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石川・輪島 漆で輝く祭りの華~輪島塗の技でよみがえるキリコ

カメラマンリポート
  • 2023年09月04日

8月下旬に行われた輪島市の夏祭り 「輪島大祭」。
巨大な燈籠「キリコ」が夜の街を練り歩きました。
中には数十年ぶりに伝統工芸・輪島塗の職人の技で修復されたキリコもありました。
半年にわたる修復、キリコの復活にかける職人の姿を追いました。

漆で輝く祭りの華~輪島塗職人の技でよみがえるキリコ

漆塗りの職人 上巻美津男さん

漆を塗って磨いた上にまた漆を塗り重ねる、輪島塗のベテラン職人です。
たとえ傷がついても漆を塗ることで美しいツヤが戻ってくるのが輪島塗の特徴です。

上巻さん

(輪島塗の魅力は) 丈夫さと木の温かさ
修理がきくので、ひびが入ってもまた元の姿に戻れる


去年の秋。

コロナ禍などで4年間使われていなかったキリコが、祭りの復活にむけて修復に出されました。
上巻さんは輪島に100人以上いる 漆塗りの職人の中でも文化財の修復経験が豊富です。
キリコの美しさを取り戻す作業を任されました。

祭りでついたたくさんの傷

このキリコは作られて30年、はじめての修復です。

上巻さん

思っていたよりひどいというのが分かった
(全部)塗り直していいね

大小合わせて100近くになる部品を漆で塗り上げます。
ヒビや割れ目を埋めるのは、砥石の粉を混ぜた漆。

塗り重ねて傷があった部分が修復されていきます。
上巻さんはもっとも大事な仕上げ作業に1人で1ヶ月かけて挑みます。
巨大なキリコを修復するため広い間取りの特別な工房を用意しました。
普段の工房とは違い、漆が固まる早さに影響する湿度が非常に高く上巻さんは苦戦を強いられていました。

漆が固まる時間は温度や湿度によって細かく変わる
上巻さん

場所がいつもと勝手が違う
湿度や温度が全然違う
使いやすくするのに苦労した

気温や湿度に合わせて複数の漆を配合し固まる早さを調整しました。
なれない場所での作業を職人の経験で乗り切ります。

固まる時に縮むため、厚く塗りすぎるとシワができてしまう

塗ると同時に余分な漆を取り除きます。
キリコの細かい彫刻は特に漆がたまりやすいと言います。

上巻さん

ちょっとしたことで全然違う顔を持っていたりするので
やっぱり生きているような感じ
漆の状態を見ながらいけるかどうか自分で判断していく

輪島大祭の当日。上巻さんが補修したキリコが、お披露目となりました。

上巻さんも町内会の一員として祭りに参加します。
彫刻には金箔が張られキリコを華やかにしました。
町内会でも 評判の出来上がりです。
キリコが4年ぶりに街に繰り出します。

塗上がったばかりのキリコと歩こうと100人近い人が集まり祭りを盛り上げました。
キリコは美しいツヤを取り戻し鏡のように街のにぎわいを映します。

見物客も参加者も、よみがえったキリコとともにめぐる祭りの喧騒に気持ちが高ぶります。

「すごくきれいだと思いました。ピカピカして輪島塗って感じです」
「コロナもあって祭りができなかったので寂しかったです。
もう最高ですね!」
上巻さん

きれいになった美しくなったと言ってもらえるのが一番嬉しい
みんなが頑張って残していくことでキリコがずっと残っていくと思う
この先また10年20年、100年200年でもずっと続いていくなら一番いい

職人技が支える輪島の祭。
キリコが人の心を引きつけ、街を活気づけました。


取材後記(八十嶋仁カメラマン)

漆器をつくる技術の中では、きらびやかな装飾を施す「蒔絵」などは取材する機会もたびたびあり、皆さんの中でも見たことがあるという方も多いかもしれません。
実際には、木地を作ったり、下地を塗ったり、それを研いだりする専門の職人がいて、100を超える工程があるとされます。
今回取り上げた「塗師」という仕事について、私はこれまであまり取材したことがありませんでしたが、輪島塗の組合や漆器店の方から「塗師がとりあげられることは少ないので、(取材は)ありがたい」という声をよく聞きました。
取材の中で見えてきたのは、最高の輝きを生み出すために何通りにも配合された漆を使い分け、何度も塗っては研ぎを繰り返す職人の技や心意気でした。
豊かで美しい伝統の技法を受け継ぐ職人の心が、輪島で暮らす人たちの生活の中に息づいていることを感じた取材でした。

動画の公開期間は令和5年9月4日から11月3日までです。

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