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  4. 切迫!千島海溝沿い巨大地震と津波

いつ起きてもおかしくない」 そう言われているのが、道東に大きな被害をもたらすと想定されている千島海溝沿いの巨大地震です。ニュースなどでも何度もお伝えしていますが、改めてどんなものなのか、地震や津波のメカニズムに詳しい北海道大学大学院の高橋浩晃教授へのインタビューを交え、イチからわかるよう解説します。 (釧路局 記者 島中 俊輔)

【千島海溝沿いの巨大地震とは】

千島海溝沿いの巨大地震」は、道東沖にある千島海溝と呼ばれる海底で起きる巨大地震です。震源の領域は「十勝沖」「根室沖」「色丹島沖および択捉島沖」がありますが、この複数が連動して巨大地震が発生する可能性があるとされています。
地震発生のメカニズムは、プレート間地震と呼ばれるもの。北海道がある陸のプレート(岩盤)の下には、千島海溝から「太平洋プレート」が沈み込んでいます。陸と海のプレートの境目で年々ひずみがたまっていくため、それを解放するように「プレート間地震(下図:プレート境界で発生する地震)」と呼ばれるタイプの大きな地震が繰り返し発生しています。

このタイプの地震の特徴は「繰り返し発生すること」、「地震の規模が大きいこと」、「地震が起きると広い範囲に強い揺れと津波をもたらすこと」です。このタイプの地震で記憶に新しいのが、東日本大震災を引き起こした巨大地震。そして将来起きるとされている南海トラフの巨大地震も同タイプの地震です。

【過去繰り返してきた大きな地震】

千島海溝沿いではマグニチュード7~マグニチュード8前半のプレート間地震が過去もたびたび発生していました。
▼1952年(昭和27年)十勝沖地震(マグニチュード8.2)
▼1973年(昭和48年)根室半島沖地震(マグニチュード7.4)など。
ただ、想定されている「千島海溝沿いの巨大地震」はこれらの地震の領域が連動すると考えられ、地震の規模を示すマグニチュードは9クラス。マグニチュードが2つ違えば、エネルギーは1000倍になるので、いわば“超巨大地震”となるのです。

北海道大学大学院 高橋浩晃教授
「非常に広い領域が一気にずれ動いて、大きな地震となるのが千島海溝の巨大地震と呼ばれている。超巨大地震になるため、地震による揺れも非常に大きくなり、津波も巨大津波になってしまうことが一番心配される。東日本大震災の地震、あるいはそれよりも大きな地震が切迫していると考えて欲しい」

【なぜ切迫していると言われている】

高橋教授も「切迫している」と警鐘を鳴らす千島海溝沿いの巨大地震。そこには、科学的な理由があります。
カギとなるのが、津波によって運ばれた海の砂や貝などが積もった「津波堆積物」を調べる地層調査です。大きな津波が陸地を襲うと、津波が運んだ砂や泥などが湿地や沼などに残されます。これが津波堆積物です。この津波堆積物を調べることで、過去どのくらいの規模の津波が、どの程度の頻度で起きたのかを知ることができます。

過去およそ6500年分の津波堆積物を調査した結果、この“超巨大地震”ともいえる地震が300年~400年の間隔で発生したと考えられています。最も最近のものが17世紀に起きたと考えられていて、現在すでに400年程度が経過していることから、政府の地震調査委員会は今後30年間以内で起きる確率を7%~40%と想定し「大津波をもたらす巨大地震の発生が切迫している可能性が高い」としているのです。

北海道大学大学院 高橋浩晃教授
「江戸時代の始まりくらいに、前回の超巨大地震、そして大津波があったことが明らかになっていて、地震の繰り返し間隔は大体400年。まさに今は“満期”を過ぎてしまっていることから、いつ起こってもおかしくない。発生確率が非常に高いと考えられる」

【どんな津波や揺れが】

“超巨大地震”がもたらす被害は甚大なものになると想定されています。

北海道が去年7月に公表した想定では、えりも岬から東側の道東では概ね20mを超える津波が想定されています。
地震直後に地盤が下がることなどもあって、海岸付近の標高が低い場所では、浸水が数分で始まるところもあります。そして、最大高の津波は概ね30分程度とされています。

国の想定による地震の揺れは、道東の市町村別に見ると最大で次のようになっています。 
【震度7】
(釧路・根室地方)厚岸町・浜中町
【震度6強】
(釧路・根室地方)根室市・別海町・釧路市・釧路町・標茶町・白糠町・鶴居村
(十勝地方)大樹町・広尾町・幕別町・豊頃町・浦幌町
【震度6弱】
(釧路・根室地方)弟子屈町・中標津町・標津町
(十勝地方)帯広市・音更町・芽室町・中札内村・更別村・池田町・本別町・足寄町
【震度5強】
(釧路・根室地方)羅臼町
(十勝地方)士幌町・上士幌町・鹿追町・新得町・清水町・陸別町

道東では過去にも繰り返し大地震が起き、津波の被害も出ていましたが、高橋教授はレベルが全く違う地震や津波となると強く呼びかけています。

北海道大学大学院 高橋浩晃教授
「2003年、あるいは1952年の十勝沖地震など、道東には地震の揺れや津波の被害を受けて来た地域がたくさんある。しかし、今、想定されている超巨大地震は、過去100年間の地震に比べれば、けた違いの大地震になる。地震による揺れは今まで経験したことのない強く、揺れの時間は3分から5分ぐらいずっと揺れっぱなしと非常に長くなる可能性もある」
「これまでの経験が通じない。これまで被害をあまり受けてこなかった地域も、被害を受けてしまう可能性があり、『これまで大丈夫だったから次の地震・津波も大丈夫だ』とは決して思わないでいただきたい

【死者8万5000人 厳しい被害想定】

大津波や地震による強い揺れがもたらす被害は甚大なものになります。

去年12月に国が公表した被害想定では千島海溝沿いの巨大地震の最悪の場合、北海道全体の被害で8万5000人が死亡。建物被害は5万7000棟が全壊など厳しい数字が並んでいます。道はことし6月中をメドに市町村ごとの被害想定をまとめることにしています。

【何よりも事前準備】

厳しい想定を前に、諦めの声も聞こえそうですが、国の想定には大事なポイントがあります。

「対策をとれば、犠牲者数を8割減らすことができる」

早期避難や避難施設の確保といった対策をとれば、犠牲者数は大幅に減らすことができるというのです。高橋教授も備えを進める重要性を指摘しています。

北海道大学大学院 高橋浩晃教授
「残念ながら地震の予知はできない。このため、千島海溝沿いの巨大地震がいつ起こるかということはわからない。だからこそ、いつ起こっても大丈夫なよう、事前の備えが非常に重要になる」

2022年4月6日(水)

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