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未踏峰への挑戦~ディレクターのヒマラヤ日記②~

  • 2023年12月7日

女性はもっとしんどいんです!

ディレクターの小林です。前回の記事では、番組カメラマンが高所で撮影するしんどさを語ってくれました。すごく共感できる内容でした。ですが、ここはあえて主張させてください。 「女性はもっとしんどいんです!」と。「未踏峰への挑戦~野村良太のヒマラヤ日記~」NHKプラス配信中

【しんどかった① 髪の毛が洗えない】

今回の撮影に同行することが決まって私がいちばん最初にやったことは、髪の毛を30cm以上切り落とすことでした。髪の毛が洗えない日が続くことくらいは想像していたのです。

でも、そのつらさは想像をはるかに超えてきました。ベースキャンプまでのキャラバン中、日中は炎天下の中を歩き、かなりの汗をかきます。でも、夜になればダウンが必要なくらいに寒くなるため、水浴びはできません。

男性たちは、日中に立ち寄った村の水道などでささっと頭を洗っていましたが、30cmも切ったとはいえ、それでも髪の毛が長い私にはなかなかチャンスがないのです。

照りつける太陽の中を歩く

日中、照りつける太陽の他にもう一つ苦しんだのが、ロバの糞尿です。ロバは地元の人々にとって、日常的な荷物運搬のためのライフラインになっています。そのロバたちの糞が、道のあらゆる所に落ちています。そしてそれが炎天下の下でカラカラに乾き、砂ぼこりとなって私たちに降り注ぐんです。ロバ糞をたっぷりかぶった髪の毛は、次第に固まっていきます。降り注ぐ砂ぼこりはさらさらしているのに、髪の毛はベッタベタになっていきます。摩訶不思議な現象です。

荷物を運ぶロバ

ある日の夜、私はついにべたべたの髪の毛に耐えられなくなりました。宿泊した村の宿で、寒さに震えながら水で頭を洗ってしまったのです。

そして翌日、39度の熱が出ました。高所での発熱は、髪の毛が洗えないしんどさをはるかに超えてしんどいです。私は、立っていることすらできなくなりました。

こうして、同行していたネパール人スタッフからシャワー禁止令が出された私はその後、髪の毛を洗うことができなくなってしまったんです。絶望的・・・。髪の毛はベタベタを通り越すとつやつやになることを知りました。これまた、絶望的。

でも、大変なことやつらいことは、良いことが起こる前兆だといいます。そして、本当に良いことがありました。

久しぶりの洗髪、なかなか泡立たない

ベースキャンプから村に下りてきた日の洗髪です。ヒマラヤ山脈の絶景を背景に髪の毛を洗うなんてぜいたくです。銭湯に富士山を描きたくなった日本人の気持ちがちょっと分かる気がしました。

何日ぶりの洗髪だったかは秘密にしておきます。ただ、間違いなく人生でいちばん爽快な気分になった瞬間です!最高!

【しんどかった② トイレ問題】

これは本当に深刻でした。高度障害を防ぐためには、とにかく水をたくさん飲んで排出することが重要なんだそうです。キャラバン中は休憩のたびに、すこし無理をしてでも水分を飲むようにカメラマンの先輩たちに言われます。たくさん飲めば、当然たくさん出ます。

男性たちは「よき場所」と「よきタイミング」でできることが、私にはできません。ちょうどよさそうな木陰や岩陰が、斜面の少し上の方にあったりすると、そこをめがけて更にミニ登山をしなければいけないんです。休憩のたびに場所を探し、そこまで移動しなければならないのは、高所になればなるほど大変でした。

ベースキャンプについてからも問題は続きます。それは夜中のトイレ。ベースキャンプではトイレの場所を決めて(深く掘った穴を中心に目隠しのトイレテントを設置)、みんなが同じ場所を使います。ただ、男性は相変わらず小の方は「よき場所」でよいのです。ただ、わたしはここでもそういう訳にはいきません。自分のテントから少し歩かないとトイレにはたどりつけません。夜中にトイレまで移動するのは大仕事です。

ある晩のこと。寝ぼけ眼でトイレに向かいました。その日は、雪が降っていて視界が悪く、トイレから戻ろうとしたとき、どこが自分のテントか分からなくなってしまったんです。危うく遭難しかけてしまいました。まさに命がけのトイレ。

そんな命がけのトイレを私が決行しているとはおそらく知らないであろう男性たちが、「よき場所」で絶景を眺めながら用を足すその背中を見ながら、何度うらやましく思ったことか・・・。

だからこそ、雪の下で保存していたみんなの食糧(特に肉類は腐らないように雪の下に埋めていました)の上を「よき場所」と間違えて用を足してしまう男性が許しがたかったです(笑)

はるか彼方に見えるトイレテント

【しんどかった③ 体力】

登山隊と撮影隊

登山隊と撮影隊のメンバーは、私以外は屈強な男性たちです。登山隊はごはんをモリモリ食べ(毎食3人前くらい食べます、ホントです)、人並み外れた体力を持ち(高所の斜面を大声で歌いながら登って行きます、ホントです)、とんでもなく強いです。登山隊だけじゃありません。カメラマンだって、NHK撮影部内の「山岳班」から選ばれた百戦錬磨のベテランたちなのです。

拠点とするベースキャンプは標高4567m。そこまでは10日間、徒歩で山岳地帯を歩いて向かわなければなりません。

ベースキャンプ設営地(標高4567m)

しかし、白状します。私はハイキング程度の登山しか経験がありませんでした。ロケが決まったのは撮影の一ヶ月前。北海道の雪山で登山訓練をしたり、ランニングや筋トレを毎日したり、自分なりの努力はもちろんしましたが、十分な体力をつける時間はありませんでした。

でも、やると決めたからにはやるしかありません。ベースキャンプまでは特に難しい登山技術はいらないので、とにかく足を前に出し続ければいいと自分に言い聞かせました。ただ、やっぱりとてもしんどかった・・・。一歩の幅は他のみんなとそんなに変わらないはずなのに、気がつけば隊から遅れをとっていることも。

ふと、高校時代の持久走大会を思い出しました。一生懸命走り続けているはずなのに、気がつけば周りの人はみんな歩いていました。さぼって歩くビリの集団の中で私は必死に走り続けました。そんな姿を見ていた担任の先生が、「いちばん早く走った人もすごいけど、いちばん長く走り続けたおまえもえらかった」と声をかけてくれたことがありました。そう、昔から足が遅かったんです、私・・・。

結局、一緒に行ったメンバーの誰よりも長いこと歩き続けることになった私ですが、無事にベースキャンプにもたどりつき、そこからの下山の行程も乗り切ることができました。そんな体力で、仕事はちゃんとしてきたのか!?とお叱りの声が聞こえてきそうですが、ディレクターが最強だったら打ち明けてくれなかったかもしれない数々の話を、登山隊のみなさんから聞けたのは、私がちっぽけだったからかもしれません。

ちなみに、メンバーのほぼ全員が下山時に数キロずつ痩せていましたが、これだけ歩いたら少しは痩せたかな?とわくわくしていた私の体重は1グラムも変わりませんでした。屈強な男性陣につられて、いつもの数倍のごはんをモリモリ食べていたからに違いありません・・・。

絶品のネパール定食・ダルバート

女性なのに過酷なロケに行かされて・・・とよく言われます。もちろん男性の体力に及ばなかったり、苦労したりすることはたくさんありました。でも、ここまで書いてきて、私が思うのは、女性ならではのしんどさって実はこんなもんです。ロバ糞で髪の毛が固まろうが、トイレで遭難しかけようが(これは本当に気をつけます)、モリモリ食べて笑い飛ばせば、案外なんとかなっちゃうんです!

(札幌放送局ディレクター 小林美月)

未踏峰への挑戦~野村良太のヒマラヤ日記~
2023年12月18日(月)夜10:45~11:28<総合・全国>

【出演】野村良太、齊藤大乗、杉本龍郎、竹中雅幸
【語り】桐谷健太 【朗読】小林エレキ
NHKプラスで見逃し配信中 (配信期間:12/25(月)午後11:28まで)

▶未踏峰への挑戦~野村良太のヒマラヤ日記~特設サイト
(他のスペシャルコンテンツは上記サイトからご覧いただけます)

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