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”命の道をつなぐ” 災害時の「道路啓開」求められることは

  • 2024年3月13日

「道路啓開」ということばを聞いたことがあるでしょうか。 災害時に、がれきなどでふさがれた道路を「啓開」、つまり切り開いて、緊急車両が通る救援ルートを確保することです。 道路啓開は東日本大震災で注目され、北海道でも対策が進められています。 被災者の救助や救援活動に必要な「命の道」を確保するため、求められることは何か、取材しました。 

“くしの歯作戦”で救援ルート確保

東北地方の沿岸部を中心に、甚大な被害をもたらした東日本大震災。
救援ルートを確保するため、道路をふさいだ車両やがれきなどを最低限、取り除き、被災地まで、緊急車両が通行できるようにする道路啓開が行われました。

「くしの歯作戦」と名付けられた、当時の道路啓開。
内陸部の幹線道路を軸に、沿岸部へ16本の道路を切り開くことを目指しました。
発災から1週間後、目標とするルートのほぼすべてを確保できました。

道路啓開指揮した元官僚”スピード感を”

作戦の指揮にあたったのは、当時、国土交通省東北地方整備局の局長を務めていた、徳山日出男さん(67)です。
着任してから、2か月足らずで起きた巨大地震。
発災直後、多くの職員が集まって対応にあたりましたが、沿岸地域とは連絡が取れず、情報収集すらままならない状況でした。

こうした中、徳山さんが最初に取り組んだのが、沿岸部に通じる道路の確保でした。

「阪神・淡路大震災で高速道路が横倒しになってるような、地震動が卓越した災害じゃなくて、津波型なんじゃないかと考えました。
そうだとすると、沿岸部が広範囲にやられているので、救援ルートをまず真っ先にわれわれが開かなきゃいけないんじゃないかという思いがありました。
道路啓開で、とにかく3日以内に病院にまでタンクローリーが着かなければ、自家発電が止まって人が死ぬっていう局面ですから、われわれがまず1番のスピード感を持たなきゃいけないと思いました」

”命の道”確保へ トップとしての葛藤

徳山さんによりますと、震災当時の国のルールでは、「津波注意報が解除された後に現場調査を開始する」とされていました。
余震が続く中、現場での作業を命じてもよいのか。
現場のトップとして大きな葛藤がありましたが、初動が今後の復旧・復興の成否を分けると判断し、津波警報や注意報の解除を待たずに、作業を始めるよう指示しました。

「道路啓開を命じて、もし人命に何かあったときには、辞めて責任が取れるなら簡単なことだけど、一生、十字架を背負いますよね。
しかし、絶対にやらなければならないのであれば、間違いなく2次災害に気をつけながら、道路啓開をやらせようと思いました」

北海道の「道路啓開」計画は

道路啓開は、広大な面積を有する北海道でも重要です。
道内では、震災を教訓に備えが進められていて、2020年には、北海道開発局が中心となって、道路啓開計画を策定しました。

計画では、まず、道内各地の空港や港など、最大で54か所の「広域進出拠点」を設定。
高速道路などを活用して、24時間以内にそれぞれの拠点を結びます。
48時間以内には、拠点から沿岸部につながる道路を確保。
そして、生存率が大きく下がるとされる発災から72時間以内に、沿岸部を走るルートを確保するとしています。

計画は随時、見直しが行われていて、2月末、胆振・日高地域を管轄する北海道開発局の室蘭開発建設部では、道路啓開でがれきの撤去などにあたる重機の燃料をどう確保するか、担当者が話し合っていました。

「石油会社が、災害時にどのルートで燃料を出荷するのか、どういう連絡体制で、どこに連絡したら燃料を持ってきてくれるのかというのが、あいまいな部分がまだあったので、そこをもうちょっと詰めていきたいと思います」

復旧とは違う道路啓開“先へ先へ”

災害時、迅速に道路啓開を行うためには何が重要なのか。
震災当時、「くしの歯作戦」を指揮した徳山さんが部下への指示で強調したのは、「道路啓開は一般的な道路復旧とは違う」ということでした。
道路の復旧は、一般車両が安全に通行できることを前提に作業を進めます。
ただ、発災直後に求められるのは、可能な限り早く、被災地に救援の手を届けることです。
そこで徳山さんは、あえて、行政内部でもなじみが薄かった「啓開」という言葉を用いて、指示を出すことにしました。
修復作業は最低限にとどめて、緊急車両をとにかく先へ先へと進める意識を現場に徹底させるためでした。

「復旧っていうのは、ある意味、悠長なんですよ。
1か所を丁寧に直し始めたら、もうこの作戦は失敗するので。
復旧との違いをどうやって伝えたらいいのかというのが1番悩みました。  
ですから、わざと啓開っていうことばを使おうと思ったんですよ」

“民間との連携 事前の仕組みづくりを”

民間と連携した備えも重要だと、徳山さんは言います。

震災当時、地元の建設業者は、震災前に国と結んでいた災害時の協力協定に基づいて、発災からまもなく、行政との連絡が取れない中でも自主的に現場に参集し、迅速な作業につながりました。
徳山さんは、北海道の道路啓開の計画でも、災害時に連絡手段が失われる事態を想定して、
建設業者が行政からの連絡を待たずに、自主的に道路啓開にあたる仕組みづくりが必要だといいます。

「建設業者が指示を待たずに作業しても、会計的にはあとで処理しますから、安心して取りかかってくださいという取り決めをしておかないと、そこで迷い始めたらだめですからね。
建設業者は、災害の時はまさに地元を守る要なんですね。
その使命感を発揮できる体制を作っておくっていうのは、大事なことだと思います」

道路啓開 指揮官からのメッセージ

取材の最後に、徳山さんは1冊の本を見せてくれました。
震災を経験した官僚たちが、災害時の初動について教訓を書き記した本です。
冒頭には、次のようなことばが紹介されています。

「備えていたことしか、役には立たなかった。備えていただけでは、十分ではなかった」

一見、矛盾しているように感じるが、これこそが震災を経験した官僚たちの思いだと、徳山さんは、本の執筆に関わった1人として振り返りました。

「特に行政の責任ある人は、絶対まさかって言っちゃだめなんです。
 自分が震災当時、できていたかと言われると、とても忸怩たる思いはありますが、想定も計画も、作るのは絶対大事だけれども、鵜呑みにはしない。
 それを臨機応変に運用できるっていうところまで達してないと、実際には使えないよっていうことが、最大のわれわれが言いたかったことです」

事前の備えを尽くした上で、想定を超える災害が起きたとき、その状況に応じて最善を尽くすこと。
東日本大震災で道路啓開を指揮し、“命の道”の確保にあたった徳山さんからのメッセージです。

2024年3月13日

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