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新幹線輸送のいま 函館の魚を東京へ

  • 2024年3月25日

北海道と本州の玄関口とされ、かつては新幹線開業に沸いた函館。今では乗客と一緒に魚介類が運ばれています。函館近海で水揚げされた魚の行き先は「新函館北斗駅」で、青函トンネルを越えて目指すのは東京。函館の新鮮な魚介類がその日のうちに東京のシェフのもとに届くという付加価値がつき、その「おいしさ」も評価され始めています。他方、物流業界でトラックの運転手不足など「2024年問題」が懸念される中、「新幹線輸送」が活用される場が広がっています。
物流と水産業の両方で新たな可能性が広がるのでしょうか。 

信じられない速さ

<午前5時30分>
朝日がのぼる前の函館市水産物地方卸売市場。この日、水揚げの量は多くなかったものの、ヒラメやマグロ、マスやカニなど水揚げされたばかりのさまざまな魚介類が並べられています。

早朝から足を運んでいるのは、函館市の水産会社の社長、川村淳也さん。魚の目利きのプロです。客とメッセージで連絡を取り合いながら新鮮な魚介類に目を光らせます。

「やっぱりいい魚を見るとうれしくなる。これを東京のお客さんが食べてくれるのはうれしいじゃないですか」とこぼす川村さん。生きのいい魚やカニを見ては、満面の笑みを見せます。

<午前6時30分>
市場でこの日仕入れたのは、サクラマスやキンキ、ヒラメ、カニやホッキ貝などです。

会社の工場に運び、新鮮さを保てるよう丁寧にこん包します。午前7時30分にはトラックに11箱を乗せ、新函館北斗駅を目指します。次に乗せるのは、新幹線のE5系「はやぶさ」です。ホームに入ってくる列車を待ち構え、ドアが開いたらすぐに荷物を積み込みます。積み込む場所は乗客が座る車両とは別の「車内販売準備室」です。

<午前9時35分>
そして目指すのは、東京駅。
新幹線は定刻通りに出発しました。

<午後2時30分>

途中、強風の影響で徐行運転となったため20分ほど遅れたものの、無事に東京駅に到着。
乗客が全員降りるのを待って、新幹線から荷物を取り出します。
ここから最終目的地の渋谷区にあるフランス料理店を目指します。

<午後4時20分>
けさとれた魚介類、夕方には無事に店に届けられシェフの手に渡りました。
箱から取り出されたカニはまだ動いていました。

シンシア 石井真介シェフ
「いつも鮮度は抜群でいま特に使っているのはホッキ貝です。賞味期限が本当に短いウニも届いた日にそのまま使えるのはすごく便利です。旬のサクラマスも今期初めて頼んでみましたがおいしそうですね」

この日届いたのは、サクラマスとキンキ、ウニとカニ、白子、そしてホッキ貝とツブ貝。
以前は北海道から航空便を使い中1日かかっていましたが、新幹線輸送を活用する今では新鮮なまま調理ができ、その日のうちに提供できるようになりました。

ウニやカニ、ホッキガイなど定番の食材になっているものもあります。

シェフの石井さんは、いいものを高く買って付加価値を付けて客に提供することが料理人としての仕事でもあると話しています。また、地方に行く良さもありますが東京では各地の食を楽しめる良さがあり、海外の旅行客にも日本の魅力を伝えられると考えています。

シンシア 石井真介シェフ
「朝に水揚げされた物が夕方に届くのは画期的で、正直信じられない。今の時代だからこその流通の仕組みなのかなと感じます。北海道は新幹線でつながっているとはいえ、すごく遠いイメージがありました。生ものの魚介類は個体差があるなかで、北海道の魚介類がその日のうちに使えるというのは、品質にぶれがなくなり料理人にとってもリスクが減って安心できます。すごく使いやすいです」

よりよいものをより早く

川村さんは函館から東京に向けて、トラック輸送や航空便を活用してきました。この会社の場合、トラック輸送では津軽海峡をフェリーで渡り東京に届くのは2日後。このほか、函館市水産物地方卸売市場から東京の豊洲市場まで直行のトラックもあるそうですが、それでも届くのは翌日の未明。消費者の口に入るのも翌日になってしまいます。
このほか、函館空港から飛行機で輸送した場合でも、東京に届くのは翌日だと言います。

以前から道内よりも首都圏との引き合いが多かった川村さん。「質が高い魚介類をよりよい状態で届けるにはどうすればいいか」悩んでいました。そうした中、話があったのが新幹線輸送の取り組みでした。新型コロナの感染拡大で行動制限が求められ、新幹線の乗客が大きく減少。こうしたなか少しでも収入や利用増につなげようと、北海道新幹線では2021年に実証実験が始まりました。

川村さんはこの時から新幹線輸送に注目。「朝どれの魚をその日のうちに東京で食べられる」という付加価値がつけられるとして活用を継続していて、店や市場が休みの水曜日と日曜日以外は毎日欠かさず、新幹線で東京へ魚介類を輸送しています。


速さと安定性で優位 量や場所に課題も

JR東日本によりますと、本格的に輸送を始めた2021年と比べて、去年の1日あたりの輸送数は2倍近くまで増加。直近では3月にJR東海と連携し、上越新幹線で新潟駅から東京駅へ輸送し、東海道新幹線に乗せかえて名古屋駅まで輸送するトライアルも実施するなどエリアも拡大しています。また、利用する業種も増え、駅弁や鮮魚、青果のほか、精密機器の部品や検体など幅広い荷物を運んでいます。

新幹線輸送のメリットはまず「速さ」。そして、「定時性」です。
さらに「安定性」もあげられます。ほかの輸送手段と比べて悪天候の場合でも運行される割合が高く、雪や強風に悩まされる北海道にとってもより安定して荷物を輸送できます。
トラックなどと比べ二酸化炭素の排出量が少ないため、環境にやさしいとして利用する企業もあるそうです。

このほか、トラック輸送の場合に行きの便は満杯でも、届けた後の帰りは荷物をほとんど載せていない場合があります。新幹線はそもそも乗客の利用が前提のため、こうした点を気にしなくてよいことについてもJRの担当者はメリットとして挙げています。

一方、課題もあります。
ひとつは「輸送量」です。
例えば北海道新幹線のE5系のはやぶさで1回に運べるのは、3辺の合計が120cm以内の大きさのもので約40箱です。荷物を積み込む場所は、ワゴンなどを準備するスペース「車内販売準備室」で、温度は室温のため保冷剤を入れるなどの対応が必要です。
こうしたなか、ミニ新幹線といわれる秋田新幹線と山形新幹線はこの準備室が小さいため、積み込み切れない場合に客席に荷物を置いて運ぶこともあるそうです。

もう1つの課題は「場所」です。
荷物の出し入れができるのは、基本的に列車が停止する時間が長い始発と終点駅です。停車時間が短い途中駅では、積み込みや積み降ろしが難しいためです。
こうしたなか、列車の通過待ちを利用したり、荷物輸送のために新幹線を数分間停車させたりとさまざまな工夫を実施。数百箱単位での輸送トライアルも実施していて、多量輸送の事業化を目指しています。

一方で、ドライバー不足などが懸念されている物流の「2024年問題」についてはどう捉えているのでしょうか。
新幹線が完全にトラック輸送に成り代わることは難しく、輸送の一部をトラックから鉄道に切り替える「モーダルシフト」が現実的だとしています。

JR東日本マーケティング本部 堤口貴子 マネージャー
「それぞれの強みを生かした形で、長距離の部分は新幹線がやるけれども、ファーストマイルとラストマイルはトラック輸送で担うことができればいいのではないかと考えています。鉄道を使った荷物輸送はそれなりの本数があり、少量でも輸送できる。需要にあわせて鉄道に割り振ってもらうことで、ドライバー不足という課題解決に貢献できるのではないでしょうか。
 またお客様からすれば北海道や西日本、東海などというのは関係なく、鉄道でどこまで運べるか、ということになるので、JR各社と連携しながらニーズに応えた輸送を展開していきたい」

本当においしい魚で函館に未来を

海水温の上昇などの影響で水揚げされる魚種が大きく変わっている函館にとって、新幹線によるスピーディーな輸送は水産物の振興にもつながると期待されています。
日々、鮮魚を東京に新幹線で輸送している川村さんによりますと、東京からの引き合いは増加。去年11月には規模を拡大し設備も新調した新たな工場が完成し、稼働しています。

また、この会社の取引先は高級レストランやホテルが中心となっています。高品質であるにも関わらず函館や道内ではあまり消費されない魚を日々求めて、引き合いがあるそうです。さらに、本州などで本来とれる時期、例えば函館近海では冬ではなく秋にとれる魚種があるなど、東京の料理人から注目されるとともに、函館近海の魚介類の評価も高まっていると感じています。

マルヒラ川村水産 川村淳也 社長
「例えば10キロの大きなブリは函館ではなかなか消費されないけれど、東京など大都市からは引き合いがよくあります。北海道の函館で朝とれた魚を皆さんに提案して、高品質な物を出荷して評価してもらっての繰り返しです。
シェフの人たちもきちんと評価してくれるので、そういったことが函館の観光振興、そして未来につながっていくのではないでしょうか。
これからも函館の本当においしいものを食べて喜んでほしい。そして新鮮な魚で函館とほかの地域をつないで、それを食べた人が直接、函館に来てくれるとうれしいと思っています」

2024年3月25日

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