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知床流の魚道で海と森をつなぐ web

  • 2021年11月26日

世界自然遺産・知床を流れる川の落差工に、この秋、魚が行き来するための魚道が取付けられました。地域の木材を使って、ボランティアが人力でつくる、いわば知床流の魚道作りの2日間を取材しました。

初回放送:2021年11月27日

手作業で作る魚道
 

9月下旬、知床の斜里町側を流れる岩尾別川の支流、盤ノ川の落差工で、魚道工事が始まっていました。工事と言っても、そこにある機械は、道具と資材を運んできたトラックが1台とハンドドリルを動かす発電機くらい。つまり、人の力がたよりの魚道作りです。

魚の行き来を遮っているのは、コンクリートでできた2段の落差工です。その落差3メートルを魚が越えられるよう、長さ8メートルの魚道を2日間で取り付けるのが今回の工事です。

魚道を取り付ける落差工(2020年撮影)

海と森をつなぐために

2005年の世界自然遺産登録以来、知床では、サケやカラフトマス、サクラマスの遡上を妨げてきた河川工作物の改良が進められてきました。知床ならではの価値「海の生態系と森の生態系が密接に関係する豊かな自然」を再生させるためです。

岩尾別川でもこれまでに各支流の治山ダムの改良が進み、本流にある林野庁の治山ダム2基の改良が、2022年度に始まる見通しになったことから、知床財団と斜里町は、その上流にある落差工(町が1982年に設置)に魚道を作ることになりました。

流域の自然復元に長く携わる松林さん(知床財団)
「長らくここで魚が上がれないなと思っていたのが、いよいよ一歩進んだなと思っています」

知床100平方メートル運動の地らしく

付近は、日本のナショナルトラスト運動の先駈け、しれとこ100平方メートル運動の地。魚道工事も、その運動の地にふさわしい方法がとられました。

 

しれとこ100平方メートル運動
1977年に斜里町が始めた、全国から寄付をつのり、開拓跡地を買い取って乱開発を防ぎ、森に復元しようという運動。「知床らしさ」のひとつ。

 

知床流のひとつは魚道の材料。今回は100平方メートル運動地に植えた赤エゾマツの間伐剤を使いました。一部は角材に加工して左右の骨組みに。丸太はその間に敷き詰めて底面にしました。

そしてもうひとつの知床流は、ボランティアの手で作ること。コロナ禍のため、広く声をかけることはできなかったものの、町内からを中心に集まった有志は20人、町内の絵本作家や高校生の姿もありました。

斜里高校2年 鬼塚さん
「いつもお世話になっている知床に、少しでも恩返ししようと思って参加しました」

木材を運ぶひと、寸法にあわせて切る人、ドリルで固定用の穴を開ける人、木材を固定する人・・・。
それぞれが持ち場の役割を果たして、「元の自然を復元したい」という気持ちを形にしていきます。

岩尾別川のヤマメ

どんな魚たちがこの魚道を使うことになるのか。工事をする落差工の下流側を調べてみました。
すぐ下流の岩尾別川の落ち込みで見つけたのがヤマメ。

魚道が完成すると、こうしたヤマメやオショロコマが、盤ノ川の上流との間を行き来できるようになります。

さらに、2022年度から予定されている、下流の2基の治山ダムの改良工事が終われば海ともつながり、あがってくるサクラマスが、盤ノ川にのぼることができるようになります。

2日間の工事で完成した魚道

魚道工事2日目。骨格部分ができあがり、いよいよ「川底」になる土のう袋を並べていきます。この土のう、大人が少し気合をいれないと持ち上げられないほど重い。一旦持ち上げたら歩かなくても渡せる距離に並んで、一気に手渡しで運んでいきます。並べた袋の凹凸が、水の流れに変化をつくり、魚がのぼれるようになります。

落差工の一番上から下流の水面まで、8メートル分の魚道に土のうを並べ切ったのは、午後4時。日没前に完成に漕ぎ着けました。
上流川の水の流れを切り替えると川の水が少しずつ流れ始め、やがて下流と上流をつなぎました。

斜里高校2年 佐々木さん
「上ってきた魚たちが、たくさんこの魚道を使ってくれればいいなと思います」

流域の自然復元に長く携わる松林さん(知床財団)
「完成してほっとしています。みなさんの力がなかったらできなかったので感謝しています。この川の自然復元の大きな一歩を歩めました」

記録的な大雨で魚道に被害 でも再び…

この魚道が完成したのは2021年9月29日、その1ヶ月半後の11月10日に知床半島は記録的な大雨に見舞われました。

ウトロで10日の1日に降った雨の量は、11月としては2番目に多い176mm、その日の最大の1時間雨量、27mmは、11月でもっとも多い値でした。
この大雨による増水で、魚道の上の部分が壊れてしまいました。

短時間に集中して降った雨による予想外の被害。しかし、知床財団は、設計を見直して、来シーズン、再び「知床流」で魚道を再建することにしています。
(0755DDch取材班)

 

サケ・マスと魚道をめぐるコンテンツはこちらにもあります。

海と森をつなぐ 知床世界遺産15年
世界遺産登録から15年の2020年の知床。川にある工作物をどう改良してきたのか。世界でも類を見ない、治山ダムの「手作業での撤去作業」を追いました。

手作り魚道の物語 斜里町・美幌町から
斜里町の川で、上流の産卵環境までサケが上れるよう、漁業関係者も加わって手作りしたポータブル魚動とは? 美幌町で、地域の人たちが魚道を手作りして約10年。川の自然を取り戻し、人々に変化をもたらしました。

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