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67歳の新人漫画家・ハン角斉とは…?!

  • 2023年7月3日

去年、単行本デビューを果たした67歳の漫画家が、十勝の幕別町にいます。その名も、「ハン角斉(はんかくさい)」。本の帯で「プロ漫画家たちも称賛する圧倒的な原石!」と紹介された漫画家は、いったいどんな人物なのだろうかと思い、訪ねました。(札幌局 飯嶋千尋)


「ハン角斉」の描く漫画とは

漫画家・ハン角斉さん、67歳。去年、異例の単行本デビューを果たしました。収録された作品のうちの1つは、新人賞に応募した際、編集長から評価されて金一封を獲得したものです。編集長の目にとまったのは、『古くさい』とも評された、独特の画風でした。

いまは9割の漫画家が、デジタルを駆使して漫画を描いているといわれる時代となっていますが、ハンさんが描く漫画は、空一面に広がった星空や、山の木々も、すべて手描き。
ストーリーは、社会の不条理を題材に取り上げ、葛藤を抱えた人たちの心情を丁寧に描き、多くの共感を得ました。30ページほどの短編でも、描ききるのに3か月はかかるといいます。

ハン角斉さん
「一生懸命描いていると、恩恵がさずかるというか、創作できるようになるんです。だから、省略したらだめだなって感じはしますね。
人はそれぞれオリジナリティがあるんだと思うんです。コップ1つを見てもみんなそれぞれ考え方が違うんですよ、1000人いたら1000通りの見方がある。それを描けばいいと思っているので、そこに先入観を持たないで、やればいい。そうして今まで見たことないものを描けるオリジナリティが自分の漫画の強みじゃないかと思って描いてますね。だから、どんなに描き方を練習していても、人に似てるなと思ったらもう変えますね、描くのやめますね」


苦節20年、やっとのデビュー

日中は、幕別町で整骨院を営んでいるハンさん。

幼いころから絵を描くのが得意で、小学生の時に漫画家を目指しました。しかし、年齢を重ねるうちに才能に限界を感じて、高校生で断念。その後は柔道整復師の資格をとり、漫画の道からは遠ざかっていました。

漫画を再び描き始めたのは45歳の時。それから20年間、整骨院の仕事のかたわら、出版社の新人賞に作品を送り続けましたが、返ってくる評価は低く、相手にされない日々が続きました。

ハン角斉さん
「子どものころは、漫画家を目指していたと言っても、絵も描けないし、ストーリーもほとんど考えないタイプだったんです。だから、だめだなって自然消滅しましたね。
その後、45歳のころに再開した時は、手順をちゃんと踏んで、今までやったことないけれど、下書きからネーム作りからアイデア出しから、最後までちょっとやってみようっていうのでやってみたのがこの1作目、タイトルは『一期一会』というのを描いてみたんです。これを出版社に送ったんだけど、もう47歳ぐらいの年で送ったって、相手にされませんでしたね」


転機は“開き直って”描いた作品

それでも諦めずに漫画を描き続けたハンさん。整骨院から帰宅した午後8時過ぎから、机に向かいました。熱中して明け方になっていることが、今でもよくあるといいます。

アトリエに取材に訪れたこの日も、漫画への思いで話が尽きないハンさんでしたが、いざ漫画を描き始めると、私たちの存在も気にならないほど一気に集中モードとなり、声をかけても気がつかないほどでした。

漫画を描いていく上で転機となったのは、この『眠りに就く時…』が完成した2019年です。ある施設に収容された、モテない男性が脱走し、女性と結ばれるストーリー。実は高齢者施設で暮らす男性が、死ぬ間際に見た幸せな夢だったという物語です。なかなか評価を得られない日々が長く続いていた中、人の評価は気にせず、「自分を信じて描けばいい」と開き直って描いた作品でした。

ハン角斉さん
「所詮初めからダメな世界ですからね、45歳でさえも、もう相手にされない、ダメですからね、60歳をこえたらなおさら相手にされない。だから真剣こかなくても、開き直って冷静に描けることができたっていうのがありましたね。面白いのが描けさえすれば何とかなるんじゃないかって思って描いたんですよ。この作品ができあがった時に、『あれ、これいけるんじゃないか?』と思ったんです。逆に、これでだめだったらやり方を考えなければいけないなとも思いました。そうしたら、プロの漫画家の方に評価してもらえる初めての作品となったので、自分の評価は間違ってなかったなって思いましたね」


漫画家・ハン角斉が描きたいものとは

67歳にして、漫画家になる夢を果たしたハンさんが、描きたかったもの。それは、『救いがあること』。救いがない作品は、そもそも描きたいと思わないと語ります。

ハン角斉さん
「救い、夢、希望とか、ちゃんと最後に回答があった上で作品を描きたいっていうのはあるんです、ただ問題提起するだけじゃなくてね。そういう良さかな。
だから自分で何を描きたいんだっていわれても、具体的にはっきりとは答えられないんです、残念ながら。なにか人間模様を描きたいんだとしか言えない。魔が差す瞬間だとか、悔い改める瞬間だとか、成長するとかがあって、何か変わってくれるんじゃないかという人間の二面性を、人の関わりを通じて描きたい。『西遊記』や『宇宙戦艦ヤマト』みたいに、みんなでどこかに行って、成長して帰ってくるっていうのは好きですね。まだ見てないですけど、『スラムダンク』のように仲間で何かを成し遂げるというのも好きですよ」

描いているときは本当につらく、しんどいけれど、漫画を描くのは楽しいと語るハンさんに、60歳を過ぎても夢を諦めなかった理由について最後に聞いたところ、笑って答えてくれました。

ハン角斉さん
「諦めない理由は、やっぱ好きでいることですかね、やっぱりね。嫌ならやめればいいのに、午後8時から夜中の3時とか4時まで、どこにこれだけやる人間いるんだろうって思いますけど、端から見たら、それだけやりたいことがある人間って羨ましいぞって思っちゃうんです。もう疲れてて眠い、でも自分にそこまでやりたいことがあるんだなぁって思ったら、それだけでいいんじゃないかなと思いますね。そういう面では恵まれてるなと思います。
自画自賛になっちゃうかもしれないけれど言うんですが、成長っていうものが必ずあるから、自分の成長を客観視して見ていくっていうのが、いいんじゃないかな。野球のダルビッシュ選手や大谷選手も、もうすでにあんなにすごいのに、さらに上を目指してやってますし。未熟なままで死んでいくのが、人間じゃないかって。成長を目指してチャレンジできるのが、自分にとっては漫画家だったんだと思っています」

2023年7月3日

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