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自然とみんなが集う森 くねくね道に秘密あり!

  • 2023年6月9日

みなさん、森にある「道」がどのように作られているか知っていますか?
ふだん何気なく歩いている道には、実はとっても奥深い世界が広がっていたんです。 今日ご紹介するのは、洞爺湖のほとりある一本の「くねくね道」。
道内から多くの人がこの道に引き寄せられています。
なぜ、くねくねになったのか? この道ができて、何が起きたのか?
熱い思いを込めて道を作った森のオーナーと道づくりの達人を取材しました。 

今日も風を味方に自転車に乗るこの人。森のローカルフレンズこと舛森拓郎(ますもり・たくろう)さんです。
札幌市内の薪ストーブ店に勤務しながら、アウトドア活動を通じて道内の森を隅々まで見てきました。

舛森さんが注目する森に連れてきてもらいました。着いたのは、洞爺湖……?

この湖のすぐそばで、森と人をつなげるユニークな取り組みをしている人がいるそうです。

町外から多くの人が遊びに来る森

洞爺湖町「トーヤの森」のオーナーである、渡辺大悟(わたなべ・だいご)さんです。渡辺さんの本業は、梱包会社を営む経営者。森のオーナーになった理由は、梱包に使う箱の多くが木でつくられているからだそう。

「木材をどんどん使って消費していく中で、社会的責任をないがしろに消費するんじゃなく、やっぱり森を木材を再生したい、と思うようになって」

渡辺さんは6年前にこの森を購入。洞爺湖のほとりに決めた理由は、ずばり抜群の景色に惹かれたから。そして今、渡辺さんの森には道内からたくさんの人が集まります。

この日は「森と街のがっこう」という研修に、道内から30人以上が訪れました。

「森と街のがっこう」とは、林業関係者に加えて、街に住む人にも森との接点を増やしてもらおうという取り組みです。渡辺さんはこの取り組みに賛同し、トーヤの森を会場として提供しています。

初めて森に入るという人たちは、ハイキングや薪割体験を楽しみ、林業を本格的に学びたい人たちは重機の使い方を習います。
めいめいの楽しみをしていますが、みんなが注目していたのはこのくねくね道でした。

見てください。右に左にうねっています。

道を歩くと、面白いくらい景色が変わっていきます。木漏れ日が美しい場所から、木々に囲まれた場所へと変わり、さらに見晴らしがよい場所へ。環境の変化に合わせて、鳥のさえずりが聞こえてきたり、風を感じたりと、五感で森を感じられます。

ただ道を歩くだけでなく、ダイナミックに変化する自然を堪能できる。だからこの道には、多くの人が集まっていたのです。

「くねくね道」の秘密とは

この道をつくったのは、フリーの木こり・足立成亮(あだち・しげあき)さん。

子どもの頃から森や自然で遊ぶことが大好きで、林業の世界へと入った足立さん。仕事を続ける中で、あるポリシーを持つようになります。それは「なるべく森の景色を変えないこと」。

「僕が作業した後にもちゃんと森が森のような様子であるというのがベースにあるんですよ。僕らが林業したり遊んだりした後、森がくたびれたり、壊れちゃったりというのはなしだなと。枝一本までとは言わないけれどもなるだけ残す努力をして、その中で最大限、木を収穫しようするというのがテーマというか、やり方です」

林業の世界では、効率を重視して、まっすぐな道を作ることがあります。そういった時には、多くの木が切られることになるそう。しかし足立さんは、森の景色はなるべく変えないほうがいいと考えているのです。

実際にその道づくりを見てみると、元気な木をできるだけ傷つけないよう、驚くほど注意深く道をつくっていきます。

この場面。写真に写る樹木が将来にわたって根を張れるようなコース取りをしていきます。そうして木を残していくと、道はまっすぐではなく、うねった形に。くねくね道は、足立さんの「森の姿を残す信念」から生まれたものだったのです。

さて、足立さんの道づくり。実は冬の間からはじまっていました。その理由は……

雪があって移動しやすいから。足立さんはゾンメルスキーというアザラシの皮を張ったスキー板で、雪に覆われた森をすいすいと進みます。夏は植物が生い茂って歩けない場所でも、冬の今なら入ることができるため、さまざまなルートを探っていけるのです。

途中途中、立ち止まり、生えている木の状態を確認していく足立さん。ルート上に元気な木があれば、別のコースに変えられないか考えます。

冬の間にルートを決め、切っても森に影響が少ないと判断した「弱った木」に、目印となる青いテープをつけておきます。

そして春になったら、このテープに沿って木を切り、道をつくっていくのです。

と……、冬の間に入念にルートを選定していた足立さんですが、森に入ると、また悩みだしました。
この道は、豊かな森を残す最善手なのか。訪れる人の五感を刺激し、喜ばすことができるのか。そんな風に考えながら、道を作っていくのです。

森のローカルフレンズ・舛森拓郎さんは、足立さんと「森と街のがっこう」の存在が、これからの北海道の森を考えるうえでとても重要だと感じています。

「足立さんのように、森の持続性を考えていて、なおかつ遊び心がある道をつけられる人間って、実はそんなにいなくて。すごく貴重な人物」。
「同じ想いを共有して、それが同じ場所でいろんな人たちが入り混じって活動しているのがたまらなく楽しい。これからも可能な限り、森づくりや道づくりの手伝いをしていきたいと思っています」

ここは森への入り口

想いのこもった道ができ、森にはたくさんの仲間たちが集まるようになりました。集まってくれた人たちの前で、トーヤの森のオーナー・渡辺大悟さんも嬉しそう。

「森に入りたい人、森に関わりたい人の入口になってくれたらいい」

その言葉通り、ペットを連れた方、家族とみんなで参加した方など、幅広い層の方がこの森に集まっています。
「くねくね道」を通じて、森に関わる人の輪が広がっていく光景を目の当たりにしました。

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