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技能実習生を流氷観光に招待 その理由は?

  • 2024年2月20日

紋別市はこの冬、技能実習制度などで暖かい国から来ている外国の人たちを流氷観光船に招待する、初めての取り組みを行いました。
なぜ、このような取り組みを行ったのでしょうか?
背景にあったのは、北国が抱える切実な悩みでした。
(北見放送局 阿部力) 

実習生らを“ガリンコ号”に招待!

2月6日の紋別市。
流氷観光船「ガリンコ号」におよそ80人の外国の人たちが乗り込みました。
いずれも、市内の水産加工場などで働く技能実習生などです。

紋別市や紋別市の水産加工業協同組合が、初めて実施したこの取り組み。
2月5日からの3日間で、あわせて300人ほどを招待しました。

この日は、港の中にまですき間なく流氷が流れ込んでいる、最高の「流氷日和」。
見渡すかぎり、真っ白な流氷が広がっていました。
大きな氷を砕きながら、ゆっくり進む観光船。
まさに、オホーツク海でしか味わうことができない体験です。

インドネシア出身の人
「楽しいです」
Qインドネシアは暖かいですか?
「はい、暖かいです」
Q紋別はどう?
「寒いです」

観光船招待 その背景は?

なぜ、このような取り組みを行ったのでしょうか?
背景にあるのは、水産業が盛んな紋別市が抱える課題です。
紋別市はホタテやサケ、カニなどが水揚げされ、特にホタテは、ふるさと納税の人気ランキングでも毎年上位に入る、紋別市の特産です。
その現場を支えているのは、技能実習や特定技能の制度で来日している外国の人たち。
その数は、去年6月の時点で582人にのぼっていて、深刻な人手不足が続く1次産業の現場で、欠かすことのできない存在になっています。

紋別市は去年、水産加工場で働く技能実習生などにアンケートを実施しました。
その中で、日常生活で一番「困ったこと」を問う質問に対し、半数ほどが「冬は寒くて雪が多い」などといった「気候」をあげました。
暖かい国からやってきている人たちにとって、短期間の観光では魅力となる北海道の冬も、いざ暮らすとなるとネックになっていることが明らかになりました。

タイ出身の人
「すごく寒い。とても寒い。タイは暑い。今は30度ぐらい」

タイ出身の人
「買い物は大変。雪がいっぱいある」

政府の技能実習制度見直しも

さらに政府が示している技能実習制度の見直しも関係しています。
政府は現在の技能実習制度を廃止して、新たに「育成就労制度」を設ける方針を決定しました。
この制度ではこれまで原則できなかった、別の企業などに移る「転籍」について、最初の受け入れ先で1年から2年働いて、一定の技能と日本語能力があれば同じ分野に限り、認めるとされています。
こうした変更はもちろん、働く外国人側にはメリットになります。
しかし特に地方の受け入れる側としては、賃金が高く生活も便利な都市部などに転籍する人が続出することを不安視。
紋別市も基幹産業である水産業にも影響が出るのではないかという懸念を抱いています。

初の取り組み 手応えは?

「厳しい冬へのマイナスイメージを変えたい」。
紋別市などは、オホーツクならではの冬の楽しさを知ってもらおうと、今回の取り組みを企画しました。
厳しい寒さだけではなく、自然の雄大さを間近で味わえる、紋別ならではの体験です。

実習生たちは笑顔で記念撮影し、満足した様子でした。
オホーツクならではの魅力「流氷」を写真や動画におさめて、出身国の家族に送ったり、SNSで発信したりするなどしていました。

タイ出身の人
「きょうは流氷を見ることができてうれしいです。写真をいっぱい撮りました」

インドネシア出身の人
「初めてだから インドネシアには流氷はないので、本当に幸せになりました」

参加者から聞かれたのは「楽しい」「うれしい」「幸せ」などの、プラスイメージのことばばかりで、皆さん笑顔だったのが印象的でした。
今回の流氷体験を企画した紋別市も、そうした様子を見て手応えを感じていました。

紋別市の担当者
「大成功だったと思います。引き続きですね、選んでもらえる街、紋別になるようにこれからも取り組みを進めたいと思っています」

取材後記

北海道出身の私にとって「冬は寒くて当たり前」という常識があり、それを疑うことなくこれまで生きてきました。しかし紋別市に限らず、北海道にやって来る実習生らの多くは、インドネシアやタイ、ベトナムといった東南アジアの人たち。彼らにしてみれば「冬も暖かくて当たり前」なのだということに改めて気づかされました。観光ではなく、生活者として北海道に住んでいる彼らに気持ちよく過ごしてもらいたい。そんな紋別市や水産加工業協同組合の思いや取り組みは、きっと実習生らに届くと思いました。現在、政府が進めている制度の見直しに対して、受け入れる側の人たちから不安の声も上がっています。それでも、賃金や利便性だけではない「おもてなしの心」や「ほかにはない魅力」を選んでくれる人は、国籍や性別、年齢を問わずにいると思います。そんなオホーツク地域の取り組みを一つでも多く取材し、これからも紹介していきたいと思います。

2024年2月20日

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