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新人機動救難士「100キロ行軍」に挑む!

  • 2023年10月12日

海難事故や災害発生時、ヘリコプターでいち早く現場に駆けつけて救助活動にあたるのが海上保安庁の「機動救難士」です。道内には函館と釧路に合わせて18人の機動救難士が配置されています。函館航空基地に所属する新人の機動救難士が「100キロ行軍」という過酷な訓練に挑みました。(函館放送局  吉本はづき)


きっかけは東日本大震災

第1管区海上保安本部・函館航空基地に所属する新人機動救難士の松下和生さん(27)。

松下さんは2016年に海上保安学校に入学し、2019年からおよそ4年間、釧路海上保安部に所属。潜水士として要救助者の救助や捜索活動にあたってきました。そして、ことし4月から函館航空基地に配属され、一人前の機動救難士になるための研修期間として厳しい訓練に取り組んでいます。

松下さんが「海上保安庁で人命救助がしたい」と強く志すきっかけになったのは、12年前の東日本大震災でした。津波で壊滅的な被害を受けた被災地で、隊員たちが懸命に救助にあたる姿に感銘を受けたといいます。

機動救難士  松下和生さん
「中学生の時に東日本大震災が発生しました。以前から海上保安庁は知っていたのですが、東日本大震災で実際に活躍する海上保安庁の潜水士や機動救難士の姿を見て、より一層なりたいという気持ちが強くなりました」


訓練の集大成  100キロ行軍

松下さんはこの半年間、研修期間として訓練を積んできましたが、一人前の機動救難士として認められるためにどうしても乗り越えねばならないのが「100キロ行軍」です。

「100キロ行軍」とは、道南の松前町から函館市にある函館航空基地までのおよそ100キロを24時間以内に自力で移動するもので、函館航空基地の伝統的な訓練です。

松下さんはこの過酷な訓練に臨むにあたり、高い目標を掲げていました。

機動救難士  松下和生さん  
「函館航空基地の新記録である14時間40分を塗り替えたいと思っています。普段の訓練でもプライベートでもランニングを実施してきていますので、記録更新が達成できるのではないかと思っています」

本番前日、100キロ行軍を経験した先輩たちからは…。

松下さんの先輩隊員
「過去に一気にタイムを塗り替えた隊員がいて、その記録を超えることを目標にすると言っているのですが、本当にいけるのかなぁ?と思っています」


持ち物はペットボトルと塩

「100キロ行軍」当日。天気はあいにくの雨です。

松下さんが手に持つのは、空のペットボトルと塩。この2つだけでゴールを目指します。

出発直前、この半年間お世話になった指導官からは、「最後まで諦めず、しっかり走り抜くように」と激励の言葉が送られました。

正午。指導官が見守る中、「100キロ行軍」が始まりました。

指導官「それでは100キロ行軍を開始する。よーい行け」
松下さん「行ってきます!」

スタートから2時間後、歴代最高記録を上回るペースで福島町の道の駅に到着しました。
水分と塩を補給し、再び走り出します。

松下さんは余裕の表情ですが、指導官は「まだ始まったばかりだからね」と声をかけます。


次第にペースが落ち始める…

スタートから5時間後。

雨がやんで、日差しが出てきた影響からか、残りおよそ60キロでペースが落ち始めました。

知内町の道の駅で空のペットボトルに水を補給します。どんなに苦しくても自分の力で水分を確保する。これも過酷な災害現場への出動に向けた、大切な訓練です。

スタートから6時間後、松下さんの体に異変が。
両足の太ももが痛み始め、歩道に座り込んでしまいました。

機動救難士  松下和生さん
「想像以上にきついです」

スタートからおよそ16時間後の午前4時、ついに函館市に入りましたが、
すでに目標タイムは過ぎていました。

松下さん「きついです」
指導官「そりゃそうよ、きつい訓練だから。だいぶ覇気がなってきたな。あと10キロ」
松下さん「行きます」

この状況に対し指導官は。

指導官
「過去の隊員もここで下向きながら弱音を吐きますね。それでも松下はゴールするまでしっかりやってくれると思います」


限界、その先へ

午前5時。
体が限界を迎えてきた松下さん。

しかし、機動救難士として多くの命を救いたいという強い思いをもつ松下さんは、苦しくてもあきらめません。

そして函館航空基地まで、残りわずか。
ゴールで松下さんを迎える先輩たちの声も響き、最後の力を振り絞ります。

ゴールをしたと思ったそのとき…。

指導官「縄跳び10回をするぞ!」

函館航空基地の「100キロ行軍」ではフィナーレに、なんと伝統的に縄跳びが行われてきたのです。 
そして午前7時45分。19時間45分でゴールしました。

機動救難士  松下和生さん
「みなさんのご支援のおかげで、無事に100キロを完走することができました。目標としていたタイムではないですが、無事完走できてよかったと思います」


一人前の機動救難士として

「100キロ行軍」を終えた5日後。
ついに一人前の機動救難士の証、オレンジ色の制服が手渡されました。

オレンジ服を受け取った松下さんは研修期間中にお世話になった航空基地の先輩たちに感謝の気持ちを伝えました。

機動救難士  松下和生さん
「函館航空基地をはじめ皆さんのおかげで、この日を迎えることが出来ました。今後、オレンジ服を着るという自覚を持ち、より一層精進していきます」

松下さんは今後、さらに大きな目標があります。
それは現在、全国にたった38人しかいない「特殊救難隊」と呼ばれる海難救助のスペシャリストになることです。

機動救難士  松下和生さん
「海上保安庁の特殊救難隊は、海難事故や災害など過酷な現場で、より高度な技術をもって人命救助に臨む特殊部隊でとても魅力を感じています。少しでも早く特殊救難隊になれるよう、さらに救助技術を高めていきたいと思います」

2023年10月12日

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