IPCEM&イベント (2013年)

第40回 教育コンテンツ世界制作者会議(IPCEM) 2013.10/22-23 NHK放送センター(東京・渋谷)開催リポート

session3 いじめに立ち向かう:メディアに何ができるのか

世界中で深刻な問題となっている「いじめ」。今、各国のメディアは様々な新しいアプローチで、いじめを減らすための番組作りに取り組んでいる。メディアの役割について議論が行われた。

パネリスト

リー・ハ―シュ リー・ハ―シュ
(アメリカ)

ドキュメンタリー監督
嘉悦登 嘉悦登(日本)
NHK 制作局青少年・教育番組部
チーフ・プロデューサー
ヴォルフガング・プルース ヴォルフガング・プルース
(ドイツ)

第2ドイツテレビ(ZDF)
コミッショニング・エディター

モデレーター

西川美和子 西川美和子
NHK 知財展開センター企画推進部 チーフ・プロデューサー

 嘉悦氏は、いじめを継続的に取り上げる番組を制作。日本でいじめが原因の自殺事件が起きると、一斉に報道が行なわれるが、それだけでは問題解決につながらないのではないかと疑問を感じていたという。そこで、あるいじめ自殺事件をきっかけに、「いじめをノックアウト」という番組を立ち上げた。番組の台本はなく、人気アイドルグループのリーダーが子どもたちと一緒にいじめ問題を考える。毎回、問いを投げかける形で番組を終え、子どもたち自身が考えることに重点を置く。NHKでは、2013年夏から"いじめを考えるキャンペーン"を展開し、いじめの傍観者に焦点をあてた番組も放送した。

 4年前に、いじめの実態を克明に記録した『BULLY(いじめっ子)』を制作したハ―シュ氏。自身も幼少の時にいじめを受けた経験を持つが、当時周囲の大人はいじめを肯定するような発言をし、自分のことを理解してくれなかった。その辛い経験から、世界を変えるような作品を作りたいと思ったという。『BULLY』ではあえて具体的な解決法を示さない。それは、視聴者自身に考える時間を持ってほしかったからだという。現在は、作品を世界の子どもたちに見せる活動に取り組む一方、いじめに対する教師への指導を行なっている。

 第2ドイツテレビのプルース氏は、"我慢は禁物"をテーマにした番組を制作した。弁論術の専門家をコーチに迎え、いじめの対処法を学ぶワークショップを番組で見せる。例えば、メガネをからかわれた場合には、「そうよ、あんたよりよく見えるわ」と相手の目を見て言い返す、というように、具体的な対処方法を教えるのだ。このアプローチは子どもたちに自信を持たせ、放送後にも反響を呼んだ。また、些細なことがきっかけでいじめが起きた事例を、経験者の証言とともに紹介。だが、いじめの問題は加害者と被害者への配慮が必要で、取材をするのが難しいとも語った。

 経済格差や人種の違いなどによって起こるいじめは特に解決が難しいが、いじめの被害者のみに解決を求めるのではなく、もっと広い地域社会でいじめ問題を考える必要があり、継続的に放送で取り上げるなど、メディアが果たす役割は非常に大きいと、今後の取り組みの重要性について突っ込んだ議論が行われた。

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