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八雲町事故から1か月 捜査と安全管理は

  • 2023年7月19日

北海道・八雲町の国道でトラックと都市間高速バスが正面衝突し、5人が死亡した事故から1か月。警察は事故の原因を特定するため捜査を進めています。一方で、トラックの運転手は事故前に会社に体調不良を訴えていましたが、対面での健康チェックは行われていませんでした。専門家が「ルールがないに等しい現状」と指摘する実態とは。浮かび上がった安全管理をめぐる制度の課題を追いました。(取材:NHK函館放送局・吉本はづき)


5人死亡事故  事前に体調不良訴え

6月18日、北海道・八雲町野田生の国道5号線で、トラックが対向車線にはみ出し、札幌から函館に向かっていた都市間高速バスと正面衝突しました。この事故で5人が死亡、12人が重軽傷のけがを負いました。トラックの走行車線にブレーキ痕はなく、十分な減速ができないまま対向車線のバスと衝突したとみられていて、警察は過失運転致死傷の疑いで捜査を進めています。

これまでの捜査で、事故の前にトラックの運転手が勤務先に体調不良を訴えていたことが分かっています。また、捜索で押収した運転手の体調管理の記録や、通話記録などをもとに、従業員らに運転手の当日の状況などについて、任意で事情を聴いているということです。取材に応じた捜査関係者のひとりは「多くの人命が犠牲になった例を見ない事故だ。事故の被害に遭った方やご遺族のためにも、あらゆる手を尽くして事故原因の特定を目指したい」と話す一方で、「双方の運転手が亡くなり事情を聞けないため、証拠の精査や情報の裏付けにはかなり慎重にならざるを得ない」と捜査の難しさを語りました。


「安全運転管理者」制度の存在

トラックを所有する会社では、運転業務に入る前に、①アルコール、②心拍数、③血圧、④体温の4つの項目について、運転手自身がセルフチェックで紙の用紙に記入するようになっていました。体調不良など運転業務に支障が出る場合は、複数人いる安全運転管理者に電話で連絡する仕組みになっていました。安全運転管理者は、いわゆる白色ナンバーの車を5台以上仕事で使うような事業者を対象に、道路交通法で選任義務が定められています。安全運転管理者は、運転手の体調に異常がないかや、酒気を帯びていないかなどを確認しなければなりません。


事故当日「安全運転管理者」は不在

トラックを所有する会社では、事故が起きた日曜日も含め、平日も安全運転管理者の立ち会いのもと、対面での体調確認は行っていませんでした。事故のあった日、会社は休日体制で運送業務を行っていて、安全運転管理者は事務所に出勤していませんでした。


安全運転管理者はどのような業務か

七飯町にある、ワインの製造や販売を行っている会社では、安全運転管理者の業務が大切な役割を担っています。この会社では、ワインの運送は別の会社に委託することもありますが、函館市内に届ける場合などは従業員みずから運転して届けています。商品の荷出しの前には、安全運転管理者が対面で体調チェックをしています。

安全運転管理者:「体調、大丈夫ですか?」
運転担当の従業員:「ばっちりです」
安全運転管理者:「きょうはどちらまで行きますか?」
運転担当の従業員:「市内の観光拠点に何か所か行ってきます」
安全運転管理者:「夕方まで雨が降るそうなので気をつけて行ってきてください」

一連の確認作業を徹底して行い、その日の天候に応じて運転時に注意すべきアドバイスをして、鍵を渡します。そのほかに酒気帯びの有無を調べる様子を画像で撮って記録しています。

「はこだてわいん」  大和田進吾 係長
「あらかじめ体調不良だったら休んでもらいますし、途中で悪くなった場合は、ほかの従業員に調整がきくかどうかを確認します。運送業務で想定されるトラブルは個人的な要因も大きいと思っているので、それを踏まえた安全意識を業務が始まる前にどこまで高められるか、心がけて仕事に取り組んでいます。お客様に商品を届けるので、喜んでもらえるような形で、しっかり安全運転で商品を届けていきたいと思っております」


制度の現状は?

安全な運送業務を行うために、安全運転管理者が重要な役割を果たしている一方、制度を運用するには厳しい現実も見えてきました。運送業界の働き方に詳しい「運輸・物流研究室」の小野秀昭さんは、次のように指摘しています。

「運輸・物流研究室」  小野秀昭さん
「自家用車の場合、体調管理はセルフチェックでも構わないとは条文のどこにも書いていないし、そういった解釈が通用すると現場の安全管理に支障が出かねない。しかし、安全運転管理者が毎日のように早朝から夜遅くまで対応を迫られるのは、会社にとって人員の確保が難しく、コスト面からも余裕がない。営業用トラックと異なり、違反を指摘されたとしても罰則はないので、ルールがないに等しい現状とも言える」

取材を進めると、「この制度自体知らない」といった事業所が複数あり、安全運転管理者制度が知られておらず、適切に運用されているとは言いがたい現状が分かってきました。事故をめぐって、会社側の安全管理に問題がなかったか注目が集まる中、今後こうした悲惨な事故の再発を防ぐため、制度の有効性も問われていると思います。


事故から1か月たった現場は

事故から1か月が経過した7月18日の現場近くには、八雲町の岩村克詔町長など、住民およそ60人が集まり、交通安全を願って道行く車に旗を振りました。国による再発防止策も進む中、岩村町長に今回の事故の受け止めを聞きました。

八雲町  岩村克詔 町長
「センターポールを入れていくことも事故を無くすための1つの方法だと思いますので、これからも要望活動を続けていきたいと思います。この事故を決して忘れてはいけないという思いで、今後も交通安全の啓発に取り組む予定です」

現場には1か月たった今でも、花や飲み物が供えられています。この場所で尊い命が失われたことを忘れることなく、地域住民の安全を守るために事故の再発防止や安全運転についての啓発活動など、さらなる取り組みが求められていると感じました。

八雲町の国道5号線は過去に事故が頻発していることから、10年前に今回の事故現場を含む全長およそ14キロを事故危険区間に指定していました。事故を受けて今月、国道5号線を管理する北海道開発局函館開発建設部が、事故現場を含む500メートルのセンターラインにランブルストリップスの設置工事を行いました。ランブルストリップスは、道路に連続して溝を設けることで音と振動でドライバーに注意を促すものです。北海道開発局によりますと、道内でランブルストリップスを設置した区間では、正面衝突の事故件数を77%減らすことができたということです。今月24日から6日間、さらに5.5キロ、ランブルストリップスの設置工事が行われる予定で、完了すれば事故危険区間のすべてで安全対策措置がとられることになるということです。


取材後記

札幌出身の私は以前、今回と同じルートを走行する高速バスを利用したことがあり、事故の一報を聞いたときは他人事とは思えませんでした。大破した車両を見たときは胸が強く締め付けられるような思いでした。取材で事故現場を訪れるたび、「もし自分や家族が乗っていたら」ということが常に頭に浮かんできます。交通事故は誰もが当事者になり得る出来事だと思います。安全管理についての取材を進めると、法律で定められている義務が必ずしも適切に守られていない実態も見えてきました。今回の事故を教訓に、二度とこのような悲惨な事故を起こさないための取り組みが求められていると思います。

2023年7月19日


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