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高齢化進む室蘭 車での避難は?

  • 2023年8月1日

今年(2023年)7月、室蘭市で珍しい津波避難訓練が行われました。避難は原則「徒歩」とされていますが、今回、初めて車も使って参加者を高台へ移動させました。高齢化が進む中、住民たちが1人でも多くの命を救おうと模索を続けています。 (室蘭局 篁慶一)  

住民の半数が高齢者で危機感

室蘭市西部にある7つの町内会は「蘭西七町連合会」を構成しています。約2300人が暮らしていますが、実にその半数が65歳以上の高齢者です。室蘭市内でも、特に高齢化が進んでいる地区の1つです。この地区にある舟見町では、大地震が発生した際、最大4.9メートルの津波が44分で押し寄せるとされています。

こうした状況に危機感を募らせているのが、蘭西七町連合会の会長を務める森川卓也さん(84)です。高台に避難所がありますが、浸水が想定される場所で暮らす高齢者や障害者の中には、徒歩で逃げることが難しい人が100人程度いると見込んでいるからです。

そこで、連合会は室蘭市と協議を重ねながら独自の避難ルール作りを進めています。その中で、避難はあくまでも「徒歩が原則」としながらも、「高齢者等で徒歩避難が難しい人」については車での避難を認める方針を打ち出しました。

蘭西七町連合会 森川卓也 会長
「『津波が来たら自宅の2階に上がればいい』とか『死んだらそれでいい』というような言葉も地区の高齢者から聞きます。徒歩で高台まで逃げられないという人たちをなんとか助けたいですし、津波で1人でも亡くなる人が出てはいけないと考え、思い切って車避難をやってみることにしました」

蘭西七町連合会作成の避難地図

連合会では、今年3月に車で避難するための地図も作成し、地区の全戸に配布しました。地図には津波の浸水域が赤く表示され、渋滞や事故を引き起こさないよう、それぞれの住んでいる場所から避難所までの行き方が細かく矢印で示されています。室蘭市によりますと、こうした地図を町内会が作るのは珍しいということです。

初めての訓練の結果は

その実効性を確認しようと、7月22日、蘭西七町連合会は室蘭市と合同で津波を想定した避難訓練を実施しました。約200人の住民が参加し、60台の車で参加者の一部を避難所まで移動させました。車を使った避難訓練は室蘭市内では初めてで、参加者の移動ルートやかかった時間を確認するために室蘭工業大学からGPSを借り、100人に身につけてもらいました。

午前9時すぎに屋外のスピーカーから大津波警報の発令と速やかな避難が呼びかけられると、地区の住民たちは徒歩や車で次々と避難を開始しました。参加者の中には、隣の建物に住む高齢者を呼びに行き、自分の車に乗せてから高台へ逃げる人もいました。訓練開始から10分ほどすると、避難所には参加者を乗せた車が次々と到着し、目標としていた30分以内に避難を完了させることができました。

訓練に参加した人たちからは、「近所の人の車に乗せてもらって避難できました。高齢なので今日はとても楽でした」とか「スムーズに避難することができたので、車避難は使えるような気がします」といった前向きな受け止めの声が聞かれました。大きなトラブルはなく、森川さんも手応えを感じていました

蘭西七町連合会 森川卓也 会長
「参加者にはルールに基づいた避難をしてもらい、想定通りに進めることができました。結果からいくとうまくいったと思います。ただ、訓練がうまくいったからといって、本番でうまくいくとは限らないので、参加者の移動データなどを検証し、今後の対応を考えていきたい」

訓練で見えた課題も

車を使った大規模な避難訓練は全国的にも例が少ないということで、今回は道外からも研究者が視察に訪れました。その1人が、岩手県立大学防災復興支援センターの杉安和也副センター長です。東日本大震災で被災した自治体で防災力の向上を目指した取り組みなどを進めています。杉安副センター長は、今回の訓練を評価しましたが、見えてきた課題もあると言います。

岩手県立大学防災復興支援センター 杉安和也 副センター長
「津波から避難する際に自動車の存在は決して無視できない選択肢です。地域の方々が前向きに考えながら実際に検証することは非常に大きな意義があると思います。今後の課題としては、避難してきた車が多くなることも想定されるので、車の誘導方法や駐車可能な場所を事前に決めたり、避難所の駐車スペースが満車で利用できなくなった場合にどう対応するのかを具体的に検証したりする必要があるのではないでしょうか」

また、室蘭市の防災担当者も「訓練はスムーズに進んだ」と話す一方で、支援が必要な人をいかに早く車に乗せるかが今後の課題になってくると指摘しました。市は、引き続き蘭西七町連合会と避難のルール作りを進めるとともに、他の地区からも相談があれば、対応を検討したいとしています。

室蘭市防災対策課 佐々木健太郎 係長
「原則として、徒歩で避難できる方は徒歩でお願いしたいというのは変わりません。ただ、徒歩避難が難しい方も現実にいらっしゃいます。今のところ、蘭西七町連合会以外から車避難のルール作りに関する相談はありませんが、希望があった場合は、どういった避難方法が有効なのかをそれぞれの状況に合わせて考えていく必要があると思います」

国は去年(2022年)9月、「千島海溝」と「日本海溝」で想定される巨大地震の防災対策推進基本計画の中で、「徒歩による避難が難しい場合等には、地域の実情に応じて、災害による道路寸断、道路渋滞及び交通事故の可能性が低いことを前提に、自動車を用いた避難についても検討を行う」と明記しました。高齢化がさらに進み、各地で徒歩避難が難しい人が増えることも予想される中、車での避難をどう位置づけるのかは今後の大きな課題です。その中で、室蘭の町内会のように住民が主体的に避難のルール作りに関わる取り組みは1つのヒントになりそうです。

2023年8月1日

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