • NHKが行うインターネットサービスについては、現行の法制度のもとでは実施できない部分がある。NHKは放送した番組や素材をインターネットで配信することは認められているが、インターネット独自のコンテンツ配信は認められていない。また、動画配信サイトで同時再送信すれば世界規模で視聴される可能性が高まるが、これも行っていない。このような現状を踏まえ、今回の検討を一つの機会として、日本においても放送と通信の融合、放送と通信の障壁を見直していただきたいという趣旨のことを答申に盛り込んだ。
  • インターネットサービスを充実すれば、多言語化の展開も実現性が上がると考えるが、財源として受信料だけでは十分ではないので、日本国際放送(JIB)による広告収入の拡大など、いかに財源を確保していくかという点についても検討しなければならない。

 

3.プロモーション活動の強化

  • 認知度を高め、視聴者を増やすことが重要だということで、プロモーション活動を積極的に進めてもらいたい。例えば国際的に知名度の高いサッカーチームのスポンサーになるなどは一例であるが、そのようなインパクトのあることをして認知してもらうことを目指してもらいたい。
  • また、日本国内に200万人ぐらい居住していると言われる外国人や観光のために来日する約800万人の外国人に対するプロモーションの重要性も述べている。外国人観光客が成田国際空港に到着した時にスマートフォンでNHKワールドTVが見られるということを周知するなどのアイディアも紹介している。

 

 

Ⅳ.財源の多様化(財源の在り方)

  • このような取り組みを実施するためには、財源を拡大するということが非常に大事で、もっと積極的に取り組んでもらいたい。平成20年にJIBが設立された時は、民間の資金を国際放送に導入するという主旨があった。しかし残念ながらこの間、この目標は十分に達成されていない。この点については、ぜひ努力していただきたい。積極的に民間に働きかけるとともに、「クール・ジャパン」や「ビジット・ジャパン」など、日本のプレゼンス向上を図るための官民の施策に合わせた取り組みにより、JIBにも資金が入るような仕組みを考えてもらいたい。

 

 

Ⅴ.実施体制

  • NHKが行っている国際放送とJIBが行っている国際放送の編集権は別々にあり、それぞれ独自の放送をしているが、その仕組みを知らないと複雑で、NHKワールドTVを見ているところに、突然jibtvが始まるというような告知が出る。番組が終わると、またNHKに切り替わる。NHKワールドTVの一部だけがjibtvとなっているように見え違和感があるので、JIBは設立の主旨に立ち返ってもっと積極的に発信してもらいたい。NHKからの発信と、JIBという民間からの発信により、多様な情報を世界に届けるというJIB設立当初の目的を達成してほしい。
  • JIBが設立された時の主旨を達成するための人材の確保についても述べている。経営の執行から制作を含め、より広範な人材を確保する努力をしてほしい。極端に言えば、経営者が外国人で外国人の視点から番組を作るのもいいと考えている。

 

  • 経営委員会には、答申を真摯に受け止め、改革に向けて具体的に取り組んでいただきたいと申し上げた。

 

 

<以下、質疑応答>

 (記者)  NHKワールドTVは政府広報に協力すべき、という議論もあったようだが、政府広報ではない、客観報道、公平な自主編成でやっていくというのが結論か。
 (月尾座長)  その通り。NHKワールドTVの編集権はNHKにある。アジアの数ある放送機関の中で、信頼されるメディアになるためには、あくまでも客観性・公正性を維持してもらいたいと考えている。
 (記者)  新しい枠組みでの放送が始まった時には、NHKだけでは荷が重いということで、JIBという子会社をつくり、民間の資本を入れて、力も借りて、広告収入による独自番組を放送し、オールジャパンで日本を宣伝しようということだったが、広告収入による独自番組はあまり放送されていない。突き詰めると広告が取れていないということだと思うが、なぜ広告が取れないのか。
 (月尾座長)  十分な意欲を持って取り組んでこなかったと考えている。ただし、弁護するわけではないが、NHKは、この5年間かなりの予算を投入して、受信可能世帯の拡大について努力をしてきたが、結果として視聴者はそれほど増えなかったということと、JIBについても民間資金の獲得が十分でなかったということ。
 (村上座長代理)  いくつかの理由が考えられる。
 一つは、当初、JIBがよい番組を放送することで、英語による放送が世界に受け入れられ、広告収入が伸びていくことを期待していた。しかし実際には、全世界に向けた一つの放送の広告効果と、各国ごとの放送で行う広告効果には差があり、例えばタイで商品を売る時にはタイの放送局でタイ語の番組に広告を出すことを、スポンサーは考え、グローバルな放送に対するニーズが思ったほどではなかったということ。
 二つ目は、いくら放送していても、視聴実態がわからないとなると、広告を出したことによる効果が測定できないため、スポンサーサイドは広告を出しにくいということもあると思う。国際放送は日本国内のように比較可能な視聴率調査があるわけではないので、広告効果を図る指標がない。
 答申では、効果を測定できるように、きちんとした調査を定期的にやろうということを提言している。
 例えばインターネットであれば、ページビューが数字として出てくる。スマートフォンを使えば国内でもNHKワールドTVが見られるのでインターネット視聴も増やしていき、その実績をベースにスポンサーを獲得していくことができないだろうかという提言を行っている。
 (記者)  5年間で受信可能世帯は順調に増えてきたというが、今後も可能世帯を増やしていく必要があると考えているのか。増やしていくのであれば、目標数などはあるのか。
 (月尾座長)  受信可能世帯を増やしていく必要はあるが、目標数は特に設定していない。
 (記者)  インターネットの充実のところで現行法制の課題があるという話があったが、これは国際放送に限った話か。
 (月尾座長)  われわれが議論したのは国際放送をどうするかということなので、そのつもりで書いている。諮問の範囲を超えるが、現在の日本は世界各国のその分野の制度と比べて遅れているので考えていただいてもいいと思う。個人的には見直しは必要だと思う。
 (記者)  2億5千万世帯まで受信可能世帯を増やしても、あまり見られていないのであれば、インターネットサービスに軸足を移してもよいのではないかということだが、インターネットで中国語のサービスを実施しても、実際に中国の人は視聴できるのか。
 (月尾座長)  正確に把握していないが、インターネットは中国政府が検閲していると言われている。そうすると一部は見られない可能性は十分あると思う。 ただ、アメリカでチャンネルを1年間確保するための相場として1世帯1ドルかかるという話もあり、世界全体をカバーするにはかなりの資金が必要となる。そうであればインターネットにシフトした方が良いのではないかということ。
 (記者)  受信可能世帯は2億5千万という数字はあるが、実際見ている人はそんなにいないということか。
 (月尾座長)  そう考えている。
 (記者)  アジアを代表する国際放送になると、どういう利益がもたらされるのか。逆に今の状況はどういう不利益があるのか。
 (月尾座長)  日本のプレゼンスを高めたい。日本人が思うほど海外における日本の存在感は大きくない。日本のことをより多くの人に知ってもらいたい。それは国や政府の意向で行うのではなく、客観的に公平な報道を継続することで、信頼される国としてのプレゼンスが高まると思う。
 プレゼンスが高まれば、経済的効果も生まれるだろう。ものを買う時も、好意を持つ国の製品を購入しようということになる。また、湾岸戦争の時に、トルコが邦人救出のための飛行機を派遣してくれたが、あれは日本に対する信頼関係があったからこそ、そういうことをしてくれたのだと思う。プレゼンスが高まれば、外国にいる日本人の安全にも寄与するし、日本を正しく理解してもらうことで経済発展につながり、国際社会においても日本は信頼に足るパートナーになるということになる。
 (記者)  今は日本にとってかなり不利益な状況にあるということか。
 (月尾座長)  マイナスにはなっていないが、コストパフォーマンスは期待したほどではない。
 (記者)  多言語化はインターネットから始めて、将来的には放送でも実施するということか。
 (月尾座長)  国際放送の担当者の話では、吹き替え版の制作には非常に経費がかかるということだった。最終的には人間が確認しないといけないが、最近は自動翻訳の技術もかなり進んでいるので、インターネットでの字幕版の配信が一番着手しやすいと考えた。技術革新や財源が確保できれば吹替え版の制作も可能となるだろう。
 日本には映画字幕の文化が定着しているが、多くの国々では字幕を読むことは一般的ではないという話もあった。当面限られた労力と財源から考えると、字幕版は次善の策ではあるが、現時点では適切な手段であると判断したということだ。
 (記者)  字幕版を放送することは技術的に難しいということか。
 (月尾座長)  正確にわからないが、字幕を制作する時間を確保できれば可能だと思う。
 (村上座長代理)  現状を踏まえると、新たなチャンネルで中国語などの放送をするのは非現実的であるが、諮問委員会では、多くの人に見てもらうためには、英語だけでなく、ほかの言語でもやっていく必要があるのではないかという議論が多くあった。答申では、現実的な解として、インターネットについては、例えばタイの人はタイ語で見られるということができないかという検討をした。
 ニュースも番組も吹き替えで、現地語でやるのが一番望ましく、自動翻訳の技術も活用しながらできないかという議論をした。しかし、現在の技術水準と限られた財源を考えると、一番現実的なのはインターネットでまずやる、ニュースは字幕を付けることさえも難しいので、それ以外の番組でやる。字幕でやるか吹き替えでやるかだが、現実的なのは字幕。そこに注力してもっと見てもらう人を増やすという議論をした。
 (記者)  中国語でという話があったが、まずはアジアの言語を強化すべきということか。
 (月尾座長)  アラビア語などによる中東向けの情報発信も重要だが、当面、アジアを代表する、信頼されるメディアを目指すには、東南アジアにも中国語を使う人がたくさんいるので、そこへメッセージが届くのがいいだろうということで、第一歩として中国語を考えた。
 (記者)  各国のニーズにあわせた番組編成とあるが、これは地域で放送枠を確保するということか。
 (月尾座長)  世界に時差があるにもかかわらず、日本で起きたことをできるだけ早く放送しようとしているため、必ずしも各国の視聴好適時間にあっていない。ニュースについても、いずれは時間帯をあわせることを考えなければならない。
 ニュース以外の番組については、ハリウッドや韓国映画もそうだが、その国にあわせて作り変えているものがある。具体的にいうと、キスシーンが駄目な国では、ハリウッド映画は昔から作り変えている。「王様と私」では、タイでは子供の頭を撫でるのは侮辱した行為だということで、作り変えたそうだ。そういうことも考えていく必要があるだろう。放送という伝送路でいうと困難だが、インターネットで配信するということであれば、多少編集したものをそれぞれの国向けとして配信することも可能ではないだろうか。
 (記者)  ラジオ国際放送の多言語放送は今18言語で実施しているが、言語数を減らした方がいいという考えか。
 (村上座長代理)  言語数は堅持してネットでやったらどうかということ。
 (記者)  放送サービスで世界に普及させるには、番組の充実は図ったとしても、経費もかかり限界がある。そうであれば、これまであまり力を入れてこなかったインターネットにシフトしてNHKの国際放送を普及させたいという理解でいいか。
 (月尾座長)  当面は放送と平行で行うことになると思うが、恐らく世界のすう勢からいえば、従来、放送と言われていた不特定多数に送るための手段がインターネットに移行していくということは予測されているので、それに合わせて徐々に移行していくことが適切だと思う。
 (記者)  世界のすう勢といえば、国際放送の分野のリーディングカンパニーはBBCとCNNだが、ネットの利用件数はものすごく伸びているのか。テレビで見ている方が多いのではないか。
 (村上座長代理)  テレビというものの将来を考えるともっとネットと繋がっていくと考えられる。そういうことも検討の背景になっている。将来そういう方向であれば、インターネットをさらに活用することが突破口になるのではないかという考え方。これまでの放送に対する努力を止めるということではなく、プロモーションの強化などに取り組みつつ、インターネットをさらに活用することが今のNHKワールドTVには最も有効なのではないかということだ。
 (記者)  BBCやCNNのインターネットサービスはどの程度利用されているのか。
 (村上座長代理)  急成長かどうかはともかく利用者数は伸びている。NHKワールド・オンラインとの比較でみているが、ちょっと比較にならないような状態。
 (月尾座長)  最近の記事で、アメリカではインターネットによる視聴が急速に増えて、CATVなど従来メディアの契約が激減しているとあった。
 (記者)  それはインターネット経由で、テレビの番組を見るという話だ。NHKのインターネットサービスの充実というのは、国際放送の同時再送信をインターネットで見て欲しいということか。
 (月尾座長)  当面はそうなるが、どんどんアーカイブなどが拡充していけば、よりインターネットの力が発揮されると思う。
 (記者)  インターネット視聴がこれからも増えていくだろうということだが、どのくらいまで増やしたいという目標値はあるのか。
 (村上座長代理)  そういう足元の状況もわからないのが現状なので、答申にもあるが、視聴実態の把握をもっと機動的にやるべきではないかということも提案している。現状把握とそれを外に公開してわかってもらう状況を作っていくべきとだと提言している。
 (記者)  JIBが今後目指す広告収入、例えば5年後に何億円といった目標値はあるか。
 (月尾座長)  工程の検討はしていない。
 (記者)  受信料から支出している162億円が今後増えることは期待しないとのことだが、財源全体は広告収入で大きくしていくべきということか。
 (月尾座長)  そのとおり。特にJIBの放送枠を拡大することを期待している。
 (記者)  受信料を使うことにも議論があると思うが、適正な支出額についてはどう思うか。
 (月尾座長)  その点は議論していない。
 (記者)  工程は検討していないとのことが、どのくらいのスパンでこの提言を考えればいいのか。
 (月尾座長)  この答申書はNHKの経営の一環として受け止めて欲しいということで、経営委員会に提出したものである。明記はしていないが、今回の諮問は、放送法の改正から5年経ち、その目的は達成されているのかを検証するという経営委員会の意向によるもの。そのことを踏まえれば、5年程度でまた見直すということではないか。
 (記者)  当初期待されていたスポンサー収入とあるが、当初の期待はどのくらいだったのか。
 (村上座長代理)  具体的な数字はない。
 (記者)  今の2億円は低いということか。
 (村上座長代理)  低いと考える。
 (記者)  根本的な話だが、日本の存在感は世界的に見てかつてに比べると、かなり落ちていると肌で感じるが、それは国際放送というメディアがしっかりしていなかったからではなく、そもそも日本が魅力を失ったからではないか。魅力がそもそもないのに手段ばかり揃えてもなかなか苦しいと思うが、国際放送を積極的に展開することで海外に興味を持ってもらえるのか。
 (月尾座長)  興味を持ってもらえる可能性は十分あると思う。前にもお話ししたが、2年前、村にテレビが1台しかないというベトナムの村に行った。インタビューすると、しばらく前までは、ベトナム戦争の経緯から最も嫌いな国は韓国だったが、今一番好きな国は韓国だという。なぜかと言えば、韓国ドラマが無償で大量に提供されて、そのドラマの影響で一気に逆転した。それを考えると、国に魅力がなければ放送を頑張っても無駄だということではなく、十分に魅力や認知度は高まると思う。
 (記者)  それだけの余地はまだあると、頑張れば成果が出るとお考えか。
 (月尾座長)  多くの人に見てもらえれば、世界の人々が日本を見直すことになると思う。
 (記者)  それだけに過去5年間が残念。
 (月尾座長)  努力はしてきたと思うが、多くの人の期待に応えたものではなかったのかもしれない。

 

以上