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Do! | #16 Yamanaka Chisato

  • 2022年11月1日

第16回に登場するのは、旭川放送局の山中智里記者。大学時代に経験した胆振東部地震をきっかけに災害報道に関心を持ち、NHKの地域職員に。日々の取材の裏側とふるさと・北海道に対する想いを聞きました。

〔Photo By 今井 純一〕
〔聞き手 富浦 麻穂・呉藤 美由梨(NHK札幌放送局 広報)〕

山中 智里 -Yamanaka Chisato-
2022年、地域職員としてNHKに入局。経済学部経済学科卒。北海道岩見沢市出身。旭川放送局放送部で記者を担当。趣味はサイクリング。

<目次>
1.胆振東部地震をきっかけに記者の道へ
2.常に考え続ける記者でありたい

1.胆振東部地震をきっかけに記者の道へ

――普段はどんな業務を担当しているんですか?

警察担当なので、交通事故や詐欺などの取材を行っています。あと日々のニュースの取材業務があるのですが、私は上川北部のエリアを担当しているので、その地域を取材することもあります。
他にはスポーツも担当しているので、元プロ野球選手で独立リーグの監督に就任したブライアントさんに会いに士別まで行ったりもしました。

■ラルフ・ブライアントさん 北海道で野球監督に初挑戦!

――警察からスポーツまで! 幅広いですね。

札幌局のような大きい局だとそれぞれの記者の専門分野が決まっていますが、旭川局の場合は様々な分野を担当することが多いです。それは地方局だからこそできる経験かなと思います。

――これまで担当した取材の中で、印象に残っている取材はありますか?

2022年6月29日に旭川市を流れるペーパン川が氾濫して、その取材を担当したのが印象に残っています。川の近くにある家や農地が浸水してしまい、3日間現場で被災者の方へインタビューを行いました。
農家にとって農地は命のように大事な存在で、それが浸水被害でダメになってしまって……インタビューを受けてくださった農家の方はすごく苦しそうな顔をされていました。そんな状況でずっとマイクを向け続けるのは辛かったですが、被災者の方は大変な中でも取材を受けてくださっているので、少しでも現状を伝えることで力になれたらと思って取材にあたりました。

   

――困難な状況にある人を取材する時に、記者として心がけていることはありますか?

災害の現場取材の担当は、ペーパン川の氾濫が初めてでした。今回、被害が出てしまった農地は農家の方の敷地なので、許可を得て取材させていただきました。被害が出ている現場だからと言って、ずかずか入り込んで良い場所じゃない。これからも「自分だったら何が嫌だろう」「この人は何を大切にしているんだろう」と考えながら、常に相手の立場に立ち続けることを大切にしていきたいと思っています。

――そうした災害の現場におけるテレビの役割、映像で伝えていくことの意味というのはどう感じますか。

ペーパン川の氾濫もそうですが、言葉にするだけではなかなか伝わらないなと感じます。今回の場合はビニールハウス9棟が被害を受けたのですが、文字だけ見ると「なんだ、たった9棟なのか」と思われてしまうかもしれません。でも、テレビでは、実際に農家さんが育ててきた花が倒れている様子や、被災者の方の表情を映像で届けることで、被害の実態を伝えられる。そういうところに映像の力があるのかなと思います。

――大変な取材も多いと思いますが、記者を志望したきっかけは何だったんですか?

学生時代から災害報道をやりたくて、それで記者になろうと思ったんです。「北海道の人を守りたい」という気持ちが根幹にあって、そのために自分に何ができるのだろうと思った時に、災害報道に携わることで一人でも多くの命が救えるんじゃないかなと。

――すごいですね。そもそも「北海道の人を守りたい」と思うようになったのはなぜですか?

2018年9月に起きた胆振東部地震がきっかけです。当時私は名古屋の大学に通っていて、地震が発生した時は部活の大会で埼玉に行っていました。北海道は私のふるさとで、家族も友人も北海道に住んでいて、そうした災害が起きた時に距離が離れていると自分にできることは本当に少ないなと感じました。
私の大切な家族や友人にもそれぞれ大切な人がいて、そういう繋がりを考えると、北海道の人みんながある意味私にとって大切な人なんです。だから災害の取材を通じて北海道の人たちの命を守りたいと思いました。

――災害取材と言ってもテレビや新聞など色々ありますが、NHKを選んだ理由は何だったんでしょう?

私も含め友人も災害が起きた時はNHKをつける人が多くて、NHKは災害報道に強いという印象がありました。いち早く速報を出したり、番組の編成を変えて特集番組を組んだりできるのも魅力に感じましたし、日々のニュースでも災害報道に力を入れていて、視聴率にとらわれずに命を守る報道ができるというのはすてきだなと思ってNHKを選びました。

――では、就職活動の時は記者一本で?

記者以外にも、北海道に根ざした企業をいくつか受けました。ただやはり根幹にあるのは「北海道の人を守りたい」という気持ちだったので、NHKの地域職員が第一志望でした。

――地域職員は記者以外にも幅広い仕事を経験する可能性がありますが、そこについてはどう捉えていますか?

色々な仕事ができるというのは、その分色々な人と関わる機会が多いということなのかなと思っています。私は北海道が大好きなので、仕事を通じて北海道のたくさんの人と出会うことができたら良いなと思います。
もちろん災害報道がしたいという思いは一番にありますが、今後営業やディレクターなど違う仕事を担当する時に、記者時代に関われなかった人と関わることができるかもしれないと思うとすごく嬉しいです。
「北海道の人を守る」という観点では、例えば災害報道の経験を生かした関連イベントを企画することなども意味があるのではと考えています。

――実際に働いてみて、学生時代に思い描いていた記者のイメージと違う部分はありましたか?

記者志望だったものの、実は学生時代は記者の仕事に対してマイナスのイメージしかなかったんです(笑)。「一日中働いているんだろうな」「寝る暇はあるのかな」「自分の好きなことはできないんじゃないかな」って。
でも入局してみたら休む時間は十分とれますし、上司も優しくて、疲れている時や業務が落ち着いている時は早く帰るように声をかけてくれます。「自分のやりたい取材があればどんどん取材してきて」と言ってくれて、こんなに自由にやらせてもらえるんだと感動しました。

――関心のある取材が自由にできるというのは良いですね。

私が初めて担当したリポート企画が、歌手のヒャダインさんが旭川市内の高校のために制作した応援歌の取材だったんです。もともとその高校の理事長がヒャダインさんと“サウナ―”どうしだったことから応援歌の制作が実現しました。放送が終わった後、理事長のもとにたくさんの反響が寄せられて、とても喜んでくれたのが嬉しかったです。5分間の放送を出すために何日もかけて取材をして、大変なこともありましたが、理事長の笑顔を見た時にリポートできて良かったなと思いました。
入局する前はNHKは固いイメージがあったのですが、真面目な報道だけでなくそうした少し砕けたテーマの取材もできるというのは意外でした。真面目さと面白さと、どちらも持っているのはNHKの強みだと思います。

■サウナーどうし意気投合 ヒャダインさん 旭川の高校の応援歌を制作

――取材の幅が広いのはNHKの特徴の一つかもしれませんね。山中さんはもともとジャーナリズムやメディアに関する勉強をしていたんですか?

全くしていないです(笑)。大学は経済学部で、日本経済史の勉強をしていました。簡単に言うと日本史の経済版ですね。経済の歴史をみんなで考えるというゼミでした。

――そうだったんですね。大学時代特に力を入れたことは何ですか?

部活です。ボート部のマネージャーをしていました。

――なぜボート部に?

体験会でボートに乗せてもらう機会があったんですけど、すごく気持ちよくて、楽しそうだなと思ったのが理由の一つです。それからボートには「エイト」という8人で漕ぐ種目があって、ゴールするのにだいたい6分くらいかかるんですが、その漕艇を見せてもらった時に「6分間に4年間をかけてみないか」と言われて。

――めちゃくちゃかっこいいですね!

かっこいいですよね(笑)。私も6分間に4年間をかけてみたいと思って、それで入部しました。

――ボート部って結構きついイメージがありますが、実際どうなんでしょう?

体力はかなり使います。昼間は暑すぎて練習できないので、朝4時半に集合して練習するんですよ。艇庫でみんなでご飯を食べたり寝泊りしたり、共同生活を送っていました。

――4時半……⁈ 合宿みたいですね。

そうですね。朝4時半に練習してから大学の授業に出て、また帰ってきて夕方から練習するという感じです。大変でしたが、すごく楽しかったです。

――そういう学生時代の経験って、社会人になってから活きているなと感じることはありますか?

マネージャーの仕事の中に、会計としてOBから資金を集めるという仕事があったんですが、歴史ある部活なので一番上のOBだと90代の人もいるんです。幅広い世代の人と話すことができたのは、私にとって財産になっています。相手の年代によって話し方とか話すネタとかが少し変わる部分もありますし、そうした学生時代の経験が記者として取材をする時にも活きているのかなと思います。

――今の仕事に通ずるものがありますね。逆に、大学生から社会人になった時の大変さはありましたか?

大学時代は何をするにしてもあまり制約がないというか、時間の使い方が自由でしたが、社会人はやはり時間の制約があるなと感じます。
あとは責任の重さが全然違いますね。NHK職員として見られることを意識するようになりましたし、取材でも内容に間違いがあったら大変なので何十回も確認したりします。そういう意味では大変な仕事ですが、私は人と喋ることが大好きなので、記者になって今までだったら会えないような人と会えるようになったのはとても楽しいし、面白いなと思います。

2.常に考え続ける記者でありたい

――今年の夏に担当された参議院選挙の取材についても伺いたいと思います。旭川大学の学生と座談会を行ったと伺いましたが、これはどんな座談会だったんですか?

NHK北海道の若手職員が協力し、10代・20代の政治参加について様々な観点から発信する「#投票率考えてみた」という取り組みの一環で行ったものです。今回は旭川大学の経済学部の皆さんにご協力頂いて、参議院選挙の公示前日の2022年6月21日に座談会を開催しました。「なぜ若者たちは投票に行かないのか」というテーマで議論してもらったところ、「親世代が選挙に行かないのでその影響ではないか」とか「若い世代はある程度現状の社会に満足しているから」といった様々な意見が出ました。

■なぜ若者たちは投票に行かないの?投票率を上げるには?~座談会で旭川大学の学生に聞いてみました~

――座談会のWEB記事を読むと、本当にどの学生さんも深くまで考えているなと感じました。

すごいですよね。私も当初はそこまで意見が出るとは思わなかったのですが、バンバン意見を出してくれて。とても熱い議論になりました。

――学生の皆さんの意見を聞いて、いかがでしたか?

特に共感したのが、学校の教育が足りないのではないかという意見です。学校では「選挙に行った方が良い」と言われるけれど、それだけじゃ選挙の時にどう考えて判断したら良いかわからないという声が多く上がりました。

――確かに海外と比べると、日本ではまだ主権者教育はあまり広まっていない印象があります。

ただ政治の仕組みを勉強するだけでは、固い内容が多いし興味を持ちにくいですよね。実際に教育現場で選挙を扱うのは難しい部分もあるかもしれませんが、教育という側面から若い世代の政治への関心や投票率が変わっていくこともあるのではと感じました。

――山中さん自身は学生時代、政治に関心はありましたか?

投票には行っていて、候補者のことを調べたりもしていましたが、「どうして若者の投票率が低いのか」なんて考えたこともありませんでした。そこまで考えている学生の皆さんは本当にすごいなと思います。

――今回の選挙では、大学で期日前投票も行ったそうですね。

大学内には期日前投票所が開設されるので、2021年9月の旭川市長選挙と2021年10月の衆議院選挙の時も学生たちが期日前投票所の運営をしたのですが、その時は投票者数が合わせて26名と少なくて……。それで学生の皆さんも悔しい気持ちがあって、今年は不安だったんじゃないかなと思います。少しそわそわしていたように見えました。

――最終的には昨年の倍近く、50名の人が投票してくれたということですが、その結果についてはどう思いますか?

座談会が終わってからも、選挙までの間、投票率が上がるためにはどうすれば良いか、学生どうしで意見を出し合ったり、色々調べたりしていました。そうした取り組みによる効果があったのではと思います。

■“選挙に関心持って”PRで学生の投票数は増えた?

――今回の旭川大学の取り組みについてはWEB記事でまとめていますが、放送で出すのとWEBで出すのとで何か違いはあるのでしょうか。

座談会では二時間以上かけて学生の皆さんと対話をしたのですが、文字数に制約のないWEBだからこそ、その熱量を伝えられたと思っています。放送を軸にしつつ、今後も放送を補完する形でWEBでの発信も大切にしたいと考えています。

――それぞれの良さを活かした発信ができると良いですね。今後取材してみたいテーマなどはありますか?

採用面接の時から言っていることなのですが、雪の事故に関する取材をしてみたいと思っています。北海道では落雪や除雪機に巻き込まれて怪我をしたりする事故が多くて、私の知り合いでも亡くなってしまった方がいるので、雪の怖さを知らない人に伝えていきたいです。

――雪国ならではの課題ですよね。最後に、記者として今後の目標があれば教えてください。

常に考え続けられる記者になりたいです。私は途中で「まぁいいか」と考えることをやめてしまう時があるんですが、先輩たちを見ていると、扱う課題や取材対象者について、本当に最後の最後までずっと考え続けていて、それは取材をする上でとても大切なことだなと学びました。
将来的にそんな記者になれたら、もっと北海道の人たちを助けられるチャンスが生まれるのかなと思います。

<編集後記>
「夢は北海道のヒーローになることなんです」。
インタビューの中で笑顔でそう話してくれた山中記者。語られた言葉の端々から「北海道の人たちを守りたい」という強い想いを感じました。
自然の美しさ、食べ物のおいしさ、そして何より人の温かさ。大学時代に一度地元を離れたからこそ、改めて北海道の魅力に気づき、「帰らないのはもったいない!」と就職するタイミングで北海道に戻る選択をしたと言います。
胆振東部地震をきっかけに記者を志し、NHKに入局して四カ月。「いつか北海道の人にとって、この人がいたから助かったと思ってもらえるような、そんな記者になりたい」。そう語る山中記者の今後の発信に注目して頂ければと思います。

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