小麦とともに生きる 霧島連山のふもとで
- 2022年07月01日

高温多湿な鹿児島では栽培が向かないとされる小麦。霧島連山のふもとでその小麦を作り続けている男性がいます。地域に根ざした小麦栽培を行う男性の思いに迫りました。
(鹿児島局ニュースカメラマン 桑原健史)
チャレンジャーの若手農家

農家の増田泰博さん(39)。
霧島連山のふもとで、7年前に小麦を作り始めました。


霧島市農政畜産課 鎌田順一課長
「小麦をあまり栽培する方はいなかった。チャレンジャーだなという印象」

霧島食育研究会 千葉しのぶ理事長
「すごく強い熱意を持って自分なりの栽培方法に取り組んでいる」

イタリア料理店 坂井克彰シェフ
「パスタにすると格段に香りがいい。お客さんにも自信を持って出せる」
小麦に付加価値を

化学肥料や農薬を使わずに小麦を栽培するのが増田さんのこだわりです。
製粉も自分で行い、新鮮な小麦粉を顧客の必要なタイミングで届けています。


農家 増田泰博さん
「やるんだったらよけいなことはしたくない。植物本来の力をうまく引き出して栽培する。自分の作った作物に価値を付けるとなると最終工程まできちんとやらないといけないのかなと思います」
何もないところからの小麦作り
増田さんは福岡県出身で、13年前に会社をやめ、全国を放浪。たどりついた霧島で、食育を研究するNPOで働くうちに穀物の栽培に興味を持ち、それまでやったことのなかった農業をはじめました。

就農当初は、農業だけでは生活できず、アルバイトをしながら寝る間を惜しんで小麦を育てる日々でした。
1人ではじめた小麦作りでしたが、周りの人に助けられながら、徐々に自分の作った小麦が認められるようになっていきました。
結婚して家族もでき、長男には”麦(ばく)”、次男には”豊(ゆた)”と名付けました。
家族の存在が何よりも励みになっています。

増田泰博さん
「ゼロからやるのは、かなり辛い時期もたくさんあった。周りの人に支えられてきたし、それがなかったら今頃、人に知られないまま辞めていたかもしれない」
互いに顔が見える小麦作り

今では増田さんの作る小麦は、パン屋やラーメン店など鹿児島県内を中心に50軒ほどの店で使われています。
配達も自分で行い、小麦を使ってくれている人の声を直接聞くようにしています。

この日配達で訪れたのは、県内産の食材にこだわる鹿児島市のイタリア料理店。届けたのは試してみたいと頼まれていた品種の小麦粉でした。

イタリア料理店 坂井克彰シェフ
「香りの立ち方が全然違う。また新しいものをもらうとテンションが上がります。県外から来られてこの地に骨をうずめるつもりで活動を続けていて、他の人よりも思いが強い。人間性も大好きです」
最後に増田さんは自分の作る小麦への思いを次のように語ってくれました。

増田泰博さん
「身近なところでまわしていくのが一番です。小さくまわって循環して、地元でどんどん広がっていってほしい」
取材後記
ラーメンにうどん、パンやお菓子など小麦粉を使った食品は私たちの生活にとって欠かせないものとなっています。
ウクライナ情勢の影響で世界的に食糧危機への不安が高まっています。地域に密着して、栽培から流通まで手がける増田さんの小麦作りには、学ぶことが多いと感じました。