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「コロナを乗り越え舞台が再開」

  • 2023年6月1日

3年ぶりに札幌での公演が始まった、ミュージカル「リトルマーメイド」。前回の札幌公演では、新型コロナウイルスの感染拡大によって、公演途中で中止となりました。悔しい思いを胸に今回の公演に臨んだ、札幌出身の俳優の思いを取材しました。(札幌局・飯嶋千尋)

コロナで中断した舞台が再開

地上の世界にあこがれる人魚姫が人間の王子に恋をし、さまざまな決断をしながら夢をかなえていく姿を描いた「リトルマーメイド」。人魚姫の「アリエル」がすむ海の世界が、色鮮やかに表現されています。5月28日から公演が始まりました。

この「リトルマーメイド」は、札幌市中央区に設けられていた「北海道四季劇場」の最後の公演として2018年から上演されていました。しかし、千秋楽が目前に迫った2020年2月、新型コロナウイルスの感染拡大によって公演は中止を余儀なくされ、劇場も幕をおろすことになったのです。


札幌市出身の岩城雄太さんも、中止となった公演に出演していた1人です。
演じるのは、「シェフ・ルイ」役。お城で腕を振るうシェフの役で、人魚姫のお目付役、カニのセバスチャンとも軽快なやり取りを繰り広げます。
故郷の劇場が幕を下ろすこともあり、千秋楽を迎えるのを楽しみにしていたという岩城さん。公演中止の知らせを聞いた時の思いを、涙ながらに語りました。

岩城雄太さん
「あと千秋楽まで1か月を切ったところで、突然中止が決まってしまい、本当にみんなで泣き崩れました。この劇場は僕にとって宝箱みたいな場所だったので、その宝箱の扉を途中で閉めなければいけないと思うと悔しかったです。ただそれより、本番を楽しみにしていたお客様たちのこと思うと、本当に…悔しかったですね」

劇場は札幌市に譲渡されましたが、二度とこの劇場の舞台に立つことはないだろうと思っていた岩城さん。今回、札幌の舞台に再び立てることになり、信じられない思いだったといいます。

岩城雄太さん
「もうこの劇場の板の上に立つことはないかなって半分あきらめていたので、本当に、『あれ?夢見てるのかな』と思いました。中止になった時に一緒に舞台に立っていたメンバーも今回稽古に参加しているので、『一緒にリベンジしよう』という思いが、役者やスタッフなどのカンパニーのみんなにも伝わって、すごくいい稽古ができたと思っています。そのエネルギーはこれまでかかわってきた劇の中でもトップクラスだと思います」

転機となった大切な役

岩城さんは、2013年の初演から、「シェフ・ルイ」を演じています。高校2年生の時、札幌でミュージカル「キャッツ」を見たことをきっかけに俳優を目指した岩城さん。劇団四季に入団してすぐに「キャッツ」の舞台に立つことができましたが、役をおろされて以降、10年ほどオーディションに合格しない日々が続いていました。そうした中、「シェフ・ルイ」役に抜擢された岩城さん。「シェフ・ルイ」は、転機となる大切な役になりました。

岩城雄太さん
「何度も諦めようとか、やめようとか、自分は役者に向いてないんじゃないかと思ったんですけど、周りでサポートしてくれるすばらしい仲間がいて、どんなに苦しくても、その仲間と共に一歩一歩、歩めることのすばらしさ、もうそれに尽きます。それが僕のエネルギーでした。今、しがみついていてよかったなって本当に心の底から思っています」

生の演劇の魅力を感じて

再びふるさとの舞台に立った岩城さん。実は岩城さんが演じるシェフが歌を披露するのは、カニのセバスチャンを追いかける1シーンしかありません。それでも、観客からは「シェフの演技が面白かった」という声が聞かれるほど、コミカルでエキセントリックな「シェフ・ルイ」を演じ切っていました。

新型コロナを乗り越えて、再開した舞台。岩城さんは、生の演劇の魅力を劇場で感じてほしいと願っています。

岩城雄太さん
「このリトルマーメイドは自然と人間とのつながりみたいなものをすごく表現している作品だと思うので、自然に囲まれている北海道で、この空気と空のすばらしさ、海のすばらしさを、北海道の皆さんと共有していきたいですね。このリトルマーメイドは大好きな人と夢をかなえるミュージカルです。僕もまたこの劇場でリトルマーメイドを上演するという夢がかなったので、この舞台を見て、夢をかなえるすばらしさを僕たちと一緒にお客様にも体感していただきたいです。なによりも舞台の魅力は、役者と一緒に人生の旅ができることだと思うので、そんなライブの魅力を私たちと一緒に味わってほしいです」

11月まで続く公演の初日には、劇団四季の吉田智誉樹社長も劇場を訪れていました。新型コロナウイルスの感染拡大により、『演劇は生でなければ成立しない』ということを改めて学んだと話します。

劇団四季 吉田智誉樹 代表取締役社長
「前回の公演を中断するという決断は、非常じくじたる思いがありましたし、つらかったです。ただ、感染拡大の波がおさまったら、必ず北海道で応援してくださった皆さんにご挨拶をする公演をやらなければいけないと思ってきました。こうやって初日を迎えることができてそれがかない、まずはほっとしています。
新型コロナを受けて配信なども行ってきましたが、劇場でお客様とキャストが同じ空気を吸いながらともに作り上げることが、演劇の唯一無二のだいご味だと思っています。日本のパフォーミングアーツ(舞台芸術)は東京に一極集中が過ぎると、劇団四季の創設者・浅利慶太が常々申しておりましたので、東京だけではなくてこれからも日本全国の土地でしっかり仕事を続けていきたいなと思っています」

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