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  4. 十勝沖地震から20年 津波から住民をどう守るか

平成15年に発生した十勝沖地震から、ことしで20年。当時、太平洋沿岸の広い範囲に津波が押し寄せ、苫小牧市の製油所のタンクが燃える様子を覚えている方も多いのではないでしょうか。この20年もの間、東日本大震災や胆振東部地震などの地震も経験し、北海道太平洋沿岸の自治体では今もなお、大地震と津波のリスクにさらされています。迫り来る災害から、どのようにして住民の命を守っていくのか。今も対策を続ける北海道十勝地方の豊頃町を取材しました。

(帯広放送局記者 米澤直樹)


平成15年十勝沖地震とは

揺れが起きたのは、平成15年9月26日、午前4時50分。多くの人がまだ寝静まっていた夜明けごろでした。十勝沖を震源とするマグニチュード8.0の大地震が発生。豊頃町など道東を中心に最大震度6弱を観測。帯広市や釧路市でも震度5強を観測しました。この地震では、死者・行方不明者2人、800人以上がけがをし、避難者は4万人近くに上りました。


1本しかない「生命線の道」

このうち、太平洋側に面した豊頃町大津地区には津波警報が出され、この地震で犠牲となった町外からの釣り人2人は、同町で被害に遭いました。あれから20年。今もこの地区では、津波のリスクにさらされています。東日本大震災後に道が新たに公表した想定では、千島海溝沿いの巨大地震で予想される津波は町内で最大22.3mと、大津地区の大部分が浸水すると想定されています。さらに、去年国が公表した最悪のケースでの被害想定では、同町内での死者は250人と推計され、人口220人余りの同地区が全滅しかねない厳しい想定結果が出されたのです。そのため、地震発生後、いかに迅速に避難するかが重要になってきます。

しかし、大津地区には1つの大きな問題がありました。それは、”内陸へ逃げる道路が1本しかないこと”です。20年前の十勝沖地震でも、この道路は損傷し、通行できなくなっていたのです。

当時、総務課長として対応にあたっていた 菅原裕一副町長
「直接大津に行く道路は陥没したり、割れたりしていて通れず、迂回する道路を使ってなんとか職員が大津にたどり着きました。この道路は、まさに生活道路です。大津の港に揚がった魚も毎日運ぶ道路ですし。これ1本しか大きな道路はないというのが、当時も今も変わらない現状です」


思いついた妙案は

そこで今町が取り組んでいるのが、「1つでも多くの避難路を確保すること」です。同町は、大津の市街地から少し離れた場所にいても、唯一の避難路にアクセスしやすくしようと、道道に接続する新たな道路を来年度以降整備することを決めました。さらに去年、20メートル超の津波が起きても、地区内で安全に避難できるようにするため、海岸沿いの高台につながる道を整備し、避難場所として使えるようにしました。現状、この高台に向かうには、いったん海に向かって車を走らせなければならないため、心理的負担を減らすためにも、直接高台に向かう道路の整備も来年度以降着手することにしました。もともと年間予算(一般会計の当初予算ベース)が58億円余の豊頃町。これまで、町単独で災害対策を進めることが難しい状況でしたが、去年、国の特別措置法の改正で、整備費用について国の補助率が上がり、対策に乗り出しやすくなったことも対策の強化を後押ししました。

豊頃町総務課 木幡健太 危機対策係長
「選択肢が1本だけだと、地区が孤立してしまう可能性があるので、1つでも多くの選択肢があって、避難の状況に応じて選択できるようにしておくことが重要だと考えています」


住民側も独自に

行政がハード面の整備を進める一方、住民たちも自主的に対策を進めています。尋ねたのは、大津地区の区長を務める赤澤公磨さんです。「これです」。そう言って赤澤区長が私に示したのは、1つの名簿でした。ここには、津波からの避難が必要になった際、車を運転できない1人暮らしの高齢者を迎えに行く人の名前が記されています。同地区でその対象となっている高齢者は15人。地区では、1人の高齢者に対して3人の住民を決めておき、必ず誰かが対応できるような態勢を東日本大震災後に整備しました。名簿は区長と役場の担当者が共有。これをもとにした訓練も毎年行っていて、防災意識の向上を図っています。

赤澤公麿 区長
「免許を持ってないおばあちゃんたちを、いかに一緒に連れて逃げるかということに重点を置いています。一緒に連れてってもらえるという安心感はあるかなと思います」


さらなる選択肢を増やす

豊頃町では、大津地区でのさらなる避難の選択肢確保に向け、取り組みを続けています。今年度中に1800万円の「津波救命艇」(40人乗り)と呼ばれる特殊な船を1隻導入することを決定。仮に内陸へ逃げそびれても、船に逃げ込める態勢も整備することにしています。今後は地域の集会などを救命艇の中で行うなど、日頃から使い勝手などを確かめてもらい、いざという時に備えてもらうということです。今回の取材では、災害のリスクをいかに減らすかという行政の姿勢はよくわかりましたが、こうしたハードの整備が有効に活用されるためには、日頃の訓練など、災害自体を意識しながら生活するソフト面の対策の充実を図っていくことも大事なのではないかと思いました。

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